115話、街の変化、ロックドラゴンとマイクパフォーマンス
俺はすぐに店にいた他の客にも大声で確認していく。
「今、約束された言葉は、この場にいる全員が証人だ。もう、口にした言葉は呑み込めないぞ!」
「うるせぇ! まずは、金貨があればの話だろうが、もしこの場で払えないなら、話は無しだ! ついでに迷惑料も頂くからな!」
大男は怒りに任せた口調で捲し立ててくる。そのため、俺は急ぎ、【ストレージ】から金貨を十枚取り出して大男に見せる。
「問題ない。さぁ、捌いてもらおうか?」
本当に金貨十枚を出すと思ってなかった大男は、焦るように俺を再度、睨みつける。
店内では捌くのが大変なため、店の外にロックドラゴンを移動させていく。
移動させる際に調理用手袋を装備してから【身体強化】を発動する。
ロックドラゴンを両手で抱えあげ、そのまま担いで外へと移動していく。
大男達は信じられない物を見るように驚いた表情を浮かべている。
店の外に俺は解体用の巨大な台を【ストレージ】から取り出していく。
ドスンっ!
周囲から視線が集まる程度には十分な大きな音が鳴る。
誰の目からも分かるような巨大な台の上に置かれたありえないサイズの亀を見て周囲がざわめき立つ。
「おい、なんだよ……あのデカイ亀?」
「わかんねぇけど、砂ガメなんか、わけないサイズじゃないかよ」
周囲に人が集まる最中、俺は過去のブラック企業で培ったイベントで培った呼び込みの基本である演出をしていく。
「さぁ皆様、今より、グリド商会の全てを捌く料理人の代表が、こちらのロックドラゴンを捌いて見せます! 成功したなら、拍手喝采、ご喝采で宜しくお願いいたします!」
俺が声を出した瞬間、興味を持っていた周囲の人々が取り囲むように集まり出す。
当然だが、こういったイベントのノリで必要なのは勢いとマイクパフォーマンス、そして、イベントの成功である。
勢いのあるマイクパフォーマンスは俺がしっかりとしてやった。
あとは本当に捌けるかって話だが、大男は既に話が大きくなり始めた事実に困惑し始めているのが分かる。
そんな大男に周囲から「早くやれ!」と野次が飛び、大男は覚悟を決めたようにロックドラゴンの前に立つ。
ミトと何度も解体していて感覚がバグっていたが、ロックドラゴンは本当にデカイ。
甲羅の高さも大人の身の丈を軽々超える。軽く2メートルくらいはあるだろう。
そんな馬鹿デカイ亀がさらに台に乗せられているため、その高さは3メートルは超える。
ちなみに俺がロックドラゴンを簡単に運んで見せたのは【身体強化】以外にもトリックがある。
【ストレージ】から取り出したロックドラゴンは予め、『調理師ギルド』のルンダさんに持ってくために用意していたモノだ。
そのため、最初から調理用の紐を十字に巻き付けてある。
紐自体は、肉や蟹といった食材を蒸したり煮たりする際に使うモノであり、本来は強度なんて無いはずなんだが、【調理器具マスター】を使うと絶対に切れない完璧な紐になる。
さらに重さも感じなくなり、柔らかい食材も煮崩れしないという完璧な調理アイテムになる。
台に置いた際に、キッチンバサミで紐は切断してある。なので解体には何ら影響はないため、心配はご無用だ。
そんなことを心で説明していると大男が鉈のような巨大な包丁を裏から持ってくる。
「へ、で、デカイだけで殻を砕けばいいだけの話だ! おい! ハンマーも持ってこい!」
大男が店員の男に怒鳴り、すぐに巨大なハンマーが持ってこられると周囲からは歓声があがる。
「こりゃ、すごいなぁ……デカイハンマーだな? 砂蟹を砕くためのやつだな」
「あのデカイ包丁でも、無理だろうからな?」
周囲の声は捌けるか、捌けないかで盛り上がり出すとその声に興味を魅かれた人がさらに集まっていく。
そして、大男がナタ包丁を力一杯に振り抜こうとする。
ガギンッ! と金属がぶつかり砕けるような鈍い音が響いた瞬間、大男が腕を押さえて、その場に膝をつく。
ロックドラゴンの甲羅は鉄の比ではないほど硬い。分かりやすく言えば、木刀で太い鉄骨をフルスイングしたようなものだ。
「ぐあぁ、なんだコリャぁ、クソ! おい、見てないでお前もハンマーで砕け!」
大男の指示で店員の男がハンマーを叩きつけた瞬間、店員の男も同様に、ハンマーを手放して、悶絶する。
こうなれば、見ていたギャラリーもシラケていく。
そのタイミングで、俺が再度声を上げる。
「皆さん、すみません! どうやら、グリド商会の料理人の代表では、こちらを捌くのは無理だったみたいなので、代わりに俺がやってみます! できましたら、拍手喝采でお願いします!」
帰ろうとしていた人々が足を止めて、クスッと笑う。
「いやいや、あの大男が無理だったんだろう? 兄さんにゃ、無理だろう!」
