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みんなが断った異世界転移☆暇な日、限定で揚げもん屋『フライデー』をやってます。  作者: 夏カボチャ 悠元
5章 砂漠の街オアシス都市 [ガルド・ゼデール]上

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98話、ロゼの水龍・メフィスの策略

 ロゼは両手を広げたまま、くるりと水源の方に身体を向けるとすぐに渦を作り出していく。


 細長い渦が次第に巨大な渦になり、空に向けて浮かび上がっていくと先端が巨大な龍の頭へと変化し、瞬く間に水龍が姿を現した。


 水で作られた巨大な龍の姿を見て、俺はさすがに腰を抜かしてしまった。


「な、あぁぁぁ」

 俺は驚き、言葉を忘れてしまっていた。


「オ、オッサン! 龍、龍だ!」


「ふにゃあぁぁぁぁぁぁッ! キンザン、ヤバいにゃ!」


「マイマスター、アレはデカイ……勝てるかわからない……」


 嫁ちゃん三人が驚きながら、取り乱すさなか、水龍の頭がゆっくりと俺達の前に降りてくる。


 ロゼはニッコリと笑いながら、水龍の頭に乗ると俺達を手招きする。


 呼ばれるまま、水龍に触れた瞬間、まるでウォータースライダーを逆に流れるようにして、背中まで一気に吸い込まれていく。


「ふぁ、ハァハァ、なんか……すげぇな、ははっ」

 久しぶりの感覚に俺は笑っていた。


 そんな俺と対照的に嫁ちゃん三人は絶望的な表情を浮かべて息を荒くしていた。


「食べられたかと思ったにゃぁぁぁ……」


「ニアと同意見だよ、本当に怖かったし……オッサンはなんで楽しそうなんだよ」


「マイマスター、食べられる側はヤダ……食べる側がいい……」


 各自の感想を聞きながら、俺達はロゼの操る水龍に乗り、大空に舞い上がると一気に森を抜けて[バリオン]の街まで空の散歩を楽しむことになった。


 僅かな時間でも空を駆け抜ける感覚に俺は緊急事態だというのに楽しいと感じてしまい反省した。


 ただ、本当になんとも言えない感覚だった。風を感じるというよりも風になったような感覚というべきだろう。


 嫁ちゃん達三人も龍に乗るまでは怖がっていたが、動き出してからは楽しそうに笑みを浮かべてはしゃいでいたので、俺と似たような感想を抱いたんじゃないかと思う。


 そうして、空の散歩を楽しんでいると、ロゼが地上を指差した。


「ほら、[森の入口]に到着したよ。降りようか」


 水龍が地上に降り、俺達はまた、ウォータースライダーを滑るようにして、地上へと足をつけた。


「また、会おうね。お兄ちゃん! 絶対だよ〜」


「おう、約束だ! ロゼ、ありがとうな」


 手を振るロゼに、俺達も手を振り返す。

 水源から伸びた水の龍が大空に飛び上がり、水源へと消えていった。


 俺達は急ぎ[バリオン]へと帰還してからクランハウスである屋敷に戻る、その足で[カエルム]への転送陣に飛び乗った。


 既に[カエルム]は夜中になっており、『フライデー2号店』には誰もおらず、急いで元ドゥム子爵邸へと戻ることにした。


 元ドゥム子爵邸に到着すると夜中だというのにメフィスの部下さんが見張りをしており、出迎えられた。


「お帰りなさいませ。キンザン様、奥様方」

 軽く挨拶をされてから、屋敷の中に通された。


 既にベリー達は眠りについており、ミア達も疲れ果てたのか、そのままベッドに向かっていった。


 俺は眠い目を擦り、顔を両手で(はた)き、メフィスが使っている書斎へと向かう。


 部屋の前に到着すると二人の見張りがおり、俺はその場で待つように言われた。

 待つように言われた理由は書斎でいまだにメフィスが仕事を行っており、面会の確認をするためであった。


 室内から出てきた見張りの一人から「どうぞ」と言われ、室内へと入る。


 メフィスは大量の書類が置かれたテーブルで書き物をしている最中のようで、普段の余裕を思わせる雰囲気は皆無だった。


「こんな時間に何のようですかなぁ? 我輩はかなり、忙しいのだがねぇ──とはいえ、貴方という人間がわざわざ来たというなら、無下にする選択はしないさ、それに、何かあるのでしょう?」


