105話、二匹の魔獣“インク・イナメント”カビの恐怖
全員を無力化したフライちゃんはすぐに俺、メフィス、ロゼを集めてから軽いお説教が開始された。
態度が悪いという理由から、メフィスとロゼが再度、フライちゃんに吹き飛ばされる結果となってしまった。
話し合いはフライちゃんに全ての決定権が与えられ、勝負のルールが決められていく。
勝負の方法は、この水質汚染についての原因調査と答えに繋がる手掛かりを見つけること。
もしくは、その原因を排除した方が勝ちとなる無茶苦茶なものだった。
「シンプルでわかりやすいのが大切ですよ!」とフライちゃんは口にしたが、正直、無理ゲーだと俺は思う。
調査や対策は何とかなるだろうが、それとは別に、原因そのものを見つけるのは少し難易度が違う。
だが、俺が思うよりも、メフィスとロゼの二人はやる気に満ちており、先に回復したメフィスが単独で森の木々を飛びながら移動を開始する。
置いていかれた部下さん達が慌ててついて行こうとするが、メフィスが大声で叫ぶ。
「これは我輩とロゼの勝負になります! 貴方達は貴方達で調査をしなさい! わかりましたね!」
まさかの発言に驚きながらも俺も他の皆も森の彼方に消えていくメフィスを見つめていた。
メフィスの姿が見えなくなると同時にロゼが準備運動をするように身体の曲げ伸ばしを開始する。
「メフィス君は本当にいつも早いなぁ……でも、僕ってば、メフィス君と追いかけっこで負けたことないんだからさ!」
ロゼは準備運動を終わらせた途端、両手を川に向けると最初に出会った時と同じように水を水球にしてから姿を変えさせる。
水球はその姿を水牛に変化させると、ロゼを背中に乗せて、川を上流に向かって駆け出していく。
結局、俺達はその場で2人が上流を目指して移動する姿を見ていた。
「って! きんざんさん、見てる場合じゃないですよ。追わないとですよ!」
急なフライちゃんのツッコミに俺も慌ててナギに抱えてもらい、フライちゃんはウルグに背負われて移動を開始する。
正直、あの2人を自由行動にする方が心配だと言いたかったが、それを言葉にすれば、また別の問題が浮上しそうなので黙っていることに決めた。
俺達も森の中を進んで行く。森の中は凄い湿気に包まれており、太陽の日差しが遮られていて、木々からはカビ臭さが漂うようだった。
「きんざんさん、少しおかしくないですか……幾ら嵐で雨が大量に降ったとしてもこんなにカビ臭くなるものじゃありませんよ」
「いや、カビは数日で目に見えるくらいには繁殖するんだ。ただ、おかしいのは普段から繁殖してたならわかるが、いきなり増えたように見えることだ」
自然界のカビには役割がある。その役割から逸脱したようなカビが森の中に広がる現状が一番やばい事実なんだ。
一般的な知識として、自然界のカビ、特に『真菌』は、自然界での有機物分解者としての役割がある。
この『真菌』は非常に重要だ。植物の枯れ葉、動物の遺骸などを分解して、土壌に栄養を戻すことで、栄養循環を支えているからに他ならない。
早い話が、自然界のカビはあって当たり前であり、なくてはならない存在なんだ。
今、目の前に広がるカビはアオカビだ。このカビは果実を腐らせる原因にもなるため、飲食関係者だけでなく、多くの食に関わる人にとって最悪のカビの一つだと言える。
俺は嫌な予感を覚えると同時にあることを思い出して、すぐ、全員に止まるように指示を出す。
「みんな止まってくれ! すぐに集まってくれ」
すぐに全員が動きを止めると俺はメフィスの部下達も含めて、全員分のペットボトルの水を“買い物袋”から取り出していく。
本来はメフィスの部下さん達には見せたくなかったが、今はそんなことを気にしている場合じゃないと判断したからこその行動だった。
水のペットボトルを渡してからすぐに開け方を説明していく。
最初は不思議そうに見ていたメフィスの部下さん達だったが指示に従って水を開封していく。
「みんな、キャップを外したら、口をしっかりゆすいでくれ!」
