第81話 今頃やってくるイベント
ミノスは、モスマンやバンドールよりも堅牢な城壁に囲まれていて、軍事要塞のような印象を受ける。絶対に外にモンスターを出さないという、強い意志を感じた。
「身分証をお願いできますか?」
「分かりました」
私は門番さんにギルドカードを見せる。
「はい、問題ありません。お通りください」
「ありがとうございます」
無事に検問を抜け、街の門を潜り抜けた。
「うわぁ、人が凄い……」
ミノスの街は今まで通ってきたどの街よりも栄えていて、人がごった返していた。
バンドールもモスマンも東の国境の町として栄えていたけど、規模が全然違う。
それに、圧倒的に冒険者らしい人たちが凄く多い。やっぱり、こっちのダンジョンの方が人気なんだろうね。
「ピヨ!!」
「面白いの?」
「ピピッ」
初めて見る街の光景が面白いようで、エアは目を輝かせている。
まずはエアの従魔登録をしに冒険者ギルドに行かなきゃ。
「すみません、これ十個ください」
「あいよ」
「ちょっと聞いてもいいですか?」
「なんだい?」
「冒険者ギルドってどこにありますか?」
「それなら――」
冒険者ギルドの場所が分からなかったので、美味しそうな匂いがする露店に立ち寄って商品を購入し、ついでに道を尋ねる。
露店の主人のおばちゃんが丁寧に教えてくれた。
私が買ったのは、炒めたナッツや豆を蜜で固めたお菓子。
香ばしさに蜜の甘みが絡んで結構おいしい。
「ピピピピッ」
「気に入ったみたいだね」
エアは私が抱っこして食べさせる。
一口食べると、好みの味だったのか何度もせがまれた。
『まぁまぁだな』
アークはそう言いながらも尻尾が揺れている。相変わらず素直じゃない。
それからエアが興味を持った露店に寄って街を散策しながら、おばちゃんに教えてもらった道の通りに進んでいくと、冒険者ギルドの看板が見えた。
スイングドアを開け、中に足を踏み入れる。
内装の造りは他の街の冒険者ギルドとさほど変わらないけど、その規模が何倍もある。それだけここのダンジョンが賑わっている証拠だよね。
初心者らしき人たちから中級者に足を踏み入れたばかりの人が多い印象。
装備の質があまりよくなかったり、少し横柄な態度が目立つ。
バンドールの冒険者ギルドでは固定の冒険者が多く、モスマンの冒険者ギルドにいたのは中級者以上の冒険者がほとんどだったので少し新鮮だった。
「いらっしゃいませ。本日はどのようなご用件ですか?」
「この子の従魔登録をしたいんですけど」
「ピピッ」
「ふふっ、可愛らしい従魔ですね。かしこまりました」
受付嬢さんにギルドカードを渡し、エアをカウンターに載せる。
「これで登録が完了しました。アイリスさんはCランクなので大丈夫だと思いますが、この街には粗暴な冒険者が多いので気を付けてくださいね」
登録が終わった後、忠告を受けた。
「絡まれた場合はどうしたら?」
「死なない程度にぶっ飛ばしちゃって平気ですよ」
「分かりました」
受付嬢さんはニッコリと笑ってサムズアップのサインを逆さまにひっくり返す。
多分、初心者に横暴な冒険者が絡むのは日常茶飯事なんだろうな。バンドールでは絡まれなかったから楽しみ。
「おいおいっ、嬢ちゃんと雛の従魔とは冒険者ギルドを舐めてるのか?」
ワクワクしていると、ギルドの外に出る途中で数人のガラの悪い冒険者に絡まれた。
おぉっ、これが伝説の絡まれイベント!!
早速やってきてくれるとは思わなかった。
「舐めてませんよ。そこをどいてください」
「嫌だと言ったら?」
男たちはニヤリと笑う。
どうしてこういう人たちは相手が強いかもしれないと考えないんだろう。
仮に登録したてでも、兵士を辞めて冒険者になったり、今まで登録してなかっただけで武術を嗜んでいたりしていた可能性もある。
本当に不思議だよね。
「痛い目に遭いますよ?」
「ぷぷぷっ、わーっはっはっはっ!! 痛い目だったよ!! おいおいっ、それじゃあ、やってみせてくれよ」
私が言っていることが冗談だと思ったのか、滑稽に映ったのか、絡んできた冒険者たちは腹を抱えて私をバカにするように笑う。
どうやらちゃんと分からせないと駄目みたい。
「私は忠告しましたからね」
「ウォオオオオオオオオンッ!!」
私が動こうとした直後、アークが絡んできた冒険者に向かって咆哮を放った。
――ガタガタガタッ
冒険者ギルドの窓を揺らす。
『……』
絡んだ冒険者はそれだけで顔を真っ青にしてへたり込んだ。
「全くもう、私がやろうと思ったのに」
「わふっ(お前がやったら時間が掛かるだろう)」
アークに抗議すると、アークは悪びれもせずに先に歩き始める。
まぁ、これで彼らも少しは分かってくれたならそれでいっか。
「おいおいっ、一発で黙らせられちまったぞ……」
「絡みに行かなくてよかったぁ」
「俺、ファンになっちゃったかも」
周りが騒がしいけど、気にしてもしょうがない。
「後片付けはご自分たちでしてくださいね」
絡んできた冒険者に声をかけると、私はギルドの外に向かった。
「ピヨピヨッ!!」
腕の中のエアはアークの大きな声にも動じず、むしろ楽しそうにしていた。
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