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援護

 一刻も早く我が家に帰って平穏な暮らしに戻るため、私はライトニングフォックス作戦を実行する。

 ソビエト連邦内の主要都市を爆撃し、さらには一斉降下を行ったのだ。


 政府や重要施設、さらに情報機関を押さえて、この大戦を終結させるのが最終目標である。


 そして私は時間短縮のために、パラシュートなしで降下した。

 その際にちょっと着地に失敗し、巨大な人物像に直撃して完膚なきまでに破壊してしまう。


 さらには地面に陥没したが、幸い一般市民を巻き込むことはなかった。

 しかし安堵している時間はなく、作戦はまだ始まったばかりだ。


 後続部隊の私は、狐耳が拾った戦闘音が鳴り響く場所を目指す。

 各地に散った衛生狼たちとは別方向に、疾風のように駆け出すのだった。




 最初こそ公道を走っていたが、私はモスクワ市の地理に詳しくない。

 事前に地図を見せてもらっても、大雑把にしか覚えられなかった。


 なので途中で考えるのが面倒になり、降下したときと同じように青白い翼を構築して勢い良く羽ばたかせる。

 無駄に目立つことを気にしなければ空を飛べるので、友軍の救援に駆けつける時間を大幅に短縮できる。


 多くの命が危険に晒されているのだ。

 今は羞恥心や黒歴史など、気にしている余裕はないのであった。




 付近で轟音がしたので、私は上空から地上を見下ろす。

 すると日本から見れば旧式の戦車が数台並んで、大きな建物に向かって断続的に砲撃を行っていた。


「事前に資料で見ましたが、あれはソビエト連邦の戦車ですね」


 ソビエト連邦の軍隊を、国境沿いに釘付けにする作戦は上手く行っている。

 敵の航空戦力は壊滅状態なので、主要都市まですんなりとやって来ることができた。


 だがまだ、首都モスクワは万が一の備えとして、戦車部隊が配備されていてもおかしくはない。


「やはり、そう上手くは行きませんね」


 航空戦力で爆撃を行っても全滅させるのは難しく、どうしても取りこぼしが出てしまう。

 さらに不幸なことに、砲撃に晒されているのは連合の歩兵部隊のようだ。


 建築物を壁にして凌いではいるが、味方が援軍に来るまで保ちそうにない。


「ならば、私の務めを果たしましょう!」


 まずは空を飛びながら右手を構えて、断続的に発射される砲弾に照準を合わせる。

 狐火を気弾のように撃ち出して、その全てを焼き尽くした。


 戦車部隊は突然の乱入者に驚き、ほんの一瞬だが動きを止めたようだ。

 私は翼を操作して急降下し、戦車の前に勢い良く着地した。地面がヒビ割れてちょっと足が沈んだが、今度は半身が埋まるほどではない。


「戦車を撃破するのに狐火は不要! ……えいっ!」


 とにかく名前は知らないが多砲塔型の巨大な戦車を、小さな両手で掴んで軽々と持ち上げ、そのままの勢いでひっくり返した。

 狐っ娘だからこそ出来る荒業だ。


 なお別に戦車だけに当てはまるわけではないが、乗り物は裏返しか横倒しにすれば無力化できる。

 ようは、亀を裏返しにするようなものだ。


(まあ、こんなことができるのは私ぐらいだけど)


 だが、私が戦車をひっくり返していると、隠れていた敵歩兵部隊が阻止に動く。

 銃口を向けて銃弾を浴びせてきたのだ。


「効きません!」


 無防備に受ける気はなく、消し忘れた翼を広げて全身を包み込み、ファンタジー的なバリアのように接触した弾丸を次々と消滅させていく。


「リトルプリンセスの邪魔をさせるな!」


 しかし、友軍もやられっぱなしではないようだ。

 砲撃が止んだ今が反撃の機会とばかりに、今度は逆に敵歩兵に銃弾を撃ち込む。


「戦車はリトルプリンセスが片付けてくださる! 我々の務めを果たすぞ!」


 敵兵士は多砲塔型の戦車の支援を受けて攻撃していたが、私はそれをせっせと裏返していく。


 そうなればもはや、ただの遮蔽物にしかならずに援護も期待できない。

 敵兵が次々と血を流して地面に倒れて、衛生狼が速やかに回収していく。


 事前の打ち合わせで大病院を占領し、そこで治療が行われているようなので、とにかく危険な最前線から遠ざける。




 だが途中で、まだ裏返していない戦車の砲塔がこちらを向いていることに気づく。

 隠れているソビエト兵を巻き添えにしても、砲撃で倒すつもりのようだ。


「これが稲荷魂です!」


 そこで私は、戦車を投げてぶつけるという荒業を披露した。

 巨大な鉄の塊が上空から落下し、双方の機体がひしゃげて燃料に引火したようだ。


 轟音と共に爆発して炎上して、搭乗員が逃げる暇もなかった。

 死亡したのかも知れない。


(人はなるべく殺したくなかったけど)


 日本人の犠牲者は、絶対に減らしたい。

 だが、それ以外は死んでも良いと思っているわけでもない。


 いざとなれば躊躇うことなく殺す覚悟はできていても、やはり救える命は救いたかった。


「おおっ! まさか稲荷侍の名言が聞けるとは! 生きてて良かった!」


 なお、今の台詞は何となく口に出したもので、別に深い意味があったわけではない。


 それでも、イギリス人兵士が天を見上げて号泣していた。

 きっとIHKが放送している稲荷侍の何処かのシーンで、実際に流れたのだろう。


(情報としては知ってるけど。

 自分を題材にした時代劇は、視聴するのが恥ずかしいしね)


 しかも、史実を元にしているとも聞いた。

 間違いなく私の黒歴史を掘り起こして、さらに脚色を加えている。


 ものは試しで一度視聴したことはあるが、終わった頃にはチベットスナギツネの表情になってしまう。

 それ以降は見なかったことにして、放送は基本スルーするようになった。


 さらにイギリス人兵士の部隊は、機銃で牽制しながら私に対してあれこれ英語で話しかけてくる。

 だがこっちは頭があまり良くなく、通訳には時間がかかる。

 なので結局、ろくに内容がわからないまま曖昧に微笑みかけるのが精一杯で、何となく雰囲気で連携を取るのだった。

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