俺の言葉に不思議そうな表情を浮かべる一同に説明をしていく。
「俺達は今、カビを吸い込んでるはずなんだ。最初にしっかりと口をゆすいでから、吐き出してくれ。それが終わったらペットボトルの水をしっかりと飲んでくれ」
意味が分からないという表情を向けられたが、ナギが最初に悩まずに言われた通りに行動をすると、フライちゃんとドーナ、ウルグ達が続いて行っていく。
メフィスの部下さん達も、互いに頷くと同様に行っていく。
全員が水でしっかりと口をゆすいだのを確認してから、ペットボトルを“リサイクル袋”に回収していく。
回収後、防菌マスクを“買い物袋”から取り出して配っていく。
「これを口につけてくれ、耳に引っ掛けるんだ。あとゴーグルもつけといてくれ」
俺はできる限りのカビ対策を全員に行うと再度移動を開始する。
ある程度、進んだ先、さらに広がるカビの世界──正直、恐ろしくなった。
地面には森の生物達が横たわり、死骸にもカビが大量に繁殖している。
「ひでぇ、なんでこんなことになってんだよ」
俺達は目を背けたくなる悲惨な森の現状を横目に突き進んでいく。
そんな最悪な状態を目の当たりにした直後、遠くない位置で粉塵が舞い上がる。
陽の光を遮るように広がっていた頭上の木々が粉塵に揺れて、葉が散っていくと陽の光が差し込んでくる。
「ナギ、悪い。森の上に運んでくれないか!」
「わかった。いくね。マイマスター、掴まって」
ナギに連れられて俺は木々の上へと移動する。そこには巨大な白い龍を思わせる生物と戦うメフィスの姿があった。
「なんなんだよ、あれ……まるで龍じゃねぇか」
ただ、俺の言葉にナギが別の存在を語った。
「インク・イナメント……汚れの魔獣」
「え? アレの名前なのか」
「わからない、でも、あの2体の姿、本で見た……2体で一つの悪魔みたいな魔獣、倒しても死なない……」
ナギの言葉が本当なら、かなりマズい……死なない魔獣ってなんでそんな奴が森にいるんだよ!
俺はすぐにもう1体を探す。ただ、メフィスが相手している白い龍以外の姿は見当たらない。
「どこにいるんだ。クソ!」
焦る俺の目に別の位置から水柱が吹き上がり、そちらに視線を向けると黒い龍のような生物が視界に入る。
「ナギ! アレが片割れなのか」
「うん、アレ!」
俺は2体の位置を確認してから、すぐにフライちゃんに現状を報告する。
「フライちゃん! ヤツらが多分、今の元凶だ! 何とか二人にこのことを知らせないと」
フライちゃんが浮遊して、俺の横まで飛んでくると、2匹の魔獣を目視で確認していく。
「また、厄介な存在ですね……なんであんなやつが、はぁ、わたしの管理不足ですね……」
フライちゃんは“インク・イナメント”の存在を把握しているようだった。
何かを決めたようにフライちゃんが目を閉じると、ゆっくりと息を吸い込み、声を張り上げた。
「貴方達! 相手が何か理解しているなら協力なさい! 今、変に協力を拒むなら、わたしが全力で貴方達ごと吹き飛ばします!」
その言葉には、間違いなく、殺気が乗せられていた。聞いてて、俺までゾッとした。
フライちゃんの言葉を聞いて、一瞬、動きを停止して離れた位置から互いを見合うメフィスとロゼ。
「ふざけるなぁぁぁ! 幾ら女神でも横暴ですよ! 我輩は認めません!」
「そうですよ! 僕にもプライドがあるし、メフィス君と決着をつけたいんです!」
二人がフライちゃんに反論した瞬間、フライちゃんが再度、錫杖を握る。
その手は怒りに震えており、俺は急いで声を上げた。
「ナギ! すぐに地上に降りてくれ、ここにいたらやばい!」
「わ、わかった」
ナギは慌てて、俺を抱きしめて地上に向けて木からジャンプする。
着地した瞬間、フライちゃんが一瞬、俺達の位置を確認すると、薄い結界が俺達全員を包み込むように形成される。
「さて、おバカさんも含めて、しっかり教育的暴力と行きましょうか……」
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