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キャラクターがキラキラネームを嫌悪する描写がありますが、キラキラネームそのものを批判する意図はありません。また、この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。ご了承ください。

 おそらく意識したのはこちらが先だろう、と(すめらぎ)(みかど)は自覚している。


 自分と同じ派手な名前。いわゆる『キラキラネーム』というやつだ。


 入学式の日、クラス名簿でその名前を見かけた時から、花岡(はなおか)聖恋蘭(ショコラ)という女子生徒に興味があった。


 ただし、恋だとか愛だとか甘ったるいものではない。ただの同族意識だ。


 自分より奇妙奇天烈な名前の持ち主に、彼は初めて出会った。


 皇は自分の両親があまり好きではない。


 もちろん、ここまで育ててくれたことに感謝はしている。だが、親として尊敬はできない。


 生まれついた頃から、彼は親のアクセサリーだった。


 整った顔も、優れた頭脳も、彼らにとっては虚栄心を満たすための道具にすぎない。


 どこへ行っても、彼らは自分の息子を自慢した。「我が家の王様」と称して。


 その「皇帝」という名前が彼を苦しめていると知りもしないで。


 少しでも息子に褒めるところがあれば、過剰なほど吹聴して回る。恥ずかしさに顔から火が出そうだった。


 名前についてクラスメイトにからかわれた日、そのことを両親に報告すると、彼らは怒り狂った。



「それを言ったのは誰!? 親に文句を言ってやる!!」



 皇としては、クラスメイトを叱ってほしくて伝えたわけではない。むしろ、名づけについて不平を言いたかった。


 からかってきたクラスメイトの名前を出せば、両親は本当に相手の家庭へ怒鳴りこんでいっただろう。だから決して口を割らなかった。


 そのころから、両親への不信感は募っていった。


 周りは「両親の愛情がこもっているのだから」と言ったが、皇にはそうは思えなかった。自己満足の間違いだろう、と思った。


 そしておそらく、それは間違いじゃなかった。



「本当に素晴らしい名前だと思っているのなら、あんたらが名乗ってみろ」



 そう親に言い放った日、両親はしつけと称して、息子の食事を抜きにした。



「母さんと妊娠中に一生懸命考えた名前なんだ。謝りなさい。謝るまで飯抜きだ」



 泣いて部屋に引きこもった母親をかばい、父親はそう言った。


 この時、初めて両親を憎悪した。


 親が傷つくのはだめで、子供が傷つくのはいいのか?


 愛情は免罪符になるのか?


 この名前を一生背負っていくのは両親じゃない、皇自身だ。


 そもそも、親が子供の名前を一生懸命に考えるのなんか、当たり前じゃないか。


 親ならば、子供が悩んだり、苦しんだりしないようにするものじゃないのか。


 怒りながらようやく悟った。両親にとって、自分は『所有物』にすぎないのだと。


 こうして圧力をかけて子供をコントロールしようとしているのがいい例だ。


 これがきっかけとなり、皇は奇抜な名前を嫌悪するようになった。


 それをさずける親自身も。


 だから高校で花岡聖恋蘭はなおかショコラに出会った時、勝手に共感して、同情してしまった。


 きっと彼女も名前で苦労しているに違いないと思いこんだ。


 それなのに、実際に話した彼女は、皇とは真逆の思考の持ち主だった。


 すなわち、「自分の名前は世界一可愛い!」という主張だ。


 ショックだった。そんな考えの人間もいるのか、と思った。


 別に、本人が気に入っているならば、他人がとやかく言う筋合いではないだろう。


 そうわかってはいても、ひどくがっかりした。


 つまり、勝手に期待したあげく、勝手に裏切られた気分になったのだった。


 そこで終わっていれば、ふたりの関係はそこまでだっただろう。


 だが、皇にそっけない対応をされたことでプライドを傷つけられたらしく、今度はショコラのほうがつきまとってくるようになった。


 邪険にあしらうものの、相手も一筋縄ではいかない。一方的に語りだし、聞きたくもない話を聞かされる。


 最初はげんなりしていたが、話を聞くにつれ、少しずつ事情が見えてきた。



(……こいつの家庭環境、俺よりひどくないか?)



 気づいてしまうと見捨てられないのが人情というもの。


 自覚はないが、皇はかなりのお人好しだった。


 両親の影響で人嫌いになり、恋愛に希望も持てないため『クール』ともてはやされているが、内には情熱を秘めている。見た目はクールだが中身はホットというのが、知られざる彼の一面である。


 そんなわけで、皇はいまだにショコラを見捨てられないでいる。


 たとえ苦手なタイプの女子だとしても、同じく親に恵まれなかった立場として、彼女が歪んでしまった理由がなんとなく想像できるからだ。


 決して好意ではない。


 だが、同情はしている。


 だから、その時も皇は、とっさに彼女をかばった。



「――おい、なんだその男は!!」



 委員会が終わり、いつものようにショコラの話を聞き流しながら駅に向かう帰り道。


 すごい形相で駆け寄ってきたのは、くたびれた中年の男だった。


 どこかやつれていて、服もよれている。髪を振り乱して迫る姿は、眼だけがギラギラと光っていて異常だ。


 ふと隣のショコラが真っ青な顔で震えているのに気づく。



(……ストーカーか?)



 義侠心にかられた皇は、迷わず彼女をかばって前に立った。



「……おっさん、いい年してストーカー? 恥ずかしくないの?」


皇は家庭環境の影響でキラキラネーム全般を嫌悪しておりますが、決してキラキラネームそのものを侮辱する意図はありません。

キラキラネームが問題なのではなく、親の独りよがりを問題に取り上げています。

子供がキラキラネームの問題を全て知った上で、それでもその名前を気に入って、その名前と共に生きていくと決めたのならば、他人が文句を言う筋合いではないかもしれません。

しかし、それを決めるのは子供自身であって、親ではないということです。

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