「あはは、違いないな。でも、できるか見てってやるよ。兄ちゃん、頑張れ!」
ノリのいいおっちゃん達の声で雰囲気が変わる。
「なら、兄ちゃんが成功するか失敗するかで賭けをしようや!」
「いいな、なら成功に賭けるぞ! 兄ちゃんしっかりな!」
「いや、無理だろうが、失敗に銀貨1枚だ」
「こっちも失敗に1枚だ!」
「成功させろよ! 兄ちゃん!」
俺が成功するか失敗するかを賭けにする奴まで現れたので、当然乗っていく。
「なら、俺は俺が成功する方に賭けるよ。さて、そろそろやるかな!」
俺は真剣な表情でロックドラゴンを見つめていく。
いつもと違い、今回は【解体】スキルを使用していく。
普段使わなかったのはミトに解体の流れを見せるためであり、本来は【解体】スキルが一番楽なのは紛れもない事実だからな。
位置を決めてから、竜切り包丁を【ストレージ】から取り出していき、【身体強化】と【調理器具マスター】を最初に発動させる。
それからすぐに【ストレージ】を使い甲羅と内側に存在する蓋を収納して、解体用の下準備を一瞬で済ませると一気に【解体】スキルを発動させていく。
竜切り包丁がロックドラゴンの甲羅の繋ぎ目に触れた瞬間、スッと刃が入っていく。
完全に刃を入れきれないギリギリで止まった刃をそのままロックドラゴンの甲羅を一周するように動かしていく。
周囲から見れば何をしているか理解できないだろう。
しかし、一周し終えた俺は竜切り包丁の柄でロックドラゴンの甲羅を軽く小突くと“パリッ”という音が鳴り、ロックドラゴンの甲羅が外れていく。
そこからは、過去に行ってきた神経の切断や肉の解体をスムーズに済ませていく。
あまりの光景に、何人か気絶してしまったのは本当に申し訳ないが、俺は解体したロックドラゴンを素早く【ストレージ】にしまう。
さすがにこの場で仕込むのは無理だからな。
「無事に解体成功になりました。お騒がせしました、すみません」
「凄いぞ兄ちゃん!」
「マジかよ、かぁー、成功に賭けてりゃ、よかった」
「兄ちゃんのおかげで大勝ちだ!」
賭けの結果と解体を成功させた事実から、歓喜に湧く見物人の姿。
俺は予想以上に大事にしてしまった事実を反省しながら、慌ててその場から移動することにした。
興奮した見物人の声から遠ざかるように向かった先は、俺達がこの砂漠のオアシス都市[ガルド・ゼデール]で最初に服を買った爺さんの服屋だ。
辿り着くと爺さんの店は柄の悪い連中に取り囲まれていた。
俺は一旦、様子を伺うように身を潜ませる。
店からは爺さんの怒鳴り声が聞こえてきて、俺が慌てて店内に向かおうと走り出す。
だが、先に店の奥から柄の悪い男達が走って飛び出してきたかと思うと、巨大な火の玉が服屋から飛び出して男達を追っていく。
その後ろから、爺さんが杖を振り上げながら、怒りの怒号をあげていた。
「二度と来るな! あの鼻たれの糞ガキにもそう伝えろ!」
服屋の爺さんの怒りと、服屋から火の玉というインパクトに俺が呆気に取られていると、俺の姿に気づいた爺さんと目が合う。
「なんじゃ、前に来た色男の兄さんかい、一人でどうした? 嫁達に全財産持ち逃げされたんか?」
「されてません! いきなりとんでもない発言しないで下さいよ!」
「すまんなぁ、一人ってのが、意外すぎてなぁ、それで、どうしたんじゃ?」
俺は不思議そうに首を傾げる爺さんにわけを話していく。
「いや、街の雰囲気が数日で変わりすぎてたから、少し様子を見に来たんですよ」
「そうか、心配してくれたんか、ありがとうな。まぁ、さっきみたいに連日のように店を売れって嫌がらせが来とるよ」
爺さんは、店を売るようにしつこく、グリド商会の人間が来ているという事実とそれにより、普段から少ない客足がさらに減った事実を笑って話してくれた。
「爺さん、店を売る気はないんだろ?」
「うーん、まぁ無いな……今更、新しい店を探すのも大変じゃしなぁ」
「うん? 新しい店があれば売る気なのか?」
「ははは、こんな裏の店でも客はたまには来るからなぁ、完全にたたむ気はないさ。ただ、売るなら、店は燃やしてから渡すがな! カッカッカ!」
「怖いことを言うなよ、目が本気じゃんかよ」
「当たり前じゃ、店をそのままに渡したら、儂の服屋だと思って来た客がガッカリするからのぅ」
爺さんは少し寂しそうに店を見つめていた。
「だよな、自分の店だもんな。なんかあれば今は解体広場に居るから来てくれよな。爺さんなら大歓迎だよ」
俺は爺さんと軽く話してから、一度解体広場へと戻ることにした。
「思ったより酷い状態だな……グリド商会はやっぱり、やり過ぎだな」
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