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第92話 休日

「よし、ひとまずこのくらいでいいだろう。明日明後日のダンジョン探索は休みだ」

「俺たちはまだやれるぞ!!」

「いいか? 休むのも大事だぞ。体調が悪い状態で仕事をするなんて冒険者失格だ。アイリス嬢ちゃんの薬で疲れていないように感じるかもしれないが、見えないところで確実に疲労は蓄積している。ここまでかなり駆け足でやってきたんだ。二日くらい休んだところで何も変わらない。それに、お前たちにはまずやるべきことがあるだろ」

「うっ、分かったよ」


 ダンジョンでアグ君たちに遭遇してからしばらく経った。


 あの日から毎日子供たちの訓練に付き合っている。そのおかげもあって、複数のグレイウルフが来ても危なげなく倒せるようになってきた。


 イレギュラーがなければ、九階までなら子供たちだけでも問題なく探索できると思う。


 それに、グレイウルフを複数持ち帰れるようになったおかげで、食事事情も大きく改善し、ガリガリだった子供たちの肉付きが良くなってきている。


 もう少し奥までいって力をつけたら、独り立ちさせてもいいかもしれない。もちろん、独り立ちしたとしても、シルドさんたちには気にかけてもらうつもりだけど。


 ただ、今日までずっと休まずにダンジョンに潜り続けていたので、明日明後日の二日間、一度休息を入れることになった。


 ロビン君は嫌がっていたけど、元々ボロボロだった装備が、訓練のおかげでさらにボロボロになっていることを指摘され、渋々受け入れていた。


「今度はちゃんとした剣を買うんだ」

「私は杖が欲しいな」

「みんなを守れる盾が欲しい」


 決まったら早いもので、余った分のグレイウルフを売って稼いだ資金を使い、どんな装備を買うか話し合い始める子供たち。


 明日が楽しみで眠れなくなるかもね。


「ほら、くっちゃべってないで帰るぞ。ここはまだダンジョンの中だってことを忘れるな!!」

『はいっ!!』


 呆れるように口を挟むシルドさんに、子供たちはハッとした表情になる。


 気持ちを引き締め直し、私たちはダンジョンを後にした。


「ん?」


 シルドさんの仲間の斥候役の人が何かに気づいたようにあたりを見回す。


「どうかしたか?」

「誰かに見られていた」


 話を聞くと、私たちを監視するような粘ついた視線を感じたとのこと。


『近くに不自然に動かない人の匂いがしたぞ』


 アークも同意するように念話を送ってくる。


 いったい誰がなんのためにそんなことを?


「ふむ……もしかしたら、目をつけられてしまったかもしれんな」


 疑問に思っていると、シルドさんが口を開いた。


「どういうことですか?」

「自分で言うのもなんだが、俺たちはこの町でもそれなりに名の通った冒険者パーティだ。その俺たちが目をかけているとなれば、目を引くのは当然だし、妬んだり、気に食わなかったりと、思う奴らもいるかもしれん」

「そっか。そういうことも考えなきゃいけなかったんだ。ごめんなさい」

「いや、引き受けたのは俺たちだ。引き受けた以上、できるだけ守ってやるさ」

「私も気をつけますね」


 まさかそんな風な考え方をする人たちがいるとは思わなかった…………んーん、前世の私は思っていたはず。


 健康な人たちが羨ましいと。自分だけが動けないことが恨めしいと。


 それを考えれば、そういう人たちがいることにも気づくべきだった。新しい人生が楽しくて調子に忘れてたかも。反省。


「明日は私も付き添うから勝手に行っちゃダメだよ?」


 今、子供たちだけで行動させるのは危険だ。


「そんなに心配しなくたって街中なら大丈夫だよ。心配しすぎだっつうの」

「駄目だよ。いい? 命はたった一つしかないの。ほんの少しの油断で失うことがある。そうしたら、二度と戻ってこない。あの時こうしたら良かったなんて思っても取り返しが付かないんだからね?」


 ロビン君に言い聞かせるように肩に手を置き、しっかりと目を見つめた。


 思い出すのは儚く散った私の前世。そして、無惨に初心者狩りに遭って物言わぬ死体になった冒険者たちだ。


 目の前の子たちが同じ目に遭ったら、と思うと気が気じゃない。


 もしかしたら、お節介でいらぬお世話なのかもしれないけど、私自身後悔したくない。今できることはしておきたかった。


「……分かったよ」

「ありがと。偉いね!!」

「バ、バカ!! 子供扱いすんな!!」


 頭を撫でたら、手を弾かれてしまう。


 全く可愛いな。


「おー、ヨシヨシ!!」

「うわぁああああっ、やめろぉおおっ!!」


 私は嫌がるロビン君をしっかりとホールドして、頭を撫でまくった。




 次の日は子供たちの買い物に付き合い、ダンジョンから離れて英気を養った。


「早く新装備試したいなぁ」

「分かるぅ」

「楽しみだね」


 子供たちも根を詰め過ぎていた表情がスッキリとしている。リフレッシュできたみたい。


 そう思っていたのに――。


 その翌日、子供たちと遊ぼうと思って孤児院に訪れた私は、耳を疑った。


「え、出かけた?」

「はい、ダンジョン探索だって言ってましたが、違うんですか?」

いつもお読みいただき、誠にありがとうございます。


「面白い」

「続きが気になる」


と思っていただけたら、ブクマや★評価をつけていただけますと作者が泣いて喜びます。


よろしければご協力いただければ幸いです。


引き続きどうぞよろしくお願いいたします。

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