100話、予定変更。上流へ向かう為に
本来は砂漠のオアシス都市[ガルド・ゼデール]に向かう予定を変更して、水などを配るために二日目の朝を迎える。
俺は朝早くから、昨日の行動を知ったメフィスから呼ばれてメフィスの執務室として使われている書斎に向かう。
早朝だというのに、既に机で書類を確認するメフィスには頭が上がらないな。
「来ましたか、本当に貴方には驚かされてばかりですよ。本当に、ですが……心から感謝しますよ」
予想に反して、メフィスの素直な言葉に俺も驚いた。
「そんな素直に感謝されると調子狂うな、でも役に立てたなら、良かったよ」
そんな俺の返答に対して、メフィスはデスクに両肘をついてから両手を組むと難しい顔を浮かべる。
「紛れもない本心からの感謝ですよ。まさか、あれほどの食糧を自身で用意するなんて、どんな魔法かスキルなのか興味しかありませんなぁ」
覚悟はしていたが、やはりそうなるよな。
ただ、俺もすべてを話さないようにしっかりと秘策を用意してあるため、ポーカーフェイスで返答する。
「俺のスキルは『保管』ってスキルなんだよ。一時的に物を入れられるスキルなんだ。だから、以前に使った野菜のクズや欠片を入れてたんだ」
俺は【ストレージ】の能力を下方修正した偽りのスキルをメフィスに説明する。
幸い、ポトフに使った野菜についても野菜クズも含めてあるとなれば、料理人としての俺の立場からして、大量に持っていても違和感はないだろう。
「まぁ、ハッキリ言って、俺のスキル『保管』は食糧は大量に詰め込めるが、食糧以外は数日が限界でな」
俺は慌てて追加の情報を口にした。その理由はマグロもどきのツナを作った際に元ドゥム子爵邸の美術品や要らない家具を【ストレージ】に入れてしまっていたからだ。
そして、わざとらしく、急ぎ廊下に出ると一気に【ストレージ】の美術品などを割れないように廊下に並べていく。
すぐに音に気づき、メフィスが廊下に顔を出した瞬間、ずっと俺の様子を見ていた見張りの部下に声をかける。
「何があったか話しなさい。この光景には我輩でも夢を見ているのかと疑いたくなります。まったく……」
見張りをしていた一人の青年がメフィスに敬礼をして、すぐに報告を開始する。
「は! メフィス様。我々は命令通り、扉の前で待機しておりました」
「そこは信頼してます。その後を話してくれないかい? なにを見たのですか?」
「はい! 扉が開き、キンザン殿が室内から出てすぐでありました! 突然、廊下に大量の家具や芸術品等が現れ、その後にメフィス様が顔を出されました」
メフィスは、目を瞑り、拳を握りながら震えている。
「非常識な……貴方という人は、なんで予想だにしない行動と結果ばかり作り出すんですかねぇ!」
眉間のシワからもわかるが、めちゃくちゃ怒られた。
助けを求めるように俺は見張りの一人に視線を向ける。深くため息を吐いた部下の一人がメフィスに向けて敬礼をする。
「メフィス様。今より、我々は増援を呼び、この場に現れた家具と美術品のリストを作成致します! 宜しければご命令を!」
そう言い再度、敬礼をする部下にメフィスは仕事モードのシャキッとした表情で口を開いた。
「えぇ、頼みます。リストは完成したら内容をすぐに確認します。くれぐれも傷をつけないように! いいですね」
俺は知らなかったが、話を聞いていて、この屋敷にある全てをリスト化しているようであり、それらが価値のあるものなのかを調べるようだ。
話を本題に戻すためだろう、メフィスから再度部屋に戻るように言われ、俺は室内に戻るとすぐにメフィスは喋り始めた。
「今から水源となる上流に向かいます。前にも言いましたが──やはり、上流側を何とかしなければ解決にならなそうなのですよ」
「まぁ、分かってたけど、でも水を配らないとならないからなぁ」
「その件はこちらで昨日から大量の空樽を用意しました。そちらに入れてもらえますかなぁ。そうすれば、我輩の部下がしっかりと配らせてもらうことになりますでしょうなぁ」
俺はその提案を受け入れた。見ず知らずの他人ならいざ知らず、メフィスならば信用できるからだ。
「なら、それで頼むよ。すぐに作業に入るから、樽のある場所を教えてくれ」
即答した瞬間、メフィスは頭を抱えて笑いだした。
「アハハハハ、すみません。まさか、即答とは……我輩は本当に大物と話しているようですなぁ」
メフィスはすぐに平常心を取り戻すと一言、忠告を発した。
