第76話 卵の行方
「さっきまでちゃんと背負っていたと思ったのに!?」
辺りを見回してみたけど、どこにも見当たらない。
「落ち着け」
「えぇ~、ちゃんと持っていたのにどこに行っちゃったの?」
あちこち見回しながら卵を探す。
「落ち着けと言っている」
「本当に肌身離さずに持っていたはずなのに」
石をひっくり返しても、木の裏を見てみてもどこにも見当たらない。
「おいっ、いい加減にしろ!!」
「わっ!?」
私は、アークに強めに押されて尻餅をつく。
そこで卵が無くなって余裕がなくなっていたことに気づいた。
そうだ、こんな風に焦っても仕方ない。一つずつ考えないと。
「少しは頭が冷えたか?」
「うん、ごめんね」
アークのおかげで少し冷静になれた。
「ふんっ、この程度のことで大騒ぎしおって。お前が薬草に夢中になる前まではリュックを背負っていたのは間違いない。そうだな?」
「そうだね」
薬草に目を奪われる前までは確かにリュックは背負っていた。
「だとしたら、何者かが盗んだと考えるのが自然だろう」
「でも、それならアークが分かるんじゃ?」
アークの鼻はとんでもなく利く。私に近づく人間に気づかないはずがない。
「相手は匂いを消すスキルを持っているようだ。全く匂いが追えん。モスマンを出発してすぐ、匂いを感じたはずの人間の匂いが消えたことがあった。おそらくその時から狙っていたに違いない」
そういえば、アークが少しおかしな反応をした時があった気がする。
ただ、他の人が見られる場所で卵を出した覚えはない。知っているのは空鳴だけ。
でも、あの人たちが誰かに言うとも思えない。空鳴が話していないとすれば、私が卵を持っているとバレるはずがない。
「でも、卵を持っているかどうかなんて分からないよね?」
「何のスキルもなければ分からないが、魔力察知のスキルがあるのなら話は別だ」
「そういえば、卵から魔力が発せられていたんだっけ?」
一時期凄く熱を持っていた時期がある。
私はあの時に卵が魔力を発していることを初めて知った。
「そうだ。お前がダンジョンを踏破したことは街の人間に知れ渡っていた。お前が大事そうに抱えているリュックに目を付けられていたとしてもおかしくない。魔力を発してるアイテムともなれば尚更だ。ダンジョンをクリアしたとはいえ、お前は全く強そうじゃないからな」
「そっか、全然気づかなかった」
魔力を発しているアイテムは、高値で取引されていることが多いという。
盗人は卵だから盗んだわけじゃなくて、私が持っている物が魔力を発しているから盗んだってことみたい。
それと、私もアークも大抵の攻撃が効かないので、何かされるなんて想像もしてなかった。
すっかり油断してた。反省しないとなぁ。
「でも、それならどうやって卵を探すの?」
「そんなもの決まっている」
「もしかして手当たり次第!?」
「なんでそうなる。お前がパスを辿るだけだ」
良かった。
私とアークの体力は無尽蔵みたいなものだから、とにかく走り回って探すのかと。
それはもはや、砂漠でダイヤモンドを探すような難易度だよね。
「卵は従魔じゃないよ?」
「あの卵はお前を主だと認めた。すでにパスは繋がっているはずだ」
「そうなんだ」
「お前の中に我以外とのつながりがあるはずだ。それを感じてみろ」
「分かった」
自分の内面に意識を向けると、アークとの間にしっかりとしたパイプみたいなものが繋がっているのが分かる。
それとは別にもう一つ。
か細い糸のようなものが、どこかに向かって伸びているのを感じた。その存在は今も自分から離れていっている気がする。
「どうだ?」
「あっち」
私は、その今にも切れそうなか細い糸が伸びている先を指さす。
「乗れ」
珍しくアークの方から提案してきた。いったいどういう心境の変化だろう。
「いいの?」
「ふんっ、お前のそのしけた面は見るに耐えんからな」
「はぁ……言い方ってものがあるでしょ?」
「そんなもの我は知らん」
「まぁ、いいや。ありがと」
私は久しぶりにアークの上によじ登った。
「ちゃんと掴まっていろよ」
「分かってるよ!!」
アークが、示した方角に一気に加速。
「もう少し右」
「もう少し右」
「もう少し左」
進む方向を調整しながら盗人の後を追った。
本当に今にも切れそうだった繋がりが強くなっていくのを感じる。卵からも自分がここにいるという意志が伝わってくるような気がした。
そして、私たちは森に辿り着く。
卵はその中を移動している。盗人は森の中を通って姿を隠しながら運んでいくつもりだったみたい。だけど、そうはいかない。
私とアークは迷うことなく突っ込んだ。
「アーク」
「うむっ、あ奴らが犯人であろう」
それからしばらく進んでいると、数名の背中が見えてきた。彼らの方の中の一人が、私のリュックを持っている。
薬草に夢中になって無意識に置いちゃったのかも。気をつけないと。
アークが凄まじいスピードで駆け抜ける。
「おいっ、何か来るぞ!!」
三人の男たちが後ろを振り返り、私たちの姿を見つける。
多分、斥候に最適なスキルを持っているに違いない。
「あれは……ブラックウルフ!? なんだあの速度は!?」
「それに上に乗っているのはあの女だ!! なんで見つかったんだ!?」
その男の言葉で私たちが追ってきているのがバレた。
でも、なんの問題もない。ただ取り返せばいいだけなんだから。
彼らに迫ったところで私がアークの背中から飛び降り、アークが彼らを飛び越えるように飛んだ。
男たちは私とアークに挟まれ、立ち止まった。
そして、私は男たちを睨みつけた。
「ねぇ、私から盗った物、返してよ」
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