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第97話 現実と向き合う時

「あぁ、やめて……やめて……」


 ロビン君だけでなく、他の子たちにも初心者狩りの魔の手が迫る。


 目の前で傷つけられ、崩れ落ちる子どもたちの姿に絶望しそうになった。


『馬鹿者、何を諦めている。まだ何も終わっておらんだろう!! お前ならどうとでもできるではないか!!』


 脳にアークの大音量の念話が鳴り響く。ハンマーで殴られたような衝撃が私を襲い、ハッとした。


 そうだ、私は薬師だ。上位回復ポーションなら死んでさえいなければ治せる。ここでくよくよしてる場合じゃない。


「エア、私に全力で風を当てて吹き飛ばして」

「ピピッ!?」


 私の提案にエアが驚いた声を上げる。


「ごめんね。説明してる暇はないの。それにエアの攻撃で私は傷つかないから安心して」

「ピィ……」


 エアは悲しそうに鳴きながらも受け入れてくれた。


 私はエアの親だ。子供に親を攻撃させるなんて親失格だよね。でも、今はこれしか思いつかなかった。後でたくさん謝ろう。


 エアをアークの上に乗せ、私は前に出る。


「お願い、エア」

「ピッ」


 ドンッ


 私の背中を凄まじい衝撃が襲った。


 私は打ち出された弾丸のように飛んでいく。空中で姿勢を整えてそのまま初心者狩りたちに頭から突っ込んだ。


「ぶほぉ!?」

「ぐわぁああっ!?」


 部屋の中にいた初心者狩りは五人。


 その内、二人を巻き込むことができた。


「な、なんだ!?」

「何が起こった!?」

「なんであいつらがぶっ飛んだ!?」

 

