第59話 ランクアップ
「そちらにおかけください」
「分かりました。失礼します」
私たちは落ち着いた雰囲気の部屋に通された。
真ん中にソファとテーブルが置いてある。多分、応接室かな。
促されて高そうなソファに腰を下ろす。
「先ほどはウチの者が失礼しました」
キャリアウーマンな受付嬢さんも対面に腰かけ、深々と頭を下げる。
「いえいえ、気にしてないので大丈夫です」
「そう言っていただけると助かります。アシッドスライムの核は、需要の割になかなか取ってくる人がおらず高額になるのですが、無傷の核はさらに価値が高く、高額で取引されるため、場所を移させていただきました」
「お気遣いありがとうございます」
応接室に移動した理由に納得した。
でも、なんだかアークが言っていた以上に大ごとになってきた気がする。
なんかヤバそう。
「それでは改めまして。私はソルトと申します。よろしくお願いいたします」
「アイリスです。こっちは従魔のアークです。よろしくお願いします」
「それでは早速ですが、核の鑑定をさせていただいてもよろしいですか?」
「よろしくお願いします」
自己紹介を済ませた後、リュックをテーブルの上に載せた。
「これは……本当に凄い量ですね……」
ソルトさんがリュックを開いて中を確認するなり呆然とした声で呟く。
「そうですか?」
「はい。状態異常耐性が付与された防具を用意できる冒険者たちにとっては、非常に稼ぎやすいダンジョンなんですが、下層に行けば行くほど稼ぎがよくなるので、前半には冒険者がほとんどいないんですよ」
ソルトさんの表情を見る限り、本当に取ってくる人が少ないみたい。あまり手に入らなくて苦労してそう。
また取ってきてあげようかな。
「手を突っ込んで引っこ抜くだけなので手間はかかっていませんよ」
「なるほど、そういうことですか」
「はい、そういうことです」
私たちはお互いに頷き合った。
言外にスキルのおかげだと伝わってくれたみたい。ソルトさんがとっても腑に落ちたという顔をしてる。
過去やスキルについて詮索しないのが暗黙のルール。当然だけど、冒険者同士だけじゃなくて、基本的に受付嬢もそれは同じ。
ソルトさんがそれ以上突っ込んでくることはなかった。
「それでは、数と品質を確認しますので、少々お待ちください」
「分かりました」
ソルトさんがリュックから核を取り出して専用の入れ物に入れていく。
『ねぇねぇ、さっきの会話、めっちゃ冒険者っぽくなかった?』
『ふんっ、そんなこと我が知るか』
『えぇ~、絶対そうだって』
その間、何もすることがないので、アークと念話で雑談をしながら時間を潰した。
「すみません、お待たせしました。確認させていただきました」
十五分ほど待つと、ようやく確認が終わったらしい。流石に取ってきすぎたかも。
「いえいえ」
「全部で三百二十三個。無傷の核で最高の品質であることが確認できました。合計で金貨千六百十五枚となります。一つ当たり金貨五枚ですね」
「えぇえええええええっ!? そんなにもらえるんですか!?」
私はあまりにあまりな金額に、思わず大声で叫んでいた。
だって、ただ手を突っ込んで取り出すだけの簡単なお仕事。金貨が一枚一万円くらいなので千六百万円。
高値がつくと言われたけど、まさかここまでになるとは思わなかった。日給千六百万とかヤバすぎない?
「はい、先ほど申し上げた通り、とってくる人が少ないので」
「それにしたって高すぎません?」
流石にそれだけでは語れない部分があるはず。
「アシッドスライムの酸は非常に強力です。耐性が付与された装備も完璧ではないので、酸を受ければ徐々に耐久力が減って修理、もしくは新しく入手し直しする必要があります。どちらも非常に高額になるので、それでは割にあいません。そのため、直接引き抜こうと考える人はほとんどいません」
「なるほど……」
確かに、ただでさえ入手が困難な耐性が付与された装備を、自分からダメにする人はいないよね。
でも、一階でもこれって、二階以降はどれだけ稼げるんだろう。それを考えるとワクワクしてくるね。
「それでは、手続きをして参りますので、ギルドカードをお貸しいただけますか?」
「分かりました」
ソルトさんが一度退席して、数分ほどして戻ってくる。
「手続きが完了しました。こちら、お返しします」
「ありがとうございます」
「それで、実績が蓄積されていたので、Dランクへと昇格になります」
「え、ホントですか?」
ギルドカードを受け取ると意外な言葉を耳にする。
「はい、相当ギルドに貢献されていたようですね」
村の依頼を受けた後、新しい依頼は受けてなかったから驚きだ。
もしかしたら、バンドールのギルドマスターが限界ギリギリまで引き上げておいてくれたのかもね。感謝感謝。
これでDランクの依頼も受けられる。何か引き受けてもいいかもしれない。
「それで、アシッドスライムを倒せるアイリスさんに折り入ってご相談があるのですが、よろしいでしょうか」
でも、そろそろお暇しようかと考えていた矢先に、ソルトさんがおずおずと口を開いた。
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