111話、久々のお風呂とメフィスの愛情
やっと全てが終わり、問題となっていた水騒動も解決することができた。
俺は隔離施設が開放された後に意識がなくなり、そのまま眠りについていた。
さすがに疲労と肉体限界だったようで、寝てしまったタイミングすら覚えていない。
目が覚めると嫌でも見慣れた元ドゥム子爵邸のベッドの上だった。
前回のデジャブかと言いたいくらい、同じ状況だった。
目覚めた俺に気づいたメフィスの部下さんが立ち上がる。
以前と違う点は、今回は部下さんが先に声をかけてくれたことだった。
「目覚められましたか。良かったです」
可愛らしい女性の声に軽く緊張してしまうのは、男の性なんだろうな……
「奥様方とメフィス様にすぐに報告致しますので、そのままお待ちください。あと、飲み物も用意しますので」
そう語るとメフィスの部下さんは部屋から退室する。
それから数分もしない間に、廊下から“バタバタバタバタ”と大勢の駆け足が聞こえてきた。
程なくして、扉が勢いよく開かれる。
「オッサン! 大丈夫か」
「だから言ったにゃ! キンザンは無理ばかりだからダメなのにゃ〜!」
元気なミアとニアの二人、ニアに関しては泣きながら俺を怒っているな。
「ミアとニアの言う通りよ、キンザンさん。本当に最近倒れてばかりなんだから、少しは自分を大切になさい?」
「ベリー様の言う通りかと……ご主人様は、やはりと言いますか、色々と自覚が足りません。少しは大人しくしてください。激しいのは夜だけで十分です」
久しぶりの毒メイド感を出しまくるポワゾン。発言の一部はスルーするとして、本当に迷惑と心配をかけてしまったな。
「悪かったな、次から気をつけるよ」
そんな一言を発した瞬間、腹部に凄まじい勢いで飛び込んでくるペコとグーの二人に俺は驚かされた。
「「主様!」」と二人同時で喋ったかと思うと珍しく別々の会話が開始される。
「いつも、本当に心配なんですよ!」
「今も、本気で心配してるんですよ!」
「あ、わかってる、本当にごめんな……二人にもいつも心配かけてるよな。ありがとうな」
二人を両手で抱きしめてから、頭を撫でながら優しく感謝の気持ちを伝える。
こんなやり取りを全員と繰り返し、ナギとドーナも俺からの頭ナデナデをほしがり終わった時点で、ミトとフライちゃんがこの場にいないことに気づく。
「あれ、フライちゃんとミトは?」
俺の質問にベリーが返事をした。
「フライちゃんは、なんか、ロゼって子と話があるって朝から出かけたきりね……ミトも朝から、また砂漠のオアシス都市[ガルド・ゼデール]に向かってるわ」
「そうなのか、ただ、今は色々と気になることばかりで、グリド商会のこともあるしな、少し心配だな」
俺が少し慌てた様子でそう口にすると軽く注意が入る。
「落ち着きなさいよ。ミトからしたら、生まれ育った街なんだから、焦ることないわ。まあ、夜になっても戻らなければ、本人からもなんかあったと思うように言われてるし」
冷静にそう語るベリーに俺は過保護すぎるのかと感じながらも、俺は束縛してるんじゃないかと別の不安が生まれてしまった。
落ち込む俺の姿に嫁ちゃん達がくすくすと笑い出していく。
「また、なんか悪い方に考えてない? キンザンさん、顔が難しくなってるわよ?」
そんなベリーの言葉にミア達も頷くと俺を指さしたミアが大きく声を上げる。
「いいか、オッサン! ボク達はボク達でオッサンを選んだんだからな! 勝手に悩むなよな」
まるで心を読まれてるような内容に俺は驚きながらも久しぶりに集まる嫁ちゃん達の姿を見て、そんな彼女達の笑顔にいつも救われてると改めて感じた。
「ああ。わかってるよ。本当にありがとうな」
俺がニッコリと笑ったタイミングで“パン!”と言う、手を叩く音が聞こえ、入口に視線を向ける。
部屋の入口には呆れたような表情のメフィス、ニヤつくロゼ、不機嫌そうなフライちゃんの姿があった。
「話は終わりましたかなぁ、さすがに再会の喜びを邪魔する気はなかったのですが、素直じゃない女神が、拳を握り始めましてなぁ」
メフィスはそう言いながら、腕組みをしていた手を横に伸ばして指をフライちゃんに向ける。
「別にわたし、怒ってないですからね! 皆と話したいなら、朝まででも話し続けたらいいですし、ミトさんみたいに心配されないからって、怒ったりしませんからね」
明らかに心配されなかったことを気にしているんだなと理解して、俺はフライちゃんに手招きをする。
