第55話 初めてのダンジョン
ダンジョンは街の中央にあり、街を囲む城壁にも勝るとも劣らない強固な壁で覆われている。
なぜなら、モンスターが溢れてきた時に抑え込むため。
この世界のダンジョンもよくある設定の例に漏れず、たまにモンスターがダンジョンの外に溢れ出る現象、スタンピードが起こることがあるらしい。
そうなった時に、モンスターが溢れ出る量を調整したり、道を絞ることで対処しやすくしたりするためにこの壁があるってわけ。
「こんにちは」
「おいっ」
「はい、何か?」
挨拶をして門を潜り抜けようとすると、見張りの中年兵士さんに声を掛けられた。
「お前さん、このダンジョンに入るつもりか?」
「そうですが」
「止めておけ。そんな装備ではひどい目に遭うぞ。今までどれだけの冒険者たちがそれで取り返しのつかない目に遭ったか。お前さんみたいな別嬪さんなら尚更だ。その綺麗な顔、台無しになりたくないだろ?」
どうやら、私とアークだけでダンジョンに入るのを心配してくれたみたい。これまでそういう人たちを沢山見てきたんだろうな。
でも、私には当てはまらない。まだ分からないけど、そういう攻撃は効かない可能性が高いし、最悪、傷や火傷ができても夜に作った薬で綺麗に治せるしね。準備は万端だから問題なし。
「心配してくれてありがとうございます。でも、大丈夫ですよ。治せるので」
「はぁ……俺は止めたからな。勝手にしろ。後悔しても知らないからな」
「お気遣いありがとうございます」
「はいはい、行った行った」
返事を聞いた兵士さんは、呆れた顔で追い払うように手をひらひらとさせた。
一回痛い目に遭わないと分からないだろうって顔してる。多分すぐに逃げ帰ってくるとでも思ってるんだろうな。
今日はひとまず様子見の予定だし、後でちゃんと無事に帰ってきて驚かせよう。今からどんな顔をするのか楽しみだ。
「それにしても本当に誰もいないね?」
ダンジョンと言えば、その近くには露店が立ち並び、孤児の子たちが荷物持ちを募集しているっていうのが定番なんだけど、この辺りには一切そんな様子は一切ない。
それどころか私たち以外の冒険者の姿さえない。この街にいる冒険者たちは、別の街に行く途中で立ち寄ってるだけの人が多いんだろうね。
楽しみにしていたんだけど、少し残念。
『余程恐ろしいのだろうな。なんて軟弱な種族なんだ。これだから人間は』
「そのおかげで人が少ないんだからいいでしょ」
『ふんっ』
アークと念話を通して会話をしてる間に門を潜り抜けた。
「これが噂の……」
ようやくダンジョンの前にたどり着く。
地下に向かってぽっかりと真っ暗な洞窟が広がっていた。まるで地面に開いた大きな口みたい。
「ダンジョンは人間を喰らうために素材やアイテムで中に誘い込む生き物」という設定はよくある。まさにそれにふさわしい雰囲気が漂っていた。
「さて、行きますか」
少しダンジョンに感動して歩みを止めていた私は、我に返ってダンジョンの中に足を踏み入れていく。
高さも幅も十メートル以上ある。まるで探検でもしているような気分になる。ずっとダンジョンに潜ってみたいと思っていたからとても嬉しい。
これがダンジョンなんだ。
「やっぱりダンジョンの中って明るいんだ」
洞窟の中は灯りらしい灯りもないのに、周りを見通せるくらいには明るい。
ダンジョンの壁に触ると、自分の手には淡く発光する粉みたいなものがくっついた。多分、これがダンジョン内の明るさを保っている要因なんだろうね。
よく設定である、ヒカリゴケって言われてるやつかな。
それに、じっとりと湿った空気が肌に纏いつき、食べ物が腐ったみたいな嫌な臭いが少し漂っている。
本当に生き物の体内にでも入ったみたいな気分。
アークは念話ではなく、普通に返事をした。
「そんなの当たり前だろう」
ということは、すぐ近くには誰もいないみたいだね。人気がないとは聞いていたけど、今のところ本当に人っ子一人見当たらない。
状態異常耐性がある装備を揃えられるくらい上位のパーティならいるって言っていたから、もしかしたら下層を探索してるのかもね。
「あっ、アーク。宝箱があるよ!!」
横道の奥に、宝箱が鎮座する小部屋があるのが見えた。
まだ一階層なのにすぐに見つけられるなんて、幸先のいいスタートだ。
初めてのダンジョン、初めての宝箱。何が入っているのか今から興奮する!!
「おいっ、止まれ。こんなところにある宝箱は怪しすぎるだろう」
「あっ、それもそっか」
私がルンルン気分で奥に進もうとするとアークに止められた。
一階層にあるってことは、今まで誰もとってないってこと。いくら人気がないからって誰も入らないわけじゃない。誰かが探索していれば、取られていて当然。
それでも残ってるってことは何かあるってことだもんね。
「我が先に行く。少し待っていろ」
アークが先行して宝箱がある部屋に向かう。
――プシューッ!!
部屋の中に入ったところで真っ白な煙が噴射されて姿が見えなくなった。
「アーク!!」
私は駆け出していた。
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