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第87話 支援

「アーク、どう思う?」

「知らん。だが、早晩同じ末路に辿ってもおかしくはないだろう」

「だよねぇ」


 私は今、ふっかふかなベッドに仰向けになって考え事をしていた。


「ピィ……ピィ……」


 エアは私の隣で可愛らしい寝顔を晒している。


 部屋はモスマンで泊っていたホテルにも勝るとも劣らないくらい豪華。


『いやぁ、まさかこんなに早くシモフリバイソンを狩ってきてくださるとは思いませんでした!!』


 ここに通されたのは、依頼をすぐに終わらせたからだと思う。それだけグレオス商会も困っていたんだろうね。


 孤児院から商会に寄ってシモフリバイソンを卸した時、ただでさえ細いイトゥーさんの目が、もっと細くなったのを覚えている。


 一応、雇っていたという冒険者たちの顛末と、マーダーベアの討伐を報告。


『そうですか……また新しい方を探さないといけませんね……』


 商人だけあって表情を隠すのが上手かったけど、悲しみが表情に色濃く出ていた。


 それだけ親交が深かったのかもしれない。


『アイリスさん、うちの専属になりません?』


 力のない顔でそんな冗談を言っていた。


「お前はどうしたいのだ?」

「私は――」


 私が考えていたのは、ダンジョンであった子供の冒険者たちのこと。


 ボロボロの服と装備を身に着けていて、とても危なっかしかった。


 狼一匹程度なら全員で必死に戦えば倒せるけど、それ以上になると、一つのミスで命の危機に陥りかねないくらい戦闘がおぼつかない状況だった。


 それに、ミノスでは初心者狩りが横行している。


 私とそう変わらない年齢の冒険者たちが犠牲になっていた。アークの言う通り、近いうちに子供たちがあの死体の仲間入りする可能性は高い。


 冒険者を辞めさせるのが一番良いけど、孤児の彼らに冒険者以外で真っ当に生計を立てていく選択肢がほとんどない。


 資金難っぽい孤児院では、これ以上彼らを保護するのは難しいだろうし、ギルドも冒険者同士のいざこざにも基本的に介入しない。


 つまり、彼らを守る人が誰もいないんだよね。


 そうなると、私がやる以外にない。


「あの子たちがある程度自立できるようになるまでサポートしたいかな」


 幸い私には異世界を見て回る以外の目的はないし、急ぐ旅でもない。


 少しくらい寄り道しても問題ない。少なくとも、複数の狼型モンスターを危なげなく狩れるようになるまでは、傍で見守ってあげたいと思う。


「そうか。好きにしろ」

「反対しないの?」

「ふんっ、たまにはのんびりするのも悪くないだろう」


 アークなら先をせかすかと思ったけど、今日はやけに素直に認めてくれた。


 ちょっと不思議に思ってアークの方を向くと、口元に涎が垂れているのが見える。


 そこで私は察した。


「アークはシモフリバイソンをいっぱい食べたいだけでしょ?」


 ここにいればシモフリバイソンを狩りにいくチャンスがある。


 それを狙っているに違いない。


「そ、そんなわけがなかろう。我は寛大ゆえに、あの子らを心配してやってるのだ」


 アークが焦った顔で挙動不審にキョロキョロし始める。


 その態度が答えだった。どうやら図星みたい。


「ふーん、ホントかなぁ」

「ほ、本当だ」


 焦る姿が可愛くてついつい意地悪したくなってしまった。


「それならシモフリバイソンは食べなくていいんだね?」

「誰もそんなことは言っていない!! 出されれば食べてやろうではないか」

「えぇ~、シモフリバイソンを食べたいわけじゃないんでしょ?」

「むぐぐぐぐっ」


 アークは悔しげに黙る。


 その姿を見ていて、少し沈んでいた気持ちが浮かんできた。


「ごめん、冗談だよ。明日、料理を作ってあげるから楽しみにしてて」

「ふんっ、仕方あるまい。お前がそう言うのであれば食べてやろうではないか」


 私の言葉を聞いたアークの口元が緩み、尻尾が揺れる。


 イトゥーさんから宿や消耗品、それに食料の他に、何か欲しい物がないかと聞かれたので、コンロみたいな道具がないかと尋ねた。


 薪を拾ってこれる時はいいんだけど、今回みたいに何も落ちていない迷宮型ダンジョンでは焚き火をするのは難しい。


 でも、コンロみたいな道具があれば、そういうダンジョンでも料理が作れる。


『ありますよ。少々お待ちください』


 実際にそういう道具はあったみたいで報酬の一部として貰えた。


 それを使って明日はシモフリバイソン料理を作ろうと思う。


 方針が決まったところで、私の意識は闇に飲まれた。


 

 

 翌日。


 早い時間に孤児院に行って昨日決めたことを伝える。


「え、しばらく、アイリスお姉さんがついてきてくれるんですか?」


 一番大人びた女の子――ソフィーが目を丸くした。


「うん。大したことできないけど、皆が心配だからね」

「ありがとうございます。アイリスお姉さんが一緒に居てくれるなら安心です」


 そう言うソフィーの目がちらちらアークやエアに向いているのはなぜだろう。


 他の子たちも私たちが一緒にダンジョンに潜ると聞いて喜んだ。


 でもやっぱり、アークたちに視線が向いている。


 ……くっ、悔しくなんてないんだからね!!


「別に姉ちゃんなんていなくても、俺たちだけで大丈夫なのに~」


 ただ一人だけ、生意気な男の子のロビンが不満そうに明後日の方を向いていた。

いつもお読みいただき、誠にありがとうございます。


「面白い」

「続きが気になる」


と思っていただけたら、ブクマや★評価をつけていただけますと作者が泣いて喜びます。


よろしければご協力いただければ幸いです。


引き続きどうぞよろしくお願いいたします。

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