不機嫌そうな態度をとりながらも、しっかり近づいてくるのだから、本当に可愛い嫁ちゃんだと思う。
「ふぅ、仕方ありません。我輩達は席を外しましょう、行きますよロゼ。2時間ほどしたら戻りますので、では……」
メフィスはそう言い残すと室内の見張りの部下も含めて部屋から出ていく。
それを待ってましたと言わんばかりに、ポワゾンが『防音の魔導具』をどこからか取り出して扉の前に置く。
「ご主人様、皆……ずっとお預けでしたから、短い時間を無駄にしないために急ぎましょうか……ふふ」
久しぶりに見るポワゾンの悪い笑顔、それに対して、嫁ちゃん達が動揺すること無く笑っている事実に、すべて最初から決めてたんだなと、理解した。
久しぶりの時短型大運動会は、ミト以外の全員参加でしっかりと行われていく。
内容はさすがに言えないが、素晴らしい光景が広がり、全てが最高だったとだけ言っておこうと思う。
嫁ちゃん達の可愛さと美しさ、色気と欲望に支配された二時間を楽しみながら、運動会は終了した。
俺達は、戻ってきたメフィスの部下さんから「風呂に入るように」と、伝言を預かってきましたと言われ、風呂に向かう。
この二時間には、大浴場の風呂が沸く時間も含まれていたらしく。
水不足が嘘だったように湯気を上げる巨大な風呂場に俺は感動した。
当たり前だが、男と女で入浴先は別々になっており、俺が入ると既にロゼとメフィスが先客として入っていた。
「メフィスにロゼ? 話し合いまで会えないと思ってたよ。風呂ありがとうな。メフィス」
身体に湯をかけて、置かれたスポンジ替わりの瓜を干したような物、簡単に言えば『ヘチマたわし』だろう。
ヘチマたわしを柔らかくなるまで、お湯に浸してから、身体を洗っていく。
置かれていたのは石鹸のみで、シャンプーなんかは無さそうだな、このまま髪まで洗っていく。
ただ、ここでハプニングが起きる。お約束というべきだろうか、女湯から嫁ちゃん達が「シャンプーちょうだい」と、当たり前のように男湯に向けて声をかけてくる。
「お、おい、今かよ……ちょっと行ってくるわ……すまん」
「はぁ、貴方という方は、我輩達はいいから、その“シンプー”でしたか? それを渡してきてあげてください。女性を待たせると厄介ですからなぁ」
メフィスの言葉に頭を下げつつ、女湯に向かう。
軽く声を掛けてから、シャンプーを渡そうと女湯に足を踏み入れる。
女湯には嫁ちゃん達以外にもメフィスの部下さんであるお姉ちゃん達まで入っており、俺はシャンプーを置くと慌てて男湯へと走っていく。
男湯について、すぐにメフィスへと向かっていく。
「なんで、お前の部下の姉ちゃん達が入ってるのを言わないんだよ! 普通に全部見ちまったぞ!」
俺の焦る様子にメフィスが不思議そうな表情を浮かべる。
「なんですか、いきなり? 我輩の部下達は護衛として同行させています。そんなに奥方と同じ湯に入れるのが不快だったのですか?」
メフィスの言い分から、からかったわけじゃないことが理解できる。
俺はこの世界にきて、最初に水浴びをした際のやり取りを思い出していた。
この世界、そう言えば、恥じらいというか、そこら辺の価値観が少し違うんだった。
「いや、嫁ちゃん達以外の女性が入ってると思わなくてな、びっくりしただけだ。すまん」
「おやおや、意外ですなぁ? 十人も嫁を抱える性豪が女性の体に動揺とは、本当に見た目では分からないものですなぁ」
そう語るメフィスは傍にきて、耳元でつぶやく。
「我輩の部下達は、皆、美しいですが手を出さないでくださいねぇ」
予想外の発言に俺が“クスッ”と笑うとメフィスは真面目な顔で笑う。
「あの子達は我輩が拾い、育てた大切な娘達です。他にも息子同様に育てた部下達も我輩の大切な家族なのですからなぁ」
「そうだったのか、勘違いしたよ。メフィスの恋人みたいな子もいるのかと、ははは……」
「恋人? ふふふ、何を言い出すかと思えば、彼女達がもし、そんな存在を連れてきたなら……」
「──連れてきたら、どうするんだ?」
怖いもの見たさの質問をしてみるとメフィスは笑った。
「そうですなぁ、全力で相応しい存在か我輩が直々に手合わせをするでしょうなぁ。弱い輩に大切な娘達を任せられませんからねぇ、未来が楽しみで仕方ありませんなぁ」
俺はメフィスの行き過ぎた愛情を聞いて、部下のお姉ちゃん達に少し同情しながらも心の底で応援することにした。
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