99話、水とポトフ・みんなの笑顔を守りたい
朝になり、俺は急ぎ支度を済ませていく。
既に昨日から計画を頭で考えてある。あとは実行するだけだ。
嫁ちゃん達も支度を済ませてくれており、俺はメフィスの部下さんが用意した小さなパンと僅かばかりのミルクを口にしてから街の中心にある広場へと向かっていく。
人気のない広場であったが、俺達が到着すると僅かながら、人が集まりだしてきたため、大きく声を上げる。
「今から、一時間後、この場所で水を配ります! できるだけ多くの人に水を渡したいため、知り合いや友人、隣近所にも声をかけてきてください!」
俺の言葉に周囲からは不思議そうな表情を浮かべてられ、集まった人達は顔を見合わせてから質問をしてきた。
「あの、本当に水を頂けるんですか……正直、金貨どころか、銅貨数枚しか、ありません……本当に水がもらえるんですか!」
必死な表情が今の[カエルム]の実状を物語っていた。だからこそ、俺はハッキリと返事をする。
「金はいりません。大量の水も何とかなりますから、皆さんと後で来てください。その際に水を受け取る器なんかは持参でお願いします!」
そこから、街を歩きながら、広場で水を配ると話しながら移動していく。
俺達が広場に戻った時、既に広場には多くの人が集まりだしており、親子連れが目立つ。
そんな中でも、幼い子供達の姿に心が痛んだ。
「みんな、少し予定を変更していいか?」
俺の言葉に嫁ちゃん達がニッコリ笑った。
「当たり前じゃない。私達はキンザンさんに従うわよ」
「そうそう、ベリーの言う通りだよ。オッサンのやりたいようにやりなよ」
嫁ちゃん達が後押しをしてくれたため、人気のない路地まで移動して【ストレージ】から、悩みながらも用意していた物を取り出して、運んでいくことにした。
わざわざ手間をかけるのは、メフィスと昨晩話をしたからだろう。
自分の存在が知らない間に重要なポジションにいると実感したからこそ、軽率な行動は控えないとならない。
「みんな、悪いなぁ、わざわざ手間取らせちゃって」
俺の言葉に軽く頷くと、ナギがテーブルを掴みあげて笑ってくれた。
「ナギ、力強い。マイマスターのために頑張る」
「ボク達もだよ。だからいっぱい頼ってくれよな。オッサン!」
そんな言葉に感謝しながら、運ばれたテーブルを並べ、さらに即席で炊き出し用の寸胴を出していく。
“買い物袋”から、コンクリートブロックを幾つか取り出してしっかりと台として並べていき寸胴鍋を設置する。
火をおこしてから、見ている人達にバレないように寸胴鍋の中で【ストレージ】を開き水を入れていく。
水が沸騰する前に嫁ちゃん達に指示を出していく。
「みんな、エプロンをつけたら、すぐに調理開始だ。ベリー、ミア、ニアは野菜をみじん切りにしてくれ」
「わかったわ。任せて」
「はいよ! ボク達に任せてよ」
「ニアに任せたら一瞬だにゃ〜いくにゃ!」
俺は取り出した野菜をバレないように樽に入れていき、最初から樽の中に食材があったかのように振舞っていく。
当然だが、樽は元々空っぽなので、毎回、取り出す演技をするのは少し恥ずかしかったがこうでもしないと怪しまれるので仕方ないと諦めた。
それでも次々に取り出した野菜が刻まれていくため、見ている分には楽しいだろう。
俺が取り出した野菜は、キャベツ、玉ねぎ、人参、じゃがいも、ブロッコリーだ。
全てをみじん切りにするように頼んだのは、こちらの世界にある野菜と色や形が違う、色々と詮索されないための苦肉の策というやつだ。
野菜が刻み終わったのを確認してから、オークミンチを【ストレージ】から取り出して煮込んでからコンソメを入れていく。
灰汁を取りすぎないように注意しながら、ひと煮立ちしたのを確認して野菜を入れていく。
野菜を入れてから寸胴鍋の温度が僅かに下がったことを確認して、すぐに“マグロもどき”で作った『ツナ』を入れていく。
全てをみじん切りにしてあるため、火の通りは早い。
ツナ自体も最初から味付けしてあるのでいいアクセントになってくれる。
最後に塩を加えていく。これは好みだが、俺は少しだけ、醤油を入れて和風にするのが好きなので隠し味として加えていく。
広場に美味そうな匂いが広がり、水を求めて集まった人達からは期待に満ち溢れた表情とお腹の音が聞こえてくる。
