120話、牢屋の裏切り者、キミの目的
牢獄のジンは、俺が手渡したサンドイッチのアルミホイルを外すと疑うことなく口に運んだ。
俺が逆の立場なら、食べるのを躊躇してしまったかもしれない。
逆に言えば、それだけここの食事は酷いのだろう。
ジンは渡されたサンドイッチを数口食べ、水を少量飲み、隣の牢屋に手渡した。
「なにしてんだ? ジンさん」
「ん? あぁ、悪いな。他の奴らも食べれてなくてな……気を悪くしないでくれ」
俺は改めて周りを見れば、やり取りを無言で見ていた人達の諦めたような視線に気づく。
多分、俺とジンさんの会話を聞いてたんだろう……ただ、食料について誰も声を出さなかったことが逆に気になるな。
「悪ぃな、他の奴らも不安なんだ。ただ、ここに連れて来られる奴らは何もしてない奴らばかりだからな、食料が欲しくても限られた食料を奪うような真似はしないさ」
ジンの言葉を聞いて、すぐに俺は他の牢屋にいる奴らの人数を知りたくなった。
「なぁ、ジン、どれくらいの人数が捕まってるか、教えてくれないか?」
「え、いきなりだな、少なくともこの周辺は二十人くらいだろうな……オレとキンザンの牢屋から先の牢屋は離れてるからな、他の囚人と混ぜたくないんだろうな」
「つまり、オレ達から後ろ側の連中の数が分かればいいって感じだな」
「まぁ、そうなるが? 何を考えてるんだ」
不思議そうな表情を浮かべるジンに対して俺は再度、サンドイッチを作っていく。
今回は大量ということもあり、【ストレージ】からボウルと大量のストック用のツナ(マグロもどき)を取り出してマヨネーズを混ぜていく。
シンプルにツナサンドを作る予定だ。ハム、チーズを使った方がシンプルなんだろうが、ずっしりとしたツナサンドの方が食べたって感じになるだろう。
色々と考えながら、できあがったものから、ジンに封を開いたペットボトルの水とツナサンドを投げていく。
食べ物を投げるなんて、今は亡き、俺の婆ちゃんが聞いたら、全力で叱られるだろうが、許してほしい……
ジンは俺の考えを理解して次々に奥に回していく。その際、包みであるアルミホイルの開け方とペットボトルの開け方を伝えてくれていた。
「あ、悪い食べ終わったゴミなんかは、また俺に戻すように伝えてほしいんだ!」
話を聞いていた他の牢屋の人達がそれを伝言ゲームのように奥に伝えていく。
そのおかげで、初めてのことにもかかわらず、上手く進んでいく。
誰も、ペットボトルを持っておこうとしなかったことには驚いたが、本当に犯罪とはほど遠い人達が集められているんだなと改めて感じた。
本来、ここまでスムーズに運ぶなんて思っていなかったため、俺は驚きを表情に出してしまっていた。
その顔を見たジンが笑い出す。
「なんだ、その顔! ははは、本当に変な奴だな。お人好しすぎるし優しすぎる。何よりも感情を顔に出しすぎだ。本当に良い奴なんだろうな」
「いや、そんなできた人間じゃないよ。それよりもこれからどうするかだな?」
不思議そうに俺を見てくるジンは首を傾げた。
「どうするって、何を企んでんだよ?」
「いや、特に何かをするってんじゃないが、取り敢えず動きやすくしたいからなぁ……なんてな」
曖昧な答えだが、俺はそれだけいうと、ジンは軽く頷いてから、俺に返事をした。
「ふむふむ、それくらいの会話の方がむしろ安心だな。考えをみだりにすべて話すんじゃないかと心配してたが、大丈夫そうだな」
会話を続ける最中だった。
手前側……つまり、階段側に続く通路から足音が次第に近づいてくる。
ゆっくりとした足並みでありながらも確実に、こちらへと向かってきているのがわかった。
慌てて、牢屋の隅に移動して、やりすごそうと考えたが、足音は俺の牢屋の前で停止する。
ただ、止まったと言っても俺の牢屋に用事がある者なんて、誰がいるだろうか……
嫁ちゃん達がこの場に来られるなら、話は違うだろうが、そんなことはありえないはずだ。
俺が振り向いた先にいたのは、俺を連行した時にはいなかった警備兵団の人間であり、タレ目で細身の男性だった。
