113話、カツカレーと新たな覚悟
メフィスの部下が報告したグリド商会という名前に俺は嫌な繋がりを感じていた。
予想外の流れとは、意図せずに起こりうることだということも理解しているつもりだ。
ただ、またズッキーニの野郎と、ご対面になるかもしれないと思うと気怠い気持ちになるんだよな。
無駄にマイナス思考を頭に巡らせているとメフィスが後ろから肩を叩く。
「そういえば、忘れてるわけじゃないだろうが、さすがに謁見についての話を決めておきたいのだがねぇ」
「え、今? その話はまた今度って、ことになっただろう?」
「貴方という人は……そんなわけにはいかないでしょうが! 国王陛下との謁見なのですよ!」
長々と説明されたが、ある程度、割愛することにした。
ただ、わかったのは、メフィスの部下さんが、王都に戻った際に、謁見について釘を刺されたようだ。
本当に申し訳なく思うが、俺はメフィスにはっきりと言葉で伝える。
「悪いな、今回のグリド商会の因縁を何とかしないと、謁見とか何とかは無理だ。こんな状態で国王陛下に安心して会えないからな」
そう、国王陛下とやらに会うとしても、今の複雑な状態で問題を引き寄せるような真似はしたくない。
何よりも、砂漠のオアシス都市[ガルド・ゼデール]の頭領達も心配なんだよな。
食事なんかは、解体広場に新たに店を出した『星降る砂漠亭』の女将さんに任せてあるから大丈夫だろうが、全体を考えると不安しかないんだよな。
俺の考えを伝えた途端、メフィスは静かに頷くとその場を後にした。
思ってた以上にあっさりとした態度に俺は首を傾げてしまった。
「珍しく、あっさりだな? まぁ、とりあえず……ミトのことも気になるんだよな、俺達も[ガルド・ゼデール]に向かうとするか」
その一言で嫁ちゃん達がすぐに動き出していく。
目にも止まらぬ素早い動きでその場を後にした嫁ちゃん達を見て、不思議そうに首を傾げる俺にフライちゃんが今の状況を説明してくれた。
「きんざんさんは、本当に鈍いですよね。さすがにびっくりですよ。皆さんは、置いていかれたくないだけなんですよ」
フライちゃんが発した一言に自分の今までの行動を振り返る。
──確かに、俺ってば、全員で行動してるようで別行動ばかりだな……
「まぁ、そういうことですね。今回は留守番にならないように皆さんは、急いで準備に向かったというわけですね」
説明されてから、30分もしない間に嫁ちゃん達が俺の元に戻ってきた。
準備と言っても『フライデー2号店』を経由して、転送陣で屋敷に戻り、必要なものを持ってくるだけだ。そのため、さほど時間はかからなかった。
むしろ、ドーナが全員の荷物を影に入れてきたらしく、手荷物らしい荷物は普段から装備している武器のみのようだ。
準備が終わった時点で、俺達は世話になった『レイラホテル』のオーナーであるレイラや警備兵団のブルーノ達に挨拶を済ませていく。
『フライデー2号店』に到着すると、ダインやガルダ達を含め、潰れた孤児院の子達が集まっていたので、これからの行動について伝えていく。
『フライデー2号店』には、屋敷にある程度の食料が用意してあると説明する。
少し手間にはなるが、食材の補充は問題ないことを話していく。
本来なら2号店に食糧を置いていくのが正解だろう。ただ、災害直後であり、安易に食糧を置いておくことを避けた感じだ。
軽く挨拶を済ませると俺は孤児院のシスターであるフィーネに一つ、大切な頼みごとをしていく。
「あ、悪いんだがフィーネさん。ガルダのことを頼むよ。ガルダの奴、フィーネさんが絡むと無茶するからさ」
「え、あ、あの……は、はい、頑張ります!」
どうやら、フィーネさんも満更でもないらしいので、少しホッとした。
恋は豪華な船旅みたいなもんだからな、ガルダが沈没しないように願うばかりだな。
頑張れガルダ!
