第69話 帰還
「え、ど、どうされたんですか!?」
いきなり倒れた空鳴のメンバーに駆け寄った。
「な、なんだ、これは……!?」
「う、動けない……」
「体が……上から押しつぶされてる……みたいです……」
「ぐぅうう……重い……」
話を聞く限り、空鳴の体に何らかの力が加わっているみたい。
『アーク、どうなってるの!?』
『ふんっ、我が少し体が重くなったように感じたのだ。こやつらはそれに耐えられなかったのであろう』
確かに六階に降りた時、アークがそんなことを言ってたっけ。体が重くなるってことは、もしかしてこの階層は重力が強いのかも。
それなら空鳴の状態にも説明がつく。それに、誰も戻ってこなかったのも動けないうちにモンスターに襲われたと考えれば、分からなくもない。
「すみません。私、どんな状態異常か全然分からなくて……」
「気にするな……アイリスは……なんとも……ないのか?」
「はい、一切変化がありません」
「信じ……られなんな」
とても苦しそうなのに、空鳴の人たちが化け物でも見るような目で見てくる。
やめて、私は人間だよ!!
そんな気持ちを隠しながら聞いた。
「どうします? 一度戻りますか?」
こんなに辛そうなら体勢を立て直した方がいいかもしれない。
「いや、どのみち行く……しかないんだ……だが……動けそうにない……」
「分かりました。私とアークで運びますね」
「いい……のか?」
「助けに来たんですから。このくらい任せてください」
やり取りをした結果、四人を運ぶことになった。
『セインさんとバルドスさんを運んで。私はロナさんとリースさんを運ぶから』
『ふんっ、全く従魔遣いの荒い奴だ。だが、我は寛大だから力を貸してやろう』
私はアークの背中にセインさんとバルドスさんを括り付ける。
「ア、アイリス……もう少し……どうにかならない……のか?」
「俺も……バルドスに……こういう風に……覆いかぶさるのはちょっと……」
「我慢してください」
ただ、アークの体は狼サイズでもかなり大きい方だけど、成人男性二人を別々に乗せるには心許ない。だから、重ねて括り付けたんだけど、二人が文句を言ってくる。
私はバッサリと切り捨てて、ロナさんとリースさんを俵みたいに両肩に担いだ。
「ねぇ、もうちょっと……運び方があるんじゃ?」
「そうですね……私たちも冒険者と言えど一応レディなので……」
「我慢してください」
こっちの二人も文句を言うので同じように切り捨てる。
今は一刻も早くこの階層を抜けなきゃいけない。四の五の言ってる場合じゃないんだよ。
「行きますね。舌を噛まないように気を付けてください」
――ドンッ
私とアークは地面を蹴った。
『うぉおわああああああっ!?』
私たちが思い切り走り始めると、空鳴たちが声を上げる。
ジェットコースターなんかよりも速いんじゃないかな、多分。本当に超健康の力は凄いよね。
私たちは一気に六階を駆け抜け、七階へと降りる。
「皆さん、大丈夫ですか?」
また新しい状態異常に変わったはずだ。
「あ、あぁ……大丈……夫……zzz」
『zzz』
そう思ったら、今度は皆そのまま眠ってしまった。
つまり、七階層は入っただけで眠ってしまうみたい。この階層も対策してなかったら、モンスターの餌食。殺意が高いな。
私とアークは寝てるのをいいことに全速力で通り抜ける。
「うぉおおおおおっ!! ぷぎゃっ!?」
「ぐぉおおおおおっ!! がはっ!?」
「がぉおおおおおっ!! ぶへっ!?」
「きしゃああああっ!! ひぎっ!?」
八階で皆バーサーカーみたいに誰彼構わず襲い始めたので、全員気絶させた。
ここは正気を失ってしまうフロアだったみたい。
「よっしゃあああああああああっ!!」
「くそがっ、くそがっ、くそがっ!!」
「うわぁあああああああああんっ!!」
「あひゃひゃひゃひゃひゃひゃっ!!」
九階はみんなの感情が壊れた。
喜怒哀楽が目まぐるしく変わって話にならない。ここも黙らせて十階に進んだ。
「大丈夫ですか?」
起こしてみるときちんと反応が返ってきた。
「あ、あぁ、ここは特になんともなさそうだ」
「ごめんね。ここまでずっと役立たずで」
「ほんとほんと。あまり覚えてないけど、結局ずっと運んでもらっちゃったもんね」
「本当に穴があったら、入りたいです」
十階層は環境トラップはないみたい。その瞳に理性の光が宿っている。ようやく全員正気に戻ったらしいね。
でも、今更紐を解くのも面倒なので、これまでと同じように運んだ。
ボスが居た部屋の前で全員を下ろす。
「帰還魔法陣……やっと帰れる……」
「今回は本当に死ぬかと思いました」
「良かった……本当に良かった……」
「ほらほら、まだ終わったわけじゃないわよ。そういうのは帰った後にして。後輩に顔が立たないでしょ」
ボス部屋の魔法陣を見て空鳴が感極まる。まぁ、死にかけたんだから当然だよね。
ロナさんが他の三人を窘める。
でも正直、散々四人のひどい状態を見てきたので、今更取り繕ったところで意味ないと思う。
「それじゃあ、帰りましょうか」
『了解』
気持ちを落ち着けた空鳴のメンバーと一緒に帰還魔法陣の上に乗った。
視界が真っ白に染まり、視界が切り替わる。
そこはダンジョンの外だった。
『うぉおおおおおおおおおっ!!』
その瞬間、突然歓声が湧き起こった。
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