116話、嫁の強さとコンビネーション
俺は街を見て回り、今の状況がよくないことを再確認した。
街の雰囲気すら変えてしまうグリド商会の力に改めてヤバい思想を持った連中だと感じた。
ただ、それをよく思わない人が大多数なのも事実なので、それは救いだ。
小さな変化はゆっくりと馴染むが、大きな変化は反発が生まれる。
「グリド商会は本当にやり過ぎたんだ……目先の利益につられて、起こした代償は高くつくだろうな」
俺は魔獣“インク・イナメント”の壺を頭に思い浮かべながら、そう口にしていた。
その場を立ち去ろうとした時、不意に背後から声を掛けられる。
「おい、お前ッ! 今、グリド商会に文句を言ってたな」
ゴツイ男性をイメージさせる声に嫌々振り向くと、案の定、屈強な身体つきをした男が3人、腰には全員、剣をぶら下げており、俺を睨みつけていた。
「アンタら誰だよ?」
とりあえず、話を聞くことにして、質問をすると一番前にいた筋肉男Aが一歩前に出る。
「俺らが誰かより、自分がどうなるか心配しな!」
筋肉男Aの言葉に筋肉Bと筋肉Cが笑い出す。
「そうだな。可哀想だがグリド商会に文句を言う奴は痛い目に合わせないとな!」
「ケケケ、可哀想なやつだな、まぁ自業自得だな?」
「はぁ、そんな優しいやられ役のセリフを……お前ら、恥ずかしくないのか、聞いてるこっちが恥ずかしいんだがなぁ」
その一言がイケなかったのか、筋肉男Bが俺を捕まえようと腕を伸ばして駆け出してくる。
「馬鹿にしやがって! 許さねぇぞ!」
ただ、俺も場馴れしてきたと言うべきだろうか、襲われてもあまり気にしなくなってきたなぁ……
俺も構えを取ろうとした瞬間、凄まじい勢いで俺の後方から頬の横を掠めるように拳が打ち出される。
まったく予想外の拳が目の前から迫っていた筋肉男Bの顔面に命中すると、勢いよく吹き飛んでいく。
後ろを慌てて振り向くと、不敵な笑みを浮かべたミトが立っており、ペコ、グーの2人がその後ろで俺に手を振っている。
「「主様、ご無事ですか! 心配したんですよ」」
「お前ら2人で喋んな! 1人ずつ言わないと気持ちが伝わらないだろうが、たく、無事みたいでよかったぜ……心配なんかしてないからな! 安心しただけだからな」
ミトはなんか、素直じゃないんだよな……まぁ、そこも魅力なんだけどな。
素直に惚気そうになる自分にストップをかけつつ、俺は男達に振り向く。
ミトに吹き飛ばされた筋肉男Bが起き上がり、苛立ちを顕にする中、ミトの背後にいたペコとグーが前に出て構える。
「主様、本気でやっていいです?」
「グー、本気でやらないとダメなんだよ? 主様の為にやるんだから」
「あ、そっか、さすがペコだね。わかった!」
2人の中で話が纏まるとペコは愛用の盾と槍を手に握り、グーも両手のガントレッドのついた拳をぶつけ、打ち鳴らす。
ミトに関しては、素手でニヤリと笑いながら、指をボキボキと鳴らしている。
パッと見、どっちが悪役か分からない雰囲気なんだよな……
そんな俺の心を無視するように、男達も腰に装備した剣を抜いていく。
剣を抜いたと同時にペコが盾を構えたまま、走り出し、長身とパワーを使い、容赦ないシールドアタックを繰り出していく。
筋肉男達が慌てて回避しようとした瞬間、ペコのスキル【ターゲット】が発動する。
「スキル……【ターゲット】【反撃の盾】【刃の盾】発動!」
即座に3つのスキルが発動されると、避けたはずの男達が盾に吸い寄せられていくように走り出していく。
それと同時に大きな盾に無数の刃が出現していく。
「このスキルは痛いよ! 反撃の盾は盾にぶつかった物に倍のダメージを与えるんだよ!」
ペコの説明から、盾を装備している際にのみ使えるスキルであり、与えたダメージを倍返しにして、さらに刃で攻撃ができ、しかもターゲット対象になるという激ヤバのコンボらしい。
