114話、二日酔いにシジミ汁を
夜が明ける。賑やかな食事会も後に飲み会へと変わっていく。その結果、楽しく皆で酔い潰れていた。
俺とフライちゃんは悲しいが、加護があるため、酒も解毒されてしまっている。
なので嫁ちゃん達を最初に連れ帰り、寝かせてから、頭領達を寝床へと運んでいくことになった。
いつの世も、ハンドルキーパーみたいなポジションに落ち着くのが俺らしいと思う。
朝を迎えたフライちゃん以外の嫁ちゃん達はしっかりと二日酔いになっており、朝からかなり辛そうだった。
「大丈夫か……ポワゾン」
最初に根性で起きてきたのはポワゾンだった。ただ、その顔色は絶望を三倍にしたようなものになっていた。
「大丈夫です……すみません、少し……飲み過ぎまして……」
「今日はいいから、ゆっくり休んでくれ、できたら昼までには、みんな、回復してくれると助かるしな」
「申し訳ございません……久々のご主人様と過ごせる時間に、はめを外しすぎました」
ポワゾンはそれだけ口にするとゆっくりとソファーに腰掛けて頭に手をあてた。
この様子から、全員似たり寄ったりな感じになるだろうと予想して、朝食は予定変更で急ぎ“買い物袋”からシジミを取り出していき、味噌汁を作っていく。
こちらの世界に来てまで、シジミ汁を朝から作る日がくるとは……
改めて考えてみれば、こちらの世界で二日酔いの朝に食べたり飲んだりするものってなんなんだ?
そんな疑問が頭に過ぎりながら、“買い物袋”から取り出した冷凍シジミを見つめる。
不思議なことに生のシジミは“買い物袋”から取り出そうとしたのだが無理だった。
生のシジミなら水から煮込めばいい出汁が出たんだがな、本当に残念だ。
ただ、この瞬間、俺は以前に市場で買ったことのある活きのいい魚などを想像するも“買い物袋”から取り出すことはやはりできなかった。
分かってはいたが、“買い物袋”は、やはり少しでも生きているものは取り出せないらしい。
新鮮な切り身は手に入っても魚などを養殖するのは無理そうだ。こればかりはやっぱり少し残念に感じるんだよな、まぁ養殖の知識もないためどちらにしても難しい話だったんだろうが……
色々と考えながら、沸騰したお湯にシジミを入れていく。
なんで、水から煮込まないかと言えば、冷凍シジミは水から煮ると殻が開かない場合があるからだ。
そのため、沸騰したお湯にシジミを入れてしっかりと煮込んでいく。
シンプルに、味付けは味噌のみにしてあるため、ダイレクトにシジミの出汁を楽しめる形に作っていく。
ちなみに冷凍することで、シジミの持つ成分、オルニチンが増加するなんて話もあるため、俺は冷凍シジミもありだと思っている。
最初に水とお湯の話をしたが、温度が足りないと殻が開かないって話なので、冷凍シジミを使う際はしっかり熱々にする必要がある。
生のシジミの場合は逆に弱火でしっかり煮てアクを取る作業が必要になるので手間も増える感じだな。
「よし、煮えたな、鍋を火から移動させておかないとな、熱いうちに味噌を溶かしてっと……」
シジミ汁は味も効能も凄いが、何より仕込みが終わっていれば、数分で完成するのも魅力だ。
濃いめの味噌とシジミを煮込み、しっかりとエキスを味噌汁に溶け込んでいるかを確認していく。
味見をしていくと、望んだ味になっていた。シジミ独特の癖のある味わいが五臓六腑にしみわたる。
味見を済ませてから、次におにぎり作りを開始する。
米は【ストレージ】から取り出したので熱々のツヤツヤだ。
火傷に注意しながら塩水を付けた手で優しく握り、おにぎりの具材に梅干しとオカカを練り合わせた梅肉和えを入れていく。
シジミ汁に梅肉和えのおにぎりを朝食として作っていき、起きてきた絶望的な表情の嫁ちゃん達に出していく。
「にゃあぁ、食欲がないにゃ……」
「うぅ、オッサン、朝からそのニオイ厳しいってば……」
立派な二日酔いだな。反応があれだが、とりあえずは食べてもらわないとな。
ただ、ベリーだけは容赦なく、シジミ汁を飲んでいく。
「はぁ、生き返るわぁ、二日酔いでシジミ汁を飲めるなんて、本当に助かるわね」
ベリーはさすがだな、というか日本を知ってるだけあって、悩むことなく飲み干していく。
その姿に他の嫁ちゃん達も口をつけていく。
「おぉ、なんだよこれ……オッサン、今まで食べた何よりも不思議な味がするんだけど……」
「なんか、変な味だにゃ……でも、嫌いじゃないにゃ〜」
感想は想像通りだったが、苦手って意見はないみたいで良かった。
シジミ汁が思いの他、好評だったこともあり、嫁ちゃん達の表情も明るくなっていた。
ただ、ナギは殻ごとシジミをバリバリと噛み砕いて食べてしまい、それを見たペコとグーの二人も真似しようとしていたが、慌てて止めた。
