第91話 大切なこと
「お前らは!! なんの用だよ!!」
ロビン君が番犬のように不快感を露わにして威嚇した。
リーダー格の少年が鼻で笑う。
後ろのパーティメンバーの子たちもニヤニヤとした笑みを浮かべていた。
「別に? 保護者同伴でダンジョンに潜ってるなんて気楽だなと思っただけだ」
「うるせぇ!! お前らだって冒険者たちのケツを追っかけてたじゃねえか!!」
「あの頃と一緒にするなよ。俺たちはもう一人前だって認められたんだ。お前らと違ってな」
少年はこれ見よがしに自分たちの装備を見せつけた。
見たところ、ロビン君たちよりも体つきもしっかりしていて、装備も新品を揃えている。
それだけの稼ぎがある証拠かな。
「ソフィー、あの子たちは?」
「あれはスラムに住んでる子たちです」
リーダー格の少年はアグ。
彼らはスラム街で育った子供たちで、過酷な環境で育ったがゆえに、悪知恵が働いたり、腕っぷしが強かったりするらしい。
孤児院の子供たちとは育った環境などもあって仲が悪いんだとか。
それほど違う境遇じゃないんだから協力したらいいのに、と思うのは恵まれた環境で生きてる人間の戯言なのかな。
「俺たちだってすぐに潜れるようになる!!」
「口だけならいくらでも言えるさ。なぁ?」
ロビン君が悔しそうに食い下がると、アグは馬鹿にするように仲間たちに同意を求めた。
アグの仲間たちも下卑た笑みを浮かべる。
「すぐに追いつくから、見てろよ!!」
「弱そうな女とペットまで同伴してるくせによくそんなことが言えるな」
「あっ……」
アグ君の視線が一瞬私と抱っこしてるエアに向いた気がする。
ロビン君の顔色が真っ青になってしまった。
私がいることで迷惑を掛けてしまったのなら申し訳ないな。
「ほらっ、何も言い返せねぇじゃねえか」
「お前、終わったぞ……」
「何?」
「終わったって言ってんだよ!! 俺は知らないからな!!」
ロビン君がシルドさんの後ろに回って震えている。
「な、なんだって言うんだよ?」
ロビン君の尋常じゃない様子を見て、アグ君たちが困惑してる。
どうしたんだろう?
「ん?」
なんだか、孤児院の子供たちやシルドさんたちから視線を感じた。
「どうかしましたか?」
「じょ、嬢ちゃん、あんなこと言われて怒ったりしないのか?」
シルドさんが口元を引き攣らせながら尋ねた。
そこでさっきの話の意味に気づく。
「ん? あぁ、あれって私のことだったんですね。まぁ、無関係な子たちだし、別にいいんじゃないですか?」
「そ、そうか……」
シルドさんがホッと深く息をはいた。
「あれ? もしかして怒ると思ってました?」
「さっきぶっ飛ばされたばっかりだからな」
「心外ですね……知らない子たちの言葉まで気にしてませんよ」
「そ、それは良かった」
まさかそんなに喧嘩っ早い性格だと思われているとは思わなかったな。
実際、あんまりしっかり聞いてなかったので特に気にならないかった。
さっきだって、シルドさんやロビン君たちにお荷物扱いされるのが嫌だっただけだし。アグ君たちに何を言われたところでどうでもいい。
「何をこそこそ喋ってるんだ? まぁいい。俺たちは先に行かせてもらう。せいぜい頑張ることだ」
何かを感じ取ったのか、アグ君は捨て台詞を吐いて仲間たちを連れて部屋を出ていく。
「待て」
シルドさんがアグ君たちを止める。
「なんですか?」
アグ君たちが不機嫌な様子で振り返る。
「これは先輩冒険者からの忠告だ。見かけで判断するのだけはやめておけ。それだけだ」
「分かりました。ありがたく助言受け取っておきます。僕からも一つ。そんな愚図たちに構わない方がいいですよ」
売り言葉に買い言葉。
アグ君は蔑むように吐き捨てた。
「おうっ、ありがとな」
「ちっ」
シルドさんが朗らかな笑みで返すと、アグ君たちは不機嫌な様子で部屋から出ていった。
シルドさんは人間ができてるなぁ。他の冒険者だったら、絶対怒ると思う。
「あぁ〜、良かったぁ。姉ちゃんが大暴れするかと思ったぜ」
ロビン君がへたり込んだ。
んん〜? なんだか聞き捨てならないことを言ったような?
「それはどういうことかなぁ?」
私はしゃがんでロビン君と目を合わせる。
「ひっ!? い、いや、別に……アイリス姉ちゃんは見てるだけだから体動かしたいかなぁと思ってよ」
「ふーん、まぁ、許してあげる」
ダラダラと汗を流しながら、私から目を逸らさずに言うロビン君。反省してるみたいだし、これくらいにしてあげよう。
「でも、あいつらもう自分たちだけでダンジョンに潜ってやがんのかよ……」
ロビン君が悔しそうに呟く。
まぁ、ライバル的な相手が自分より先に進んでいたら悔しいよね。
シルドさんが真剣な面持ちで口を開いた。
「焦るのは分かるが、絶対に無理をするな。いいか? ダンジョンでは慢心したやつから死んでいく。さっきの奴らみたいな、な。いつ何が起こるか分からないのがダンジョンだ。俺たちも昨日それで死にかけた。中層で深層のモンスターであるマーダーベアに遭遇してな。アイリス嬢ちゃんに助けられなかったら、今頃ダンジョンの栄養になっていただろうよ。冒険者として一番大切なのは死なずに帰ることだ。それを忘れるな」
シルドさんの真に迫る言葉に、ロビン君たちが息を呑む。
すっかり重苦しい雰囲気になってしまった。
「あっ、皆さん、これでも飲んでください」
私はすっかり忘れていたスタミナポーションを取り出した。
「なんだこれは?」
「私特製のスタミナポーションです。これを飲めば、休憩時間を少しくらい短くできるはずです。ロビン君たちの成長も早められるかと。気持ち程度にはなりますが」
皆に一本ずつ配っていく。
「ふんっ、こんな気休めじゃ――うぉおおおおおっ!!」
「なんだ? うぉおおおおおっ!!」
「みんな何して――わぁああああっ!!」
ロビン君が意味がないとでも言いたげな様子で薬を飲むと、突然立ち上がって小さくガッツポーズしてるようなポーズで叫んだ。飲んだ人たちが次々同じようなポーズをとる。
「すっげぇ、力が漲ってきたぜ!! 今なら何連戦だっていけるぜ!!」
「よく言った!! ついてこい!!」
『おおー!!』
疲労が回復したみたい。良かった良かった。
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