 書き物の手を止めて、入口にいる俺へと視線を向けるメフィスに俺はゆっくりと歩み寄り本題を語る。


「ああ、遅くに悪いな、メフィス。わざわざ来たのは、水の確保が何とかなったからだ」


 その言葉にメフィスが一瞬、驚きと疑いの眼差しを向けたが、すぐに通常に戻る。


「他人ならまず、信じられない発言ですが、貴方の発言ならば、疑う余地はないでしょうなぁ、話を聞かせてください、すべてです」


 メフィスに[バリオン]の川の水源まで向かった事実と水を大量に運ぶスキルがあることを伝える。

 【ストレージ】や“買い物袋”の存在については、まだメフィス達に詳しく話していない。彼らを信頼していないわけじゃないが、王国側の人間である以上、俺の能力をすべて見せるわけにはいかないからだ。


 少し心苦しいが、こればかりは許してほしい。


「ふふっ、面白い話ですなぁ。まぁ、運んだ方法を追求するのは野暮ですし、無いとは思いますが“そのせいで貴方が水を廃棄する”可能性もありますからね」


 メフィスはわざとらしく、強めの声色でそう告げる。

 ただ、その手は俺にだけ見えるようにメフィス本人の口元に指が一本立てられる。

 『しーっ』と言っているように見えた俺は少し混乱しながらもメフィスが指を解くまでそのまま、口を閉ざしていく。


 数十秒後、メフィスの指が静かに口元から移動したのを確認してから、俺は緊張感とともに息を吐いてから肺に空気を送った。


「ハア、なんだったんだよ? メフィス説明してくれるか?」


「なんでもありません。よくある話なのですよ。民衆の中には知りたがりや覗きたがりがいますからねぇ、捕まえるのは容易いですが、捕まえてもきりがないですからねぇ」


 メフィス曰く、水の確保ができたと民衆に噂を広めること、ただし、俺に手を出せば、水は手に入らないという二つの事実を広めさせるのが目的で会話を盗み聞きしていた何者かを見逃したらしい。


「わざわざ、見逃す必要はないと思うんだけどな?」


「ああいう輩は情報だけを盗んでいくのですよ。ですが、逆にです。情報を“与える”という手法も政治の表、裏なんかでは必要になりますからねぇ」


 メフィスはそう語るとクスクスと笑いだす。


「メフィスにしては、面倒なやり方をするんだな、正直、驚いた」


「えぇ、捕らえて処刑するのは容易いでしょう、しかし、噂が広まれば疑念も生まれましょう。だからこそ、“見逃がす”のではなく、“見せる”という形をとるのですよ」


「見逃すんじゃなく、見せるか……なんか、裏しかない言葉だな」


「ふふっ、確かにそうでしょうねぇ。処刑は“力”の誇示、ですが……それでは“信頼と信用”の構築をすることが出来ませんからねぇ、良くも悪くも民が助かるならそれでいいんですよ」


 メフィスからの言葉に俺は改めてメフィスという男が国のために動く存在であり、民を大切にしているのだと感じさせられた。


「本題がズレましたが、明日の朝から可能なのですかな? できれば早い方が助かりますし、何より汚染された上流の清掃を急がねばなりませんから」


 メフィスの顔に悪い笑みが浮かぶ。


「わかってるさ、明日の朝から水の配給をスタートさせるし、上流に行く時も一緒に同行するよ」


「話が早くて助かりますなぁ、断られたらとヒヤヒヤしましたよ」


「心にもないことを言うなよ……俺が行くって言うの分かってたんだろうが」


 俺の言葉にさらに笑みを浮かべるメフィスは無言で頭を下げた。


 その行為が何を意味するかを想像できないほど、俺も平和ボケしてるわけじゃない。

 大貴族であろうし、国王から与えられた立場のあるメフィスが一般人の俺に頭を下げることは本来はあってはならない事実だ。


「ありがとう、メフィス。気持ちはしっかりと伝わったよ」


 俺はメフィスと軽く雑談をしてから書斎を後にした。


 明日のために今日は早めに就寝することに決めた。ただ気がかりなのは、砂漠のオアシス都市[ガルド・ゼデール]に顔を出せていないことだ。


 頭領達、大丈夫かな……早くこっちを落ち着かせて、あっちに行かないとな。


 色々な考えを巡らせる最中、くしゃくしゃになった煙草を取り出す。残念ながら、ラスト一本は水で湿気ってしまっており、新しい煙草を“買い物袋”から取り出していくことになった。


「ふぅ……もし、上流に問題があれば、ロゼに力を借りないとダメかもしれないな、本当に助けてくれたら助かるが……どうなるかな」


 そんな呟きをしながら、煙草の煙を再度、吐き出していく。

読んでくださり感謝いたします。

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