「ただ、貴方という人間が愚者に騙されぬように願います。貴方に絶望や憎しみという感情は似合いませんからなぁ」
過去の俺がそんな言葉を言われてたら、泣き崩れてたかもしれない。素直にそう感じた。
俺は案内された大量の空樽が用意された部屋に入っていく。
「我輩と部下は外で待たせてもらうので、自由にしてもらって構いません。」
メフィスの発言に同行していた部下が慌てて声を発した。
「メフィス様! 何を言っておられるのですか、そんなことをして何かあれば!」
「お黙りなさい! ふふっ、大丈夫ですよ。それにもし、何かあったとして、責任を全て一人の男に背負わせる気はありません」
部下はメフィスの命令に対して、そのまま発言を続けた。
「分かっておられるのでしょう! もしものことがあれば、全責任は今回の命令を受けたメフィス様に下されるのですよ!」
「理解していますとも、貴女は本当に優しく素晴らしい部下です。それでも、我輩は人を信じたいと思わされたのですよ。だからこそ、後悔するなら信じてからしたいのです」
メフィスは部下を叱ることも諭すこともしなかった。ただ、素直に思うまま発言するのみだった。
「──ですぎた発言を致しました……も、申し訳……ございませんでした」
「いいのです。我輩が選んだ貴女という人材は間違っていませんでしたからねぇ、上司の決断をしっかりと判断して、忠告できる人材は貴重ですからなぁ」
俺の過去にもメフィスみたいな上司がいたら、違う未来もあったんだろうと改めて器の大きさを感じた。
メフィスは部下が自分自身を恥じることを止めて、ただ優しく微笑んでいた。
そんな姿を目に焼き付けてから、樽の置かれた部屋の扉を閉じて作業を開始する。
一時間もしない間に、全ての樽を満杯にしてから俺は扉を開く。
メフィスと部下さんは俺が扉を開くと驚いたような表情を浮かべて室内を確認していく。
全ての樽を微かに傾けるだけの確認であったが、その100近い樽の全てに水が入っている事実にさらに驚愕されることになった。
その後は、メフィスの指示で部下さん達が樽を室外に運び出していく。
既に馬車が3台用意されており、大量の水樽が馬車に積まれて広場に運ばれていく。
馬車が3台だけなのはピストンで運ぶためと積み下ろしに掛かる人員を最小限にして見張りを増やすためだとメフィスは笑って語った。
いっぺんに運べば確かに便利だろうが、問題が起こった際に全てを危険に晒すことになるからだそうだ。長い経験から逆にそういった決断をしたそうだった。
水問題が何とかなり、俺はベリーを作業リーダーとして、嫁ちゃん達にポトフ作成と保存食であるツナの受け渡しを頼むことにした。
昨日と違うのは、俺は今からナギ、フライちゃん、ドーナを連れて川の上流に向かうということだろう。
ちなみにこの三人に決まった理由は、嫁ちゃん達の恒例ジャンケン大会の上位3位だそうだ。
ミアとニアはかなり悔しそうだったし、ペコとグーの二人もかなり凹んでいたので今度、埋め合わせを考えないとだな。
冷静だったベリー、ポワゾン、ミトの3人は一回戦で早々に負けたため、切り替えが早かったようだ。
とりあえず、俺達はメフィスの指示に従い、上流へと向かって移動を開始する。
閉ざされた門まで到着するとメフィスが門兵に声を掛ける。
門が開かれる前に待機していたのであろう、警備兵団のブルーノと隊員達が姿を現す。
ブルーノは任務のためか、無言で門の前に隊員を整列させる。
開かれた門に外から大勢の人々が押し寄せてくるが、そんな人々を押し返すように警備兵団が総出で道を作り出す。
その光景に俺は胸が痛くなったが、すぐに調理用ゴーグルを装備して、風に対する対策を済ませるとナギに掴まり、高速でその場から移動してもらうことにした。
ただ、全てはそう上手くはいかない……押し寄せる人々の遥か先、開いた広場のようになった場所に横たわる大量の人達、その中に知り合いを見つけたからだ。
思わず声が裏返りそうになった俺は、ナギに向かって叫んだ。
「ナギ! 悪い……あの広場に向かってくれ!」
俺の言葉にメフィスを含む全員が耳を疑ったような表情を浮かべたが、ナギ達は俺の言葉に悩まずに従うと広場に向かって移動していく。
広場には大勢の怪我人が並べられており、軽傷者も合わせたら数十人を超える人達が集まっている。
「おい! 大丈夫か」と俺は急ぎ走り出した。
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