第80話 どこかで聞いたような話
翌日。
「いや~、昨日は酷い目にあったね」
「それはこっちのセリフだ」
「ごめんごめん」
おちゃらけて言ったら怒られた。
まぁ、昨日はすごく大変だったから仕方ないか。
まず、エアを泣き止ませるのにめちゃくちゃ苦労した。
魔道銃が引き起こした大爆発のせいで、半ばパニック状態になってしまったエア。
抱き寄せて安心させるように一時間以上撫で続けることで、どうにか落ち着かせられた。
でも、もっと大変だったのは、エアが泣いている間、風が吹き荒れて周りにあったものを全部吹き飛ばしてしまったこと。
そのアイテムを回収してきてくれたのがアークだ。
かなり沢山走り回ることになったので、大変だったはず。それでも何も言わずに集めてきてくれるんだから、やっぱりアークは優しい。
そのおかげでアイテムを失わずに済んだ。
「ピヨピヨッ」
当の本人は、昨日のことなんてすっかり忘れてしまったかのように、パタパタと飛ぶチョウチョにつられて、その後をトコトコと追いかけている。
「はぁ~、可愛い……」
その姿を見るだけで和んでしまうから赤ちゃんってずるいよね。
「何がそんなにいいのか分からぬ」
エアの様子を眺めていると、アークが不機嫌そうに口を挟んだ。
「もふもふで、ずんぐりむっくりで、たどたどしい感じが可愛いいじゃん」
まるでデフォルメされたひよこのぬいぐるみがそのまま動いているみたい。思わずギュッと抱きしめたくなる衝動に駆られる。
「ふんっ、何もできない役立たずではないか」
「赤ちゃんなんだから仕方ないでしょ? ……もしかしてアーク、エアに嫉妬してるの?」
「だ、誰が嫉妬などするか!!」
さっきからツーンとした態度を取っているので、もしやと思って聞いてみたら図星だったみたい。
ふふふっ、可愛いね。
なんだろう……お母さんを弟にとられたお兄ちゃんみたいな?
私は母親になったことはないけど、なんだかそんな兄弟を持った気持ちになる。
「大丈夫だよ。沢山お世話になってるし、色々考えてくれてるの知ってるから」
「ふんっ、そんなこと言われても嬉しくないわ!!」
抱き着いてワシャワシャと撫でると、アークがそっぽを向いたまま尻尾を振った。
とっても分かりやすい。
「ピピピピッ!!」
チョウチョを追いかけていたエアが、私とアークが楽しそうにしているのを見て、自分もとばかりに抱き着いてくる。
私はしばらく二人のもふもふを堪能した。
「ミノスまであとどのくらい?」
「人間も増えてきている。もうそろそろだ。今日中には着けるだろう」
「そっか。そろそろ物資も心許なかったし、ちょうどいいね」
卵を盗まれて元々の予定よりも旅の時間が長くなった結果、旅の前に準備した保存食や消耗品が少なくなっていた。
そろそろ補充したいと思っていたので良いタイミングだ。
それに、アークの言う通り、確かに行き交う人たちが増えてきている。見た目や装備などを見ると、冒険者か旅商人が多そう。
それから数時間ほど歩くと、遂にミノスの街が見えてくる。
その規模はモスマンの何倍も大きかった。
国境越えの時にあった冒険者や、モスマンで情報を集めた時に聞いた通り、モスマンのダンジョンがあまり人気がないせいだと思う。
街が近づくにつれて、冒険者の数が劇的に増えていった。
モスマンとは違い、南のダンジョンはそれなりに人気があるみたいだね。
「ピヨピヨ」
「人がいっぱいいるのが珍しいの?」
「ピィッ」
私とアーク以外の人がこんなに沢山いるのを初めて見たエアは、興味深そうに他の人たちを見ている。
その様子を見ていると、ホイホイついていきかねない。
エアは幻獣。従えている人が十人にも満たない超レアな存在だ。この前の盗人のように狙う人たちがいるかもしれないから気を付けないと。人が多いからなおさらだ。
エアにもきちんと言い聞かせおく。
「他の人たちが良い人だとは限らないから、勝手についてっちゃダメだよ?」
「ピッ!!」
返事だけは良い。私もちゃんと気をつけておかないと。
「そういえば、昨日の爆発見たか?」
「あぁ、見た見た。山の形が完全に変わっていたよな」
「なんでも、ドラゴンの怒りだって噂だぜ」
「俺も立ち寄った村で聞いたよ。なんかお供えものをして怒りを納めてもらうんだって言ってた」
街の入口の列に並ぶとなんだか身に覚えのある話が聞こえてきた。
『あれって私の事かな?』
もしかしてと思ってアークに念話で尋ねると、予想通りの答えが返ってくる。
『十中八九そうであろうな』
『やっぱり……』
ただの魔導銃の試し打ちが、まさかそんな風に思われているとは思わなかった。
「あれは絶対ドラゴンのブレスだよな。あの辺には近づかないようにしないとな」
「だなぁ。命あっての物種。ドラゴンを倒そうとするのはバカのすることだ」
「冒険者とはいっても、堅実が一番だよな」
「そうだな」
確かにあの威力はそう思われても仕方ないか……完全に地形を変えていたからね。今度から気を付けよう。
「次の方、どうぞ」
反省していると、ちょうど私の番がやってきた。
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