そんな状況で完成した熱々のポトフを火から移動させる。
よし、まず一鍋目は完成だ。ここからは嫁ちゃん達にポトフ作りを任せて、俺は今から本命の水を配らないとな。
用意したのは、蛇口のついた樽であり、裏から取り出したようにわざとらしく見せていく。
ちなみに、蛇口はどこにでもあるごく普通の蛇口だ。
それを空の樽にぐるぐると回して取り付けただけの簡単タイプだ。
蛇口を捻れば中の液体はしっかりと出るようにはしてあるので、集まった人達には違和感なく水が出るように見えるはずだ。
空の樽には、後ろ側に穴が空いており、手を中に入れて【ストレージ】を開けば無限に水が出る樽が完成する。
広場に集まった人達には、食事を配る前に渡すためのルールだけ説明していく。
ポトフに関しては、広場内で食べてもらうこと。
これは臨時で作ったため、使い捨ての器とスプーンを使ってしまったからだ。
街中がゴミで溢れたらそれこそ、目も当てられないし、本末転倒になってしまう。
そのため、食事は広場限定とさせてもらい、次々に具だくさんのポトフを振る舞っていく。
水をもらいにきた結果、食事が食べられる事実に驚く人々だったが、その顔は喜びに満ちていた。
よくよく考えたならば、被災してから、この瞬間まで、火も使えない状態の人も少なくなかっただろうし、何より食糧そのものがない人もいただろう。
俺達は必死に[カエルム]の人達に水とポトフを配っていく。
この場で保存食として作ったツナを配っても良かったが、すぐにそういった物まで配るのは悪手だろう。
色々な思いの葛藤がありながらも俺はそれを耐えて、水を配っていく。
そんな俺達の元に慌てた様子の『フライデー2号店』の面々が走ってきた。
ダインはその巨体で全力疾走してきたのか、息があがっている。
ガルダ達、他の獣人メンバーは大丈夫そうだが、三ツ目族の三姉妹は既にヘロヘロになっている。
「お前たち、どうしたんだよ? みんな揃って」
そんな声にダインが必死に呼吸を整えてから返事をする。
「ハァハァ、オーナー、オラ達もなんか手伝わせてくらさい。オラ達もやらねぇとだから」
そんなダインの言葉に俺は嬉しくなった。
「いや、大人しくしてろよな、熊野郎。アンタらも巻き込まれた側なんだろ? 無理すんなって」
俺が喋る前にミトの奴がそんな発言をするとさすがのダインも何か引っ掛かったのだろう、グッと前に出てきた。
「あの、オラ達は手伝いたいだけなんだぁ」
「そんなん、見たらわかるんだよ熊野郎! でもな、被害者が頑張りすぎたら、それに合わせようと無理できない奴らまで無理すんだよ!」
「そ、そんな事は……」
一瞬、悩むダインにミトが容赦なく一歩前に踏み出して声を上げる。
「あるんだよ! 熊野郎が……被害者なら無理せずに今は休みやがれ!」
少し残念そうな表情のダイン達にさらにミトが言葉を続ける。
「それにな、ウチらには……だ、旦那様、野郎がついてんだからさ……大丈夫だしな」
頬を赤らめるミトの顔、それからなぜか、俺は嫁ちゃん達から軽く脇腹を小突かれた。
ミトの一言は正しかったし、俺も今回ばかりはダイン達にゆっくり休んで欲しいと考えていた。
「そうだな、ダイン、それに『2号店』の皆もだが、街の復旧が済むまでゆっくり休んでくれ。オーナー命令だ。頼めるか?」
柄じゃないが、俺なりの気遣いってやつだろう、ダイン達からしたら、こんな風に指示がない限り休んだりという発想にはならないだろう。
俺の言葉に顔を見合わせるダイン達だったが、静かに頷いてくれた。
その表情を確認してから、俺は『2号店』のメンバーにポトフを手渡していく。
ダイン達は自分達が料理をもらえると思っていなかったのだろう。不思議そうな顔でポトフを受け取っていく。
「本当にいいんですかい?」と質問するダイン達に俺はゆっくり笑った。
「美味いから、食べてくれよ。それに孤児院のチビ達も呼んできてくれるか。たくさんあるからさ」
そこからは、なるべく多くの人達にポトフと水を配るために必死に働いていく。
一人でも、多くの人が救われたなら、明日の笑顔が増える。逆に悲しみや辛さは不幸の連鎖になるだろう。だからこそ、皆の笑顔を守りたいんだよな。
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