全ての挨拶を終わらせて、すぐに俺達は転送陣に乗って移動を開始する。
「よし、いくぞ!」
掛け声と共に転送陣が起動すると光に包まれて、一瞬で砂漠のオアシス都市である[ガルド・ゼデール]へと到着する。
久しぶりにやってきた[ガルド・ゼデール]は既に夜になっており、俺達の目の前には戻ろうとしていたのであろうミトの姿があり、驚いた表情を浮かべていた。
「い、いきなり現れんなよ! びっくりしただろうが! 心臓が止まるかと思ったじゃねぇかよ!」
いきなりキレ出したミトに軽く謝り、全員で戻ってきたことを伝える。
ミトは顔をムスッとさせていたが、頬がしっかりと赤くなっており、口元が笑っているので、本当にわかりやすいな。
「ミト、こんな時間から悪いな、ただ、頭領や『星降る砂漠亭』の女将さん達にも挨拶したいんだ、一緒に来てくれるか?」
「あぁ、そうだよな。挨拶は大切だしな、挨拶できねぇ奴はクソ野郎だからな! さすがは、旦那様だな……本当に……ふん!」
怒るか照れるかどちらかにして欲しいなぁ……
俺とミトのやり取りを不思議そうに眺めるミアとニア達にベリーがクスッと笑う。
「あれがツンデレよ。ミア、最大のライバルはニアじゃなくて、ミトかもね。ふふ」
「え、どういうことだよ! ボクがオッサンの一番じゃなくなるってのかよ!」
焦るミアにベリーが軽く笑みを浮かべる。
「冗談よ。ただ、キンザンさんって、本人が意識してないのに、女たらしなのよね……」
「それに関しては間違いないな。ボクもそう思うよ」
「ニアも同意見だにゃ〜キンザンは強い雄で優しいし、最強だにゃ!」
会話が終わると久しぶりに頭領達に挨拶にいく。
頭領達は俺の姿を見て、笑いながら気さくに話しかけてくる。
「お、帰ったんだな。兄ちゃんに頼まれた通りに仕掛けをしてあるからな」
頭領は生簀になっていた倉庫を見ながら俺にそう言うと笑みを浮かべる。
数日だが離れていたため、心配していたが、杞憂だったらしい。
頭領達は黙々と仕事をこなしていたらしく、本当に頭が上がらないな。
俺達は着いて早々だが、ミトの解体場で仮眠を取らせてもらうことにした。
仮眠から目覚めてすぐに、晩飯のメニューを考える。
人数も多いため久しぶりのカレーにすることに決めると、すぐに解体広場の真ん中で大鍋を使って豪快に調理を開始していく。
肉も野菜もゴロゴロとした具沢山のカレーが次第に美味そうな匂いを周囲に漂わせていく。
カレーは不思議だよな。食べてたら元気になるし。匂いを嗅いだら食べたくなるんだからな。
俺は香辛料を調節しながら、幾つかの小鍋を用意してベースになるカレールーを別々に作っていく。
「なぁ、オッサン、なんで小さい鍋に入れるんだよ?」
ミアが不思議そうに質問してきたため、優しく教えてやることにした。
「単純に少し冷ましたいのと、辛さによって、幸せな気分になるか、ならないかが変わるからかな? 早い話が甘口カレーと辛口カレーの2種類を作るつもりなんだよ」
そんな俺の答えにナギが嬉しそうに抱きついてくる。
「マイマスターのそういう考え方、好き」
ナギは辛いのが苦手だから、甘口カレーがあることが嬉しいらしい。素直に喜ぶ姿は本当に可愛いよな。
「ズルいの! ドーナも甘口が好きなの! ナギちゃんだけギュってしたらダメなの!」
そう口にするとドーナまで抱きついてくる。慌ててしまったが、すぐにベリーが2人にストップをかけてくれた。
「料理中に抱きつかないの! 2人とも火傷とか怪我したら、一番、悲しむのはキンザンさんなのよ!」
ベリーの言葉に反省する二人、そんな姿を見ていたポワゾンが2人の頭を撫でている。
「大丈夫ですよ。ご主人様は心配はしますが、嫌ったりはしませんから、落ち込まないでください。ベリー様の言葉もしっかり覚えたら、ご主人様は喜びますよ」
ポワゾンの言葉に頷いた2人はそれからは静かに調理風景を見てくれていた。
賑やかな調理時間になったが、無事に複数のカレーが完成する。
ただ、残念なことにカレーは色で敬遠されやすいため、今回はココナッツミルクとパプリカを入れて色合いを誤魔化している。
早い話が、見た目はグリーンカレーみたいな感じにしてある。
そして、フライデーとしては、カレーにはやっぱりカツを入れたい!
カツカレーが無性に食べたくなった俺は大量のオークカツの仕込みを揚げていく。
大量のカツがカレーのライスに盛り付けられていき、最後にカレーを一気にかけていく。
頭領達も呼んで、解体広場での賑やかな食事が始まる。
最初は見た目でやはり、遠慮されたが頭領が最初の一口を食べた瞬間、スプーンが加速していく様子に他の大工達もカレーを食べ始める。
そこからは、すごい勢いで食べ始める。あっという間におかわりの嵐になっていく。
『星降る砂漠亭』のミネさんも手伝ってくれたお陰で本当に助かったが、やはりカレーとは魅力的なものなんだと再確認する。
俺も嫁ちゃん達と笑顔でカレーを頬張っていく。
久しぶりの笑顔だけが溢れる食事、改めて幸せな食事の素晴らしさを知る結果になった。
砂漠の街に賑やかな時間が過ぎていき、いよいよ、明日から行動を開始する。
色々と揉めてきたが、グリド商会とバチバチにやり合わないとだな。
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