第64話 救出
走ってたんじゃ間に合いそうにない。
「アークッ!!」
「ウォオオオオオオオオンッ!!」
私の意図をくみ取ったアークが遠吠えをするように鳴いた。
ダンジョンの壁をビリビリと揺らす。
「ギャッ!?」
遠くに見えたモンスターがまるで石化したかのように動きを止めた。
その隙に洞窟内を駆け抜ける。
『むっ』
アークが何かを感じ取ったように念話を送ってきた。
『どうしたの?』
『こやつはここに置いていった方がいい』
『何かあるの?』
『人間には聞こえぬ音が鳴っている』
『それがセインさんの仲間が動けなくなった原因ってこと?』
『おそらくな』
どうやら、セインさんたちがハマった罠はまだ稼働中みたい。それなら中に入らずに待っていてもらった方がいい。
「セインさんはここで待っていてください」
「何を言って――」
「おそらく罠はまだ稼働中です。ここは私たちに任せてください」
「……分かった」
セインさんは渋々と言った様子で私の提案を受け入れてくれた。
自分が無理についていけば邪魔になることが分かってるんだろうね。
一度立ち止ってセインを下ろし、広い空間に足を踏み入れた。
「ガァアアアアアアッ!!」
アークはそのままモンスターへと直進し、私は元凶を探す。
――キーンッ
耳を澄ませると耳鳴りのような高い音を捉えた。耳に手を添えて辺りを見回しながら聞こえてくる方向を絞る。
「あっちだね」
より音が大きく聞こえる方に歩いていくと、振動が大きくなって体を震わせた。
「グギャアアアアッ」
後ろでモンスターの断末魔が聞こえる。
このダンジョンは状態異常こそ強力だけど、モンスターは強くないらしいからアークが簡単に倒してしまったんだろうな。
「これ……だね」
黒の水晶玉みたいな鉱物が、意味ありげに地面に埋まった状態でブルブルと震えている。明らかにここが音の震源地だ。
「ふっ!!」
――パリーンッ
殴ってみたら、その玉はあっさりと割れた。その瞬間、耳を圧迫していた空気の波がフッと消える。これが罠の本体で合っていたみたい。
アークの傍に戻ると、モンスターはどこにもいなくなっていた。
『みんなの様子は?』
『気を失っているようだが、命は奪われてはおらん』
『そっか』
その言葉に私はホッとため息を吐く。
「セインさん、もう大丈夫です!! 中に入ってきてください!!」
安全が確保できたのでセインさんを呼び寄せる。
「おおっ、皆、よく無事で……良かった……本当に良かった」
セインさんは仲間たちが無事だと知って涙を流しながら喜んでいた。
私みたいに死に別れになるのはみたくないからね。間に合って本当に良かった。
「う……うう……ここは……俺たちはどうなって……」
セインさんの仲間の一人の大柄な男の人が目を覚ました。
「バルドス!!」
「お……おおっ、セインじゃねぇか!! お前なんでここにいるんだ!? 逃げろって言っただろ!?」
状況が理解できず、セインさんが戻ってきてしまったと思っているみたい。
「逃げたよ。そして、アイリスの力を借りて皆を助けに来たんだ」
「……この子は?」
バルドスと呼ばれた男の人は「誰だ、こいつ」みたいな顔で私を見た後、セインさんに視線を向ける。
「アイリス。冒険者だ。彼女がいなければ、お前たちは今頃モンスターの腹の中さ」
「本当にこんな子が?」
「お前も実際に見れば、分かるさ」
見た目が強そうじゃないのは分かってるからこういう扱いにも慣れてる。
「そうか。見かけによらないみたいだな。俺は『空鳴』のリーダー、バルドス。今日は世話になった。礼を言う」
バルドスさんはダンジョンの地面に座ったまま、頭を深々と下げた。
「いえいえ、どういたしまして。無事で良かったです。これを飲んでください」
「これは?」
頭を上げたバルドスさんが不思議そうに私の手に乗る小瓶を見つめる。
「回復ポーションとスタミナポーションです」
「それはありがてぇな」
バルドスさんは私からポーションを受け取って一緒に飲み干した。
「うぉおおおおっ!! すげぇな、これ。全ての怪我と疲れが吹き飛んだみてぇだ」
「う……ここは……」
「私はいったい……」
バルドスさんの声が大きかったせいか、残りの二人も目を覚ます。
二人の分のポーションも渡した。
「他の二人も起きたら、飲ませてください」
「おうっ、サンキューな」
バルドスさんは受け取った後、すぐに二人に飲ませる。二人もセインさんとバルドスさんと同じように一気に元気になった。
「あたしはロナよ。今日はありがとね」
「私はリースと言います。本当にありがとうございました」
「いえいえ、お役に立てて何よりです」
お互いに挨拶を交わす。
これで後は『空鳴』を連れて外に出るだけ。
――ゴゴゴゴゴゴゴッ
しかし、そう思った矢先、突然ダンジョンが大きく揺れ始めた。
「あ、あれ!!」
『え?(ん?)』
何かに気づいたロナさんが焦ったように指をさす。
――ガラガラガラガラッ
全員が釣られて音がした方に顔を向けると、私たちが入ってきた道が崩れ落ちてしまった。
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