第60話 指名依頼
「なんでしょうか?」
「アイリスさんは、アシッドリーフという薬草をご存じでしょうか」
「はい、勿論です」
アシッドリーフのことはよく知っている。花粉症やアレルギー性鼻炎に効果がある薬のメイン材料になる薬草だ。
その効果もあって春先から夏掛けて需要が高まる。
小屋に軟禁されていたから季節を意識することがなかったけど、今がちょうどその時期に当たるってことかな。
「それなら話が早い。実は、この辺りでは今年は例年以上に花粉が飛んでいるらしく、花粉症に悩まされている方が数多くおりまして。そのため、アシッドリーフの需要が急激に高まり、欲している薬師も多いのですが、なかなか引き受けてくれる人もいないため困っているんです」
「他の方には話さなかったんですか??」
ここに来たのは本当にたまたま。私が来なかったらどうするつもりだったんだろう。
「勿論しましたが、命に関わることでもないため、いい返事を貰える方が少なく、全く需要に追い付いていないのです」
「なるほど」
ただでさえ武具が損傷する可能性がある上に、依頼料も下層で稼ぐ金額よりも見込めない。となれば、緊急事態でもない限り、引き受けてくれる人は少なさそう。
「いかが……でしょうか?」
ソルトさんが不安そうな表情で私を見ている。
いけないいけない。うっかり考え込んでしまった。
「分かりました。引き受けさせていただきます」
「本当ですか!?」
私が返事をすると、ソルトさんの表情が花が開いたかのように明るくなった。
「はい、私に任せてください」
「ありがとうございます。助かります!!」
よく見ると、化粧で分かりづらいけど、ソルトさんの鼻がほんのり赤くなっている。どうやら彼女も花粉症に悩まされる一人のようだ。
沢山取ってきてあげよう。
アシッドリーフの依頼を引き受けた私たちは、高級ホテルへと戻った。
「ダンジョン面白かったねぇ」
「ちょ、ちょっと、そこは!!」
「明日もアシッドスライム食べようね」
「うひぃいいいっ!! や、やめろっ!!」
「二階以降はどうなってるんだろう」
「うわぁああああっ!!」
美味しい料理を食べたり、お風呂に入ってアークを思う存分洗ったりしてリフレッシュ。
「おやすみ、アーク」
「ふんっ」
そして、夢の世界へと旅立った。
翌日。
「こんにちはー」
「こんにちは。気を付けてな」
「ありがとうございます」
無傷で帰ってきたおかげか、ダンジョン前の門番さんは何も言わなかった。
私たちは昨日と同じようにダンジョン内に足を踏み入れる。
「どこへ向かうのだ?」
「地図によるとあっちかな」
ソルトさんから借りた地図に従って歩き出した。
「よっと」
「ピギッ!?」
ところどころに姿を現すアシッドスライムを倒す。昨日みたいにリュックに詰める必要はないので、マジックバッグに核を詰め込みながら先へと進んだ。
「数が増えてきたね」
「ちょうどいい。そろそろまた食いたくなってきたところだ」
「あっ、ちょっと待ってよ!!」
徐々にアシッドスライムが増えてきて、アークが嬉々として襲い掛かる。
「なにこれ、うようよしてる……」
さらに目的地に近づくと、アシッドスライムの量がとんでもなく増えてきた。至る所にアシッドスライムが蠢いている。
こんなにアシッドスライムがいたら、どこから酸が飛んでくるか分からない。多分誰も引き受けないだろうな……。
「どうやら、大量発生しているようだな」
「この量を倒していくのはしんどいね」
「そんなもの全部食べればいいであろう」
アークが元の大きさに戻って根こそぎ食べていく。
まるでブルドーザーみたい。正直一匹ずつ倒していくのは辛いから助かる。
アークドーザーによって空いた道を通って奥に進むと、そこにはアシッドスライムの楽園のような光景が広がっていた。
もう床一面がアシッドスライムに埋め尽くされていて、足の踏み場もない。
「流石にこれはヤバくない?」
群生地とはいえ増えすぎだと思う。
「我が駆除してやろう」
「はいはい。お願いね」
でも、私の言葉が届くことはなく、アークはフ〇ンタの海に飛び込んでいく。
「どうだ? 掃除してやったぞ?」
そして、床にいたスライムが粗方いなくなったところで帰ってきた。
とんでもなく満足そうな顔をしている。相当フ〇ンタスライム、あっ、間違えた、アシッドスライムが好きみたいだね。
「ありがと。アシッドリーフを採ってくるから待っててね」
「ふんっ。早くしろよ」
アシッドスライムが減った場所を調べると、沢山のアシッドリーフが生えていた。
見た目はアシッドスライムみたいにオレンジ色をしていて、ギザギザした形をしている。特に取り扱いに注意点はないので、乱暴に扱わないことだけ気を付けて採集していく。
「そういえば、なんでこんなにスライムが大量発生してたんだろう……ソルトさん、というか、ギルドはこのこと知ってるのかな?」
「人間、気を付けろ!!」
「え?」
考え事をしていると、突然アークの切羽詰まった声が聞こえて顔を上げた。
「上だ!!」
アークの声に従って顔を上げると、天井から粘着質な液体が滴り落ちる寸前のような光景が目に入る。
――ドスンッ
次の瞬間、その粘液が落下して地面を揺らした。
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