第63話 私の超健康が留まることを知らない
「案内をお願いします」
「こっちだ。ついてきてくれ」
私は走り出したセインさんの後を追う。
ただ、Bランク冒険者の割に走るのが遅い。魔法使いという後衛職だから身体能力が低いのかも。このままだと間に合わないかもしれない。
今は一分一秒を争う。
『アーク、セインさんを背中に載せて』
念話すると、アークが不機嫌そうな顔で私を見た。
『なんだと?』
『この調子じゃ五階までに行くのにどのくらいかかるか分からないよ。それじゃあ、セインさんの仲間たちが死んじゃう』
『はぁ……なぜ我がこのような者たちを助けねばならんのだ』
『アーク、お願い。人の命が掛かってるの』
アークはプライドが高い。
私のことは乗せてくれるけど、それ以外の人間を乗せるのが嫌なんだと思う。でも、今は四の五の言ってられない。
『……腹……食わせろ』
『え?』
念話が小さくて聞こえず、思わず聞き返す。
『人間、お前が作った料理を我が満足するまで食べさせろと言っている』
『そんなことでいいの?』
意外な返事に拍子抜けしてしまった。
『ふんっ、それができぬのなら知らぬ』
恥ずかしそうにそっぽを向くアーク。それは、アークなりの優しさだった。
最近は新しい食材や料理を知るたびに料理が上達している。今度こそ美味いと言わせると思っていた。願ってもない話だ。
『分かった!! いくらでも作ってあげるよ』
『その言葉、忘れるでないぞ』
『ありがとう、アーク。大好き!!』
『な!?』
なぜか、アークが唖然とした顔で私を見た。
どうかしたのかな。でも、今は構っている暇はない。
「セインさん、アークに乗ってください」
「え? いや、それは……」
私の言葉を聞いたセインさんが躊躇うそぶりを見せる。
その時間さえも惜しいので、私はセインさんを引っ掴んで放り投げた。
「うわぁああっ!?」
アークが上手いことセインさんの落下地点に潜り込む。セインさんはアークにしがみついて事なきを得た。
「どっちにいけばいいんですか?」
「い、いきなり何をするんだ!?」
「今は時間がないんです。早く指示を」
「……あっちだ」
状況を理解したセインさんは憮然とした態度で応えた。
「アーク!!」
「わふっ!!」
セインさんの機嫌に構ってる暇はない。私たちは全速力で駆け抜ける。
多分私たちは今、車よりも速いスピードを出して走ってる。それでも全く疲れないんだから不思議。
「のわぁあああああっ!?」
あまりの速さにセインさんが風を受けて変な顔をしている。不謹慎だけど、少し笑いそうになってしまった。
「セインさん、指示をお願いしますね!!」
「わ、わかっ、った。次は、あっちだ、うわぁああっ!!」
喚くセインさんの指示を受けながら、どうにか一階層を踏破する。
次の階層への入口は洞窟の中の不自然な階段。私たちは数段飛ばして降りていく。
「うわっ、真っ暗!!」
二階層は全く先が見通せない暗闇だった。
「この階層は何も見えないんだ。だから、魔法使って灯りを作るんだ」
「あっ、見えるようになってきました」
「え?」
でも、すぐに目が慣れてきてある程度見えるようになった。これなら問題ない。
『アーク、暗闇は大丈夫?』
『ふんっ、昼間と何も変わらん』
アークも問題なく見えるらしい。
「セインさん、道は分かりますか?」
「大体の方向は分かるけど、この階層は手探りで進むしかない」
『こやつが戻ってきた匂いを追えばいいのであろう?』
『うん、できるの?』
『その程度我に掛かれば造作もない。ゆくぞ』
『分かった』
「うわぁああああああっ!!」
匂いで追えるのなら何も問題ない。アークに先導を任せ、私たちは二階を進む。
「ヂュヂュウ!! グペッ!?」
途中、鼠みたいなモンスターに襲われたけど、ひき殺しながら先へと進んだ。
あっという間に二階から三階への階段へと到着。そそくさと降りた。
「くっさ!!」
「(はぁ……ここは臭いがひどい階層なんだ)」
「むぐぐぐぐっ」
三階に降りると、セインさんがいつの間にか取り出したマスクのようなものを装着しながら、籠った声で話す。
とんでもない悪臭が漂っていた。
鼻の利くアークは涙目になっている。この調子じゃこの階層では臭いで追うのは無理そうだ。一刻も早く通り抜けよう。
「あっ、なんともなくなってきた」
「(君は本当に凄いな)」
暗闇の時と同様に私は一瞬にして臭いにも慣れてしまった。セインさんが感心しているけど、これも多分超健康の力なんだろうね。
「アーク、我慢してね」
「わふっ」
私の言葉を聞いたアークがグッと堪えるような顔で走り出す。途中で出てきたヘドロみたいなモンスターは、私が露払いをしながら先へとを進んだ。
そして、三階層も踏破した。
『なんとも凶悪な罠であった』
『帰りも我慢してね』
『……』
帰りのことを言ったら、アークが黙ってしまった。
四階層は地面がキラキラと光っている。セインさんはマスクを取っていた。
「なんで動けるの? この階層は地面に雷みたいなのが走っていて、麻痺してすぐに動けなくなるんだ。こういう靴を履いてないとね」
「特に何も感じませんね」
セインさんによると対策なしで来ると、痺れて動けなくなるらしい。でも私にはなんともなかった。
一瞬で次の階層にたどり着いた。
「凄い……まさかこんなに早くここまで戻って来られるとは思わなかった」
「感傷に浸るのは後です。急いでください」
「そうだね」
呆然とするセインさんを現実に引き戻し、先に進む。
五階層は一見して普通に見えた。
「ここはどんな階層なんですか?」
「幻覚の階層だよ。対策をしてないと、幻覚に惑わされてひどいことになる。アイリスはなんともないのかい?」
「はい、全く」
私の視界にはただの洞窟が広がっている。
「本当に規格外だな、君は」
「それよりも急ぎましょう。どっちですか?」
「あ、あぁ、あっちだ」
私たちはひたすらに走った。
「あそこだ!!」
そして、やっと目的地にたどり着いた。
セインさんが指さす先には、ひと際大きな空間が広がっているのが見える。そして、そこには数人の人間が横たわっていた。
間に合ったみたい。
「ギシャアアアアアアッ!!」
しかし、そう思ったのも束の間、今にもモンスターが襲い掛かろうとしていた。
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