次からは、先に食べ方を教えることにしようと心に誓ったのは言うまでもない。
俺達は、出だしからズッコケる形になったが、とりあえずは、昼から本気で行動開始だな。
嫁ちゃん達を休ませて、先に早朝の街を歩いて見ていくことにする。
数日でそこまでの変化はないだろうと考えていたが、俺の予想を裏切る形で[ガルド・ゼデール]の街は確実に変化していた。
グリド商会の文字が書かれた看板が以前は別の店舗が入っていた店や空き家に並べられており、外から中を覗くと店員さんも別人に変わっていた。
突然、店の前を通る人から声を掛けられる。
「アンタ、余所者だろ? この店は辞めとけ……」
いきなり始まった忠告に驚きながらも、軽く会話をしていく。
「どういうことですか?」
「ああ、いきなり言われても分かんないよな。悪い悪い、ここ数日でこの街にあった飲食店なんかが、グリド商会って大商会に買われまくってな」
話しかけて来た男は、残念そうにそう語ると軽くため息を吐いた。
「はぁ、数日で店の雰囲気も経営者も変わっちまって、高い、不味い、つまらないの最悪な店が増えちまったんだ、兄ちゃんも気をつけな」
男は本当に残念そうにそう語ると歩いていってしまった。
俺達が少し離れてる間に街で起こっていた変化、予想もしていなかった状況を目の当たりにして、本当に驚いたが不味い飯屋ってのが逆に気になるのは悪い癖だと思う。
怖いもの見たさというやつだろうか……忠告されたことにより、不味い料理の方に興味が湧いた俺は店の中に入ってみることにした。
店内からは、微妙な香辛料の香りと獣臭い肉の臭いが漂っており、かなり不安になる。
席に座ろうとすると男の店員が声をかけてくる。
「失礼ですが? 当店はかなり値段が張りますがお支払い大丈夫ですかねぇ……失礼ながら、あまり支払いが可能そうには見えませんが?」
そう語るとニヤリと嫌味な笑みを浮かべる男、俺は不快な気持ちになりながらも、眉間にシワを寄せて会話を続ける。
「それは見る目がないようだな。それにそんな大口を叩くような店には見えないがな?」
自分なりに返事をすると、店員が苛立った顔を浮かべる。
「おい! 調子乗んなよ。ウチはどんな食材も捌ける一流の料理人が料理する店舗なんだよ。テメェみてえな、余所者がグダグダ言うんじゃねぇよ!」
「どんな食材でも? 本当か……今、言ったよな?」
そう聞き直すと、面倒くさそうに店員が返事をする。
「当たり前だろうが! 砂漠ガニだろうがレッドスコーピオンだろうがなんでも捌けるってんだよ!」
男は堂々とそう発言したが、砂ガニやレッドスコーピオン、他のサンドワームなどもだが、市場に足を運べば、大概は捌ける人物がいる。
余所者だと判断されたからそう言われたのかは分からないが、小さな個体なら子供でも解体は可能だ。
「なら、持ち込みで捌いてくれ、もしできるならな」
俺はそう口にすると【ストレージ】からロックドラゴンを取り出して床に置く。
巨大なロックドラゴンを目の前にして、腰を抜かす店員の男、そんな騒ぎを聞いて包丁を手に握った大男が裏側から出てくる。
「どうしたんだ! な、なんだこりゃあぁぁぁぁ!」
奥から出てきて早々に有り得ないものを見た男は驚愕して腰を抜かしていた。
「アンタ、この店の料理人か? それとも店長か?」
できる限り低い声で質問をする。大男は、俺の声で冷静になったのか立ち上がるとすぐに睨みを効かせるように俺の質問に返事をしてくる。
「おう、そうだ! 人の店で好き勝手しやがって!」
「あんまり、大声を出すなよな、先になんでも捌くって言ったのは、アンタの横で腰を抜かしてる店員だしな、それより捌けるんだよな?」
その言葉に大男が店員をチラッと視線を向けた。
店員の男が首を縦に振りながら、謝るように下を向く。
大男も理解したように軽く悩むとすぐに口を開いた。
「わるいが、ウチは持ち込みはやってないんだ。何があったか知らねぇが、そいつを持って帰りやがれ!」
大男はドスが効いた声でそう口にする。
正直、本来なら関わらない方がいい見た目の大男だったが、俺は引く気なんて微塵もなかった。
「先に喧嘩を売ったのはそっちだろう? それに本当になんでも捌けるのか気になるしな」
大男は俺の言葉にさらに苛立ちを顕にしていく。
「や、やってやるよ! ただ、その亀を捌いたら、代金は頂くぞ! 特別解体料として、金貨十枚はもらうがいいんだな!」
大男が勝ち誇ったような表情を浮かべる。
「今の言葉忘れんなよ?」と俺は笑い返した。
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