第79話 ドラゴンの怒り
「結局、何も分からずじまいだね」
「そうだな」
「ピヨ?」
エアが無事生まれた後、改めて状況を確認すると、辺りは酷い有様だった。
森の一角が更地になり、盗人たちの死骸は跡形もない。アークが壁になった後ろだけが綺麗に自爆の影響を受けずに原型を保っていた。
アークが全て受け止めてくれたおかげだ。
残念だけど、盗人たちに関する情報は何も残っていない。街に連れていく途中で何か聞けたらと思ったけど、それもできなくなってしまった。
分かるのは、捕まった際に躊躇なく自爆して証拠隠滅したり、敵を巻き込んで殺したりするだけの組織か何かが、盗人たちの後ろにいたかもしれないということだけ。
今まで出会ったことのない相手だった。できれば、今後は関わりたくない。
「それじゃあ、気を取り直してミノスに向かおうか」
「うむ」
何はともあれ、エアは無事に取り戻せた。
これ以上ここにいても何も始まらない。
私たちは再び南に向かって歩き出した。
「ピヨピヨッ」
エアがアークの背中の上で楽しそうに転がったり、飛び跳ねたりしている。
よっぽどアークが気に入ったみたい。ずんぐりむっくりのぬいぐるみのようなエアがはしゃぐ姿はとても癒される。
アークが本気で走ったので大分道から逸れてしまったけど、こうやってのんびり旅をするのも悪くないかな。
「はぁ……赤子はこれだからすかん」
背中の上で遊ばれているアークは、ガックリと肩を落とした。
「エアが楽しそうだから我慢して」
「我は楽しくないが?」
「アークは立派な大人だから赤ちゃんのすることくらい許してくれるよね?」
「う、うむ、そうだな。我はできた大人ゆえ、背中ではしゃぐぐらい許してやろう」
アークを適当に言いくるめて森の中を進んでいく。
「ピィ~、ピィ~」
しばらくすると、エアは疲れたのかアークの背中の上で眠ってしまった。
目一杯遊んで、目一杯寝る。まさに赤ちゃんって感じだよね。
私たちはエアを起こさないように静かに歩き続ける。
『今日はこの辺で野営をしよっか』
『うむ』
良い頃合いになったので、少し先に見つけた小川の傍で野営の準備を始めた。
エアをアークの背中から下ろしてテントの中に寝かせ、結界装置を起動して夕食を作り始める。アークは狩りに出かけていった。
結界は魔力を登録した対象以外は通さないので安心なはず。盲信するのはよくないのは学んだばかりなので、定期的にエアの顔を確認する。
そういえば、生まれたばかりの幻獣って何を食べるんだろう。
ミルク……かな?
でも、私が持っているアイテムバッグは時間が止まるわけじゃないので、残念ながらミルクは入っていない。
とりあえず、スープを作るために水を入れた鍋を火にかける。
『戻ったぞ』
『アーク、お帰り』
『今日はこれを料理しろ』
『はいはい』
アークが獲ってきた蛇っぽいモンスターの肉を使ってステーキのように焼いたり、スープに細かく刻んで入れたりした。
「ピィ? ピィイイイッ、ピィイイイッ」
もうすぐ料理が完成するというところで、エアが目を覚まして鳴き声を上げる。
「おはよう、エア」
「ピピピピピッ!!」
「あはははっ、甘えん坊だね」
テントの入口を開けると、私の顔を認めた瞬間、エアが飛びついてきた。
目を覚ました時に周りに私もアークもいなくて、不安になっちゃったんだと思う。
私の体に頭を擦り付けるエアを安心させるようにゆっくり撫でる。
「ピピッ」
落ち着いてくると、エアが体を離してクンクンと鼻を鳴らす。
「匂いが気になるの?」
「ピヨ」
外に出て料理の近くに連れていく。
「食べる?」
「ピッ」
「そっか」
「食べたい」と鳴くので、お椀によそって匙ですくい、「ふー、ふー」と熱を冷ましてエアの口にスープを入れる。
「ピィッ!!」
気に入ったのか、嬉しそうに鳴き声を上げた。
「もっともっと」とせがむエアの口にスープを運ぶ。一方でアークは憮然とした態度で山盛りの蛇肉ステーキを頬張っていた。
満足したエアは、アークの前にトコトコと近寄っていく。
アークが前足でエアを小突くと、エアはコロコロと転がった。
「ピピピ!!」
「仕方のない奴だ」
それが楽しかったのか、再びアークの許に近づく。
また小突かれて転がった。アークが前足を器用に使って左右にコロコロと転がす。エアは楽しそうに笑っていた。
その間に私も食事を済ませる。
「そういえば、ダンジョンで手に入れた魔導銃の試し打ちをしてなかったな」
「やってみたらいいのではないか?」
エアに背もたれにされて動けなくなっているアーク。でも、段々まんざらでもない様子になってきている。
「そうだね。ちょっとやってみようかな」
幸い、辺りはオレンジ色に染まっているけど、まだ陽は沈みきっていない。
十分に視界は確保できる。
「あっち側には人間はいないぞ」
「ありがと」
万が一を考えて、アークが示した方向に向けて魔導銃エーテルバスターを構えた。
魔力を流し込んで打つだけの簡単な仕様。
「おお~?」
魔力を込めると、体内から魔力が吸い込まれていくのが分かる。
面白がってどんどん魔力を込めてしまう。
「お、おいっ、魔力を込め過ぎだ!!」
「へっ?」
――カチッ
突然声を掛けられた私は、引き金に掛けていた指を引いてしまった。
――ドゥウウウウウウウウウウンッ!!
その瞬間、流星が目の前を通るかのような真っ白な閃光が先端から放たれる。
――バリバリバリバリバリッ!!
白い閃光は木々をなぎ倒しながら突き進んだ。
閃光が止んだ後、そこには何も残っていなかった。直線状にあった木々が消え、山がえぐれて三日月形になってしまっている。
「あははは……」
その光景に、私は乾いた笑いしか出なかった。
「ピピッ!? ピィイイイイイイッ!! ピィイイイイイイッ!!」
あまりの轟音に、アークに寄りかかって船をこいでいたエアが驚いて泣いた。
その泣き声が森の中に木霊していった。
◆ ◆ ◆
「なんだあれは!?」
「ドラゴンだ!! 山に手を出した俺たちにお怒りになったに違いない!!」
「すぐに供物を捧げて静まってもらうんだ!!」
「急げ急げ!!」
閃光を見た人々は慌てふためき、すぐに崇める神を静める儀式に取り掛かる。
その日、ドラゴンの怒りが下ったという噂が各地に広まっていった。
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