第85話 初心者
「これだけ狩れば満足だよね?」
「ふんっ、仕方あるまい。これくらいで許してやろうではないか」
アークが満足げな様子で答える。
私たちは全速力で移動して、十匹以上のシモフリバイソンを狩った。それだけ走り続けても一切疲れないんだから、超健康は凄い。
帰りはのんびりと歩いて帰る。
全然道を覚えていないので、アークの鼻任せ。
「ピィッ!!」
その途中でエアも戦いたいと言い出した。
「危ないと思ったらすぐ逃げるんだよ、分かった?」
「ピピッ」
モンスターのいる場所に連れていき、一匹だけ残してエアを地面に下ろす。
「ピィッ!!」
エアが飛び上がって甲高い声を上げると、一陣の風がダンジョンの通路を吹き抜けた。
――ズバズバズバッ
狼型モンスターの体に線が入ったかと思うと、バラバラになって崩れ落ちる。
「えぇ~、凄い凄い!!」
「ピピピピッ」
抱き上げて撫でると、エアは嬉しそうに目を細めた。
「何をどうやったの?」
「風の刃で敵を切り刻んだようだな。幼獣とはいえ、幻獣は幻獣ということだな」
喋れないエアの代わりにアークが答える。
「なるほどね」
つまりはファンタジー作品でよく見かける風の魔法、ウィンドカッター。
見えない風の刃を創り出して敵を切り刻むこの魔法に似た現象を引き起こした、ということかな。
まだ生まれてひと月も経っていないのに、こんなことができるなんて幻獣は凄いんだね。
「そろそろ肉の時間ではないか?」
のんびり歩いていると、アークがそんなことを言った。
「迷宮型ダンジョンだよ? 外みたいに薪とか落ちてないんだから料理は無理だよ」
「なん……だと……」
私の言葉を聞いたアークは、愕然とした表情を浮かべた。
「外に出たら料理してあげるから、それまで待ってて」
「くっ、仕方あるまい。それじゃあ、急ぐぞ!!」
「え、待ってよ!!」
アークは悔しげな顔をした後、ダンジョンの外を目指して走り出した。
「ピヨピヨッ」
背中で揺られるエアは楽しそうにしていた。
「やぁっ!!」
「たぁっ!!」
「そっちいったよ!! 気を付けて!!」
「こ、こないで!!」
「焦らないで!!」
ダンジョンの外が近づいてきた頃、複数の幼い声が聞こえてきた。声のする方に行ってみると、そこには二匹の狼型モンスターと戦う小さな冒険者たちの姿が。
見た目の年齢は十~十三歳くらい。
身につけている防具もボロボロで、武器も錆び付いていたり、ところどころ欠けていたりしている。
自分も人のことを言えた義理ではないけど、見ているだけで危なっかしい。
「きゃあああっ!!」
「目を瞑っちゃダメだよ!!」
その中の一人が焦って目を瞑りながら杖を振り回している。
狼型モンスターにとって、当てようとしていない攻撃なんて意味がない。ぴょんぴょんと飛び跳ねて冷静に躱していた。
「あっ」
そして、女の子の手から杖がすっぽ抜けて地面に転がり落ちる。チャンスと見た狼型モンスターが、その子に襲い掛かった。
「助けはいる!?」
「助けてください!!」
私が声をかけると、返事が返ってきたのですぐに助けに入る。
「ピヨッ!!」
エアがアークの背中の上でぴょんと飛び跳ねてひと羽ばたき。
その直後、風が吹き抜け、狼が一体バラバラになった。残り一体となり、その個体に集中できるようになって一気に形勢逆転。
子供冒険者たちは狼を取り囲んで必死に戦い、どうにか勝ちを拾った。
ふぅ~、誰も怪我しなくてよかった。
「あ、ありがとうございました!!」
「んーん、怪我がなくてよかったよ」
少年少女たちが戦闘後に駆け寄ってくる。
「お姉さんも冒険者なんですか?」
「そうだよ。奥に行ってきた帰りだったの」
「すっごーい!!」
「テイマーなんですね、いいなぁ!!」
たった数歳下の子供たちがキラキラした目で私を見てくる。
やめて!! 前世も合わせたら、もう三十年くらいは生きてるの!!
「ふんっ、俺たちだってそのくらいすぐできるようになるし」
生意気そうな男の子が、不機嫌そうにそっぽを向いた。
「こらっ、助けてもらったんだから、お礼を言うのが先でしょ!!」
「あ、ありがと。助かったよ」
「いいえ、どういたしまして」
叱られた男の子は、恥ずかしそうに頬を染めながら言う。
それがなんだか可愛かった。
「それはそうと、どうしてこの階に? まだ早そうだけど」
「一階や二階は人が多すぎてモンスターが狩れないから、危ないと思ったけど稼ぐには奥に来るしかなくて……」
話を聞いてみると、皆孤児院にお世話になっている子供たちで、全員が十二歳なんだって。そろそろ出て行かないといけなくて冒険者として働き始めたらしい。
この年齢で働きに出なければならないなんて、前世では考えられないよね。
それでダンジョンに潜ることにしたけど、浅い層は人がいっぱいでモンスターの取り合いになってしまう。そのため、少し奥に入って、数体のモンスターが同時に出てくる階層までやってきたとのこと。
「でも、危ないよ。モンスターだけじゃなくて治安も悪そうだし。悪い大人たちもいるみたいだしね」
「じゃあ、どうしろって言うんだよ。俺たちみたいな孤児は、冒険者になるくらいしか稼ぎ口がねぇんだ」
口を出したところで、何か解決策があるわけじゃない。
ただ、今日はこれ以上戦える状況じゃなさそう。
「とりあえず、今日のところは帰ろ。悪いようにはしないから」
「は、はい。分かりました」
私は彼らを連れて地上に戻った。
「すっごーい!!」
「アーク、すげぇ!!」
「エアちゃん、可愛い!!」
帰り道の露払いをアークとエアに任せたら、子供たちに大人気になった。
あれ、私は?
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