初回の印象が全てを判断することは稀にあるが、真ん丸に膨らんだなら、狸に見えてくるんだろうが獣人ならともかく、男性の狸はリアルだとあんまり見たくないな……
頭でそんな想像をしていると、顔を確認してから「出ろ!」と言われた。
微かな期待をしつつ、質問を口にする。
「誤解が解けたのか?」
俺がそう訊ねると牢屋の鉄格子を持っていた警棒で強く叩かれる。
「無駄口を聞くな……取り調べだ早く来なさい」
微かな期待が消え、言われるままに俺は牢から出されると階段に向かう道を突き進む。
ある程度歩いた先で「止まりなさい」と言われ、足を止める。
「その牢屋に入ってもらいます」
そう言われたので大人しく従う。
一人を相手にするなら、楽に勝てる可能性もあるが、今は地下の牢獄なのだ。
上に向かうための階段前にも間違いなく見張りがいるだろう。
逆らうのは逆に自分の立場を悪くしかねないため、素直に今は従うことしかできない。
わけが分からないまま、無闇に揉めて面倒なことになるのは避けたいしな。
牢屋の中に入ると警備兵は深く息を吐いた。
海外のドラマや映画だと、酷い暴力を振るわれたり、最悪……あんな辱めや、こんなことをされたり……そうなるなら、抵抗しよう!
自分の大切なものは自分で守らないとだからな……
頭の中で色々な想像と恐怖が駆け巡る。しかし、警備兵が俺の前に立つと、小さくつぶやいた。
「本当に困りますね。なんで厄介事が増えるんでしょうか……」
俺は言葉の意味が分からずに首を傾げそうになるが、「許可なく動いた」といちゃもんをつけられたくないため、微動だにしない。
「もう、楽にしていいですよ。キンザン殿」
俺はいきなり呼ばれた自分の名前に身体がビクッと反応した。
さらに、先ほどまで男性の声だったはずの声が女性のものに変わっていた。
ゆっくりと視線を向けると、突然、看守の顔が煙に包まれていき、メフィスの部下さんの1人でタレ目の女の子に変化していた。
「あ、君は!」と声を出した瞬間、慌てて口を塞がれる。
「静かにしてください。他に誰もいないと思いますが、バレたらアタシもマズイんですから」
下から必死に俺の口を押さえる女性に首を縦に振って見せると手がソッと離される。
「本当に勘弁してくださいよ……ただでさえ、潜入任務でヒヤヒヤなんですから」
「悪かったよ……えっと、名前は?」
慌てる女性に名前を尋ねると悩んだようにしてから口を開く。
「とりあえず、名前は内緒でお願いします。潜入中ですので、“キミ”とでも呼んでください」
「ああ、わかった……キミは、なんでここに?」
「簡単な話です。メフィス様の指示で、ドゥム子爵とグリド商会の流れを調べていました」
俺はメフィスが調査を命じていたことを思い出して、納得するとキミは俺を見て再度、ため息をついた。
「それなのに、なんでキンザン殿が捕まっているんですか……新人が入ったと聞いて、牢屋の監視として顔を確認しにきて、本当に焦りましたよ……」
「はは、面目ない……グリド商会が乗り込んできて、一悶着あってな、結果がコレなんだよな」
俺はこれまでの経緯をキミに話していき、看守によっては、飯すら食べられない状態であることなどを細かく伝えていく。
「ふむふむ、話はわかりました。アタシからメフィス様に連絡しますので、もうしばらくは我慢してください。そろそろ戻らないとマズいんで……」
そう言うとキミは、魔導具であろうピアスに指を触れる。
最初に見たタレ目の男性の姿に戻っていく。
「すごいな?」
「感心してる場合じゃないですよ、ほら、服に汚れを付けるために床に転がってください」
「え、なんで!」
「当たり前でしょうが……転がって埃まみれになったら、魔物の血です。これを服に振りかけてください。そうしないと疑われた際に面倒ですからね。お互いに」
言われるまま、床に転がり、わざと魔物の血で服を軽く汚してから、歩いてきた道を戻る。
魔物の血がついた服はすぐに洗わないと落ちないんだが……今回は諦めだな。
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