そんなヤバい盾を構えたペコの反対側から、グーが回り込み、筋肉男達の背中から勢いよくパンチを打ち込んでいく。
グーの凄まじいパンチが打ち込まれ、吹き飛ばされ、盾に吸い寄せられると勢いもあり、ダメージが何倍にも膨らむ。
本当にヤバいコンビネーション攻撃だな……さすがに可哀想に思うな……
ただ、騒ぎが大きくなれば、当然だが、人も集まり出すもので、グリド商会の人間も集まり出していた。
「騒ぎになりすぎたな! みんな行くぞ!」
俺は筋肉男達を放置して、3人に向かって叫ぶ。
「3人とも走るぞ! 早く!」
俺の声で、3人は慌てて走り出していた。
「なんでですか! 奴らに制裁を!」
「ペコの言う通りだよ! 今からでも遅くないよ!」
「お前ら2人! 惚れた旦那の言葉が素直に聞けねぇのかよ! 黙って従うんだよ、わかったか!」
ペコとグーに注意をするミトの姿があったが、まるで中学生の口喧嘩のようにしか見えない……
3人の会話に俺は頭を悩ませつつも全員で解体広場まで戻ることができた。
「はぁはぁ、とりあえず、無事に戻れたな……さすがにやり過ぎだ」
俺の言葉に納得していない様子のペコとグーだったがミトの睨みに対して、渋々といった様子で納得した感じだった。
あまり揉めないといいんだがな……まぁ、大丈夫か?
「頼むから、仲良く頼むぞ?」
俺の言葉にミトが最初に反論すると思っていたが、先に声を上げたのは、まさかのペコだった。
「主様、わかってます。それにミトの言葉が正しいのは理解してるのです……さっきはすみませんでした」
「グーも、ごめん……喧嘩する気はないよ。ペコの言う通り、ミトが正しいのはわかってるし、主様に嫌われたくないよ……ひぐっひぐっ……」
泣き出したグーに慌てて、泣き止むように言いながら、宥めていく。
「泣くなよ。言い過ぎて悪かったよ……落ち着いてくれ。よしよし、大丈夫だからな」
「ひぐっひぐっ……ごめんなさい、嫌わないで、主様……」
予想外の涙に慌てる俺にミトも困った様子で慌てだす。
そんな気まずい雰囲気を吹き飛ばすようにベリー達が戻って来る。
「あ、キンザンさん。戻ってたのね、みんなで探してたのよ? って、何よ……この雰囲気」
ベリーの一言に3人が振り向くと話し出す。
理由を聞いたベリーが軽く悩むと、ゆっくりと微笑む。
「あのね、私達も最初はそんな感じだったのよ。私の出会い方なんて、キンザンさんに水浴びを覗かれたんだから? ふふっ」
ベリーの言葉にミアが笑いながら、反応する。
「懐かしいね。確かにあの頃は、ぼろ宿で色々あったよな。オッサンも自信なくてビクビクしてたしな」
「ふふっ、たしかにヘタレだったし、頼りなくて、まさか、こんな風に好きになるなんて思わなかったわ」
2人の思い出話に、ミト、ペコ、グー以外の他の嫁ちゃん達も興味深々な様子で聞いており、それを目の前で話される俺は生殺しに遭っているような気分になっていた。
俺の羞恥心が限界を迎えようとしていたので話を切り替える。
「今からなんか作るから、一旦、着替えてくるよ。みんなは何が食べたいか考えておいてくれ」
そう言いながら、俺は別室で調理用の服に身を包む。最悪、揚げ物から肉料理までなんでも作る覚悟だ。
あまりに以前の自分が情けなかったため、料理で挽回だと意気込み着替えを済まして、嫁ちゃん達の元に戻る。
「さぁ、何が食べたいか決まったか?」
俺の声に嫁ちゃん達の悪い笑みが浮かぶ、俺は料理以外で嫁ちゃん達の旦那としての勤めを果たすことになると直感した瞬間だった。
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