 初心者狩りたちが狼狽えている隙に、血を流して横たわる子どもたちに近づき、バッグから取り出した回復ポーションを全部振りかける。


 そして、結界装置を起動させた。


 結界装置の魔力登録は通り抜ける時に必要だけど、最初から中にいるなら関係ない。


 これで初心者狩りは子どもを人質にとることもできない。


「……良かった。全員無事みたい」


 みんなの様子を確認すると、全員ちゃんと傷が治っていたし、呼吸をしていた。


「おいおい、なんだ、てめえは」

「よくも俺たちの仕事を邪魔してくれたな?」

「このクソが。よくも俺の仲間たちを」


 初心者狩りが私を忌々しげに睨みつけた。


「そっちこそ、私の仲間になにしてるの?」


 私は、怒りでどうにかやりそうな感情を抑えながら睨み返す。


「はははっ、そりゃあアイテムを快くいただいていたに決まったらだろ?」

「こいつらもバカだよなぁ、いつもの保護者も連れずにダンジョンに潜るんだから」

「おかげで仕事が簡単だったぜぇ」


 私の前でこの態度。


 多分私がシルドさんを吹っ飛ばしたところや私が付き添っている時にやったことは見ていないみたいだね。


「今なら突き出すだけで許してあげるけど?」


 私は答えのわかりきった質問を投げかけた。


「おいおい、嬢ちゃんに何ができるんだ?」

「私だけじゃないよ。従魔もいる」

「ブラックウルフとただの鳥のモンスターの雛じゃねぇか。そいつらに何ができるって言うんだ?」


 あぁ、やっぱり……やっぱりそうなんだ。


「それじゃあ、大人しく捕まる気はないってことでいいんだね?」

「ははははっ、嬢ちゃんこそ、自分たちのことを心配した方がいいぜ? 結界装置の効果が切れたら、どうなるか分かってるのか?」

「大丈夫だよ、そんなの必要ないから」


 私は前世の記憶と倫理観が色濃く残っている。


 だから、これまでできるだけ人の命は奪わず、兵の詰め所とかに突き出してきた。


 でも、この世界では日本みたいに全国で法律が守られているわけでも、取り締まり切れているわけでもない。


 至るところにこういうどうしようもない悪人が野放しになっている。


 罪のない人たちを守るためには、こういう人たちを放っておいてはいけないんだ。


『本当にお前がやるつもりか?』


 心配そうにアークが念話してくる。


『うん、これは私が始めたことだから。心配してくれてありがと』

『ふんっ、心配などしておらん』


 私は覚悟を決めた、人を殺す覚悟を。


「おいおい、嬢ちゃん、結界から出て来ていいのか? どうなるのか、分かってるのか?」


 結界から一人出てきた私に下卑た笑みを向ける初心者狩りたち。


 その視線には反吐が出る。


「分かってないのはあなたたちの方だよ」

「なんだと?」

「あなたたちはもうここから逃げられない。私が逃がさない。ここがあなたたちの墓場だよ」

「てめぇ!! 優しくしてやってりゃつけ上がりやがって」


 初心者狩りの一人が私に剣を突きつける。


「別に攻撃してきてもいいよ?」

「その言葉、後悔するなよ!!」

「どうぞ、ご自由に」

「このあまぁああっ!!」


 私が笑みを向けると、その男は剣を振り下ろした。


 ――ガキンッ


「何!?」


 しかし、男の刃は私には届かなかった。


「もう終わり?」

「んなわけあるか!! うぉおおおおっ!!」


 何度も切り掛かってくるけど、私の体はその全てを跳ね返す。


「お前ら、何見てんだ。加勢しろ!!」

「お、おう!!」

「うぉおおおおっ!!」


 三人がかりで攻撃を仕掛けてきても、私に傷ひとつつけることができなかった。


「バカな……てめぇ、いったい何者だ!?」

「私はただのCランク冒険者だけど?」


 それ以上でもそれ以外でもない。


「ふざけんじゃねぇ!!」

「まぁ、なんでもいいじゃない。あなたたちはここで死ぬんだし」


 説明する義理もない。


「お、おい、ちょっと待て。待ってくれ。分かった。ちゃんと罪を償う。だから、許してくれ、この通りだ」

「あなたたちは命乞いをする初心者たちを助けたことが一度でもあるの?」

「……あ、ある!!」


 初心者狩りは少し間をおいて答えた。


 どう見てもただの言い逃れだ。


「嘘。今度はあなたたちの番が来ただけだよ」

『うわぁああああっ!?』


 初心者狩りたちが部屋から逃げようと我先に走り出した。


「てめぇら、どけぇ!!」

「こんなところで死んでたまるか!!」

「嫌だ、死にたくない!!」


 でも、そこにはアークとエアがいる。


「ピッ」

『うわぁああああっ!!』


 エアが羽ばたくと、突風が吹いて初心者狩りたちが私の前に戻ってくる。


「おかえり」


 微笑むと、初心者狩りたちが怯えながら後退った。


「自分たちがこれまでしてきたことを悔いながら逝ってね」

「ま、待て、待っ――」


 私は有無を言わさずに本気で殴り飛ばす。


 初心者狩りは壁に当たって弾けた。


 まず一人。


「え、あ、は?」

「次はあなたの番」

「ひっ、ひぃいいい――」


 二人。


「やめろ、来るな来るな来るな!!」

「今まであなたたちに殺された初心者冒険者たちも、そう思っていただろうね」

「うわ――」


 三人。


 そして、四人、五人。気を失っていた初心者狩りにもきっちりトドメを刺した。


「ふぅ……」


 私は天井を見上げる。


 創作でよく見るように、吐き気が襲ってくることもなかった。ただ、初めて人を殺した感触が手に残っている。


「……大丈夫なのか?」

「うん、大丈夫。私は大丈夫だよ」


 私はアークに笑いかけた。

いつもお読みいただき、誠にありがとうございます。


「面白い」

「続きが気になる」


と思っていただけたら、ブクマや★評価をつけていただけますと作者が泣いて喜びます。


よろしければご協力いただければ幸いです。


引き続きどうぞよろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
これくらいでちょうど良いですね。 日本の法律でも死刑以外にあり得ないくらい殺してきたでしょうし。
 他にも被害が出てる以上見逃すのは論外、じゃあ再起不能になるまで 痛めつけるというのも匙加減が難しい上に、主人公の良識が問われる。 殺人を肯定する訳ではないが、結局「もう殺すしかなくなっちゃったよ」と…
腐れ弁護屋や人権バカも一緒に殴り殺してくれればいいのに
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