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第82話 グレオス商会

 従魔登録が終わったら、次は宿の確保。


 Bランクパーティ『空鳴』のバルドスさんから色々便宜を図ってくれると聞いているので、まずはグレオス商会へと向かう。


 さっきと同じように、街を散策しながら買い物ついでに場所を尋ねて歩いた。


「ここみたい」

「ピヨ」


 たどり着いたのは、モスマンで泊っていたホテルに勝るとも劣らない大きな建物。ところどころ色褪せた赤茶色のレンガ造りの外壁が、歴史と伝統を感じさせる。


 出入りする人の身なりも整っていて、大商会というのが正しい。


 場違いな気がして、入るのに少し躊躇したけど、勇気を出して入り口を潜った。


 中はYoTTube(ヨッチューブ)で見たことのある老舗高級ホテルみたいな造りで、暖色の灯りと下に敷かれた絨毯がレトロで落ち着いた雰囲気を演出している。


「どこにいけばいいのかな?」


 私がキョロキョロと辺りを見回しいると、誰かが話しかけてきた。


「いらっしゃいませ。どうかなさいましたか?」


 声がした方を振り返ると、立っていたのは糸目笑顔の人物だった。


 糸目の人物は陰謀を巡らせる敵キャラと相場が決まっている。紹介状を出すかどうか悩む。


 私はアークに念話を送った。


『アーク、この人はどう?』

『こやつは問題あるまい』

『え、そうなんだ』


 アークからのお墨付きによって私の幻想は打ち砕かれる。残念ながらこの人は味方だった。


「こんにちは。バルドスさんから紹介状を預かってきたんですが」

「おおっ、空鳴のバルドス様ですか。それはそれは。私、イトゥーと申します。以後お見知りおきを」

「私はCランク冒険者のアイリスと言います。こちらこそ、よろしくお願いします」


 握手をしてお互いに挨拶を交わす。


「そのご年齢でCランク冒険者とは、大変優秀なのですね」

「運がよかっただけですよ」

「いえいえ、運も実力の内です。それでは立ち話もなんですので、こちらへどうぞ」

「分かりました」


 ただ宿を取りに来ただけだったはずなのに、私は応接室へと通された。


 向かい合って並ぶソファに腰を下ろす。


  ソファはふかふかで沈み込むような座り心地で、とても高そう。壁には風景画や人物画が並び、窓からは手入れの行き届いた中庭が見えた。


 すぐに女性が入って来て、私の前にグラスの入ったジュースを置き、床には同じジュースが入った器を二つ並べた。


 アークとエアの分かな。


 エアが飲みたがったので、床に下ろすと、すぐに器に口を付けた。アークも並んでジュースを飲む。


 その様子を見ていた女性職員さんが、うっとりとした表情をしている。


 うんうん、分かるよ。アークもエアも可愛いよね。思わず抱きしめたくなるくらいに。


 私が一人で頷いていると、職員さんはハッとした表情をして咳ばらいをし、澄ました顔を取り繕った。でも、口元がにやけそうになるのを隠しきれていない。


「それでは、紹介状を拝見してもよろしいでしょうか」

「はい、勿論です」


 私は紹介状を取り出してイトゥーさんに手渡した。


 イトゥーさんは封を開けて、素早く目を通す。


 途中、一瞬だけ糸目が見開いた気がした。


「ふむ。なるほど。内容を確認いたしました。本日はどのようなご用件で?」

「宿をとりたいなと思いまして」

「そういうことでしたか。それでしたら、向かいにグレオス商会が運営するホテルがございますので、そちらをご利用ください。話は通しておきましょう。宿泊はアイリス様と従魔がお二人でよろしいでしょうか?」

「はい、大丈夫です」


 トントン拍子で話が進んでいく。


「かしこまりました。他にはございませんか?」

「後は消耗品や保存食なんかも買えたらいいんですが」

「欲しい商品のリストをいただければ、こちらでご用意させていただきますよ」

「そうですか? 少し申し訳ない気もするのですが……」

「いえいえ、それが仕事ですから。お任せください」


 紹介状パワー凄い。コネは力だってばっちゃも言ってた。


 ジュースを持ってきた女性が、さりげなく紙とペンをテーブルの上に置く。


 私は欲しい商品を書いて手渡した。


「お代はいくらになりますか?」


 高そうなホテルと沢山の商品を買うとなると、いくら紹介状を持っていてもそれなりに値が張るはず。


 国境を越える前にミノスの街でやることは特にない。街を散策したり、ミノスのダンジョンをちょっと見たりしたら、すぐに南の国に発つつもりだった。


 でも、値段によってはダンジョンで稼ぐ必要があるかもしれない。


「全て無料で提供させていただきます」

「え?」


 ドキドキしながら返事を待っていると、返ってきたのはとんでもない言葉だった。


「ホテルもご要望の品も全て無料でご提供させていただきます」

「い、いやいや、それは悪いですよ」


 私は慌ててジュースを一口飲む。


 でも、そう話は上手くいかない。


「その代わりと言ってはなんなのですが――」


 イトゥーさんが重々しい口調で切り出した。

 応接室の空気がわずかに張り詰める。


「ダンジョン踏破者のアイリス様に依頼を受けていただけないかと思いまして」


 その言葉に、私はグラスを持つ手を止めた。

いつもお読みいただき、誠にありがとうございます。


「面白い」

「続きが気になる」


と思っていただけたら、ブクマや★評価をつけていただけますと作者が泣いて喜びます。


よろしければご協力いただければ幸いです。


引き続きどうぞよろしくお願いいたします。

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だよね〜、タダより高いものはない でも、こんな簡単な事で良いの?とか言いながら パッと受けて終わらせるんだろうな だから学びも成長もない こうしてチートと周りの優しさだけで無双する 頭の緩い主人公がで…
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