第49話 薬草の楽園
周りが断崖絶壁に囲まれ、円柱型にぽっかり空いた窪地みたいになっている。
まるで自然が作った隠れ家みたい。
私は偶然が重なって生まれた神秘的な光景に、思わず息を飲んだ。
――ゴクリッ
上から陽が差して草木を照らし、適度な湿気もあって、どこからか穏やかに風が吹き抜けている。
植物が育つには良い条件だと思う。
そして、お目当ての物を見つけた私は目を奪われる。
「うひょぉおおおおっ、やっぱり!! どれもレアな薬草ばっかり!!」
そう。ここには普段よく見るものから、なかなかお目に掛かれないものまで、薬の材料になりそうな植物が沢山生い茂っていた。
これだけあれば、洞窟の外からでも分かるくらい濃い匂いが漂ってくるのも分かる。
近くに駆け寄ってじっくりと観察する。
「おい、勝手に動くんじゃない!!」
「これは除毛に使えるパイナ草!! こっちは美肌に効くヒアロー草!! ダイエットに使えるソウシン根まである!!」
肌のお手入れや毛の処理、それに体型管理は女性にとって目の上のたんこぶ。
それを軽減してくれる薬は女性に大人気。
割と材料が貴重であまり数が作れないのが難点なんだけど、ここには沢山の材料がある。
いっぱい作れそう。
だからと言って、ここを誰かに教えるようなことはしない。だって、誰かが乱獲して折角の群生地が荒れてしまうかもしれないから。独占するためじゃないんだからね?
勿論、そんな人はいないと思いたい。でも、世の中には悪い人もいる。薬師としてそんなことさせるわけにはいかない。
「おいっ、聞いてるか!!」
「あっ、あそこには、痺れ草や目覚めの実、ほぐし茸もある!! まるで薬草の楽園みたい!!」
それだけじゃない。麻痺系の薬や人を正気に戻す薬、それに石化を解除する薬なんかの材料になる植物も見つけた。
それ以外にも、回復ポーションは勿論のこと、様々な薬になる材料が至る所に無造作に生えている。
まるで採ってくださいと言わんばかり。
「もう我は知らんからな!!」
アークが何か言ってる気がするけど、私は夢中になって採集に取り掛かっていた。
「ピュイイイイイイイッ!!」
「ん?」
甲高い声が聞こえてきて頭を上げると、すっかり日が傾いてきている。
随分長いこと採集していたみたい。
でも、さっきの大きな鳴き声みたいなのはなんだろう。
――バサァッ
鳥の羽ばたくような音が聞こえたと思ったら、急に影が差した。
「ピュイイイイイイイッ!!」
「でっか!!」
不思議に思って空を見上げると、そこには大きな鳥が急降下してくる姿が。
パッと見、大きさが二メートル以上ありそう。
「アーク、ちょっと助けて!!」
「我は知らんもーん」
「そんなぁ!!」
助けを求めたら、地面に寝そべってゴロゴロして全然動いてくれそうにない。
もしかして放置しすぎて拗ねちゃったのかも。そういえば、何か言ってたような……。
アークがどうにかしてくれないなら、自分でやるしかない。
「あぁ、もうっ、どうなっても知らないからね!!」
「ピュイ、ピュイイイイイッ!!」
急降下してくる鳥のくちばしを避けて、思い切りその顔を殴った。
「えいっ!!」
「プギャッ!?」
――ベキベキベキッ
手に鳥の顔の骨を砕く感触が伝わってくる。
鳥は吹き飛んで地面を転がっていった。
「ふぅ……」
どうにか上手く撃退できたみたい。ちゃんと動きが見えるし、超健康パンチが強い。
鳥はビクビクと痙攣していたけど、数分くらいしたら完全に動かなくなった。
「もうっ、助けてくれてもいいのに」
「自分でどうにかできたではないか。良い機会だっただろう?」
不貞腐れてるのが伝わってくるので頭を下げる。
「はぁ、私が悪かったよ」
「分かればいいがな」
もうすぐ日も暮れるのでこのまま野営だね。
そうだ、今日は色々とやらかしてるので、汚名返上も兼ねておもてなしをしよう。
「お詫びに鳥を使って夕食を作ってあげるね」
「また、黒焦げな料理を食わせるつもりか?」
「ちゃんと上達してるんだから楽しみにしててよね。血抜きや解体はできる?」
「ふんっ、その程度造作もないわ」
アークに血抜きと解体を任せて私は野営の準備を始める。
テントを張ったり、火を起こしたり。かまども二つ作って準備万端。
「アーク、そっちは?」
「ほらっ、終わったぞ」
「わぁ、綺麗」
「我にかかれば、たやすいものだ」
「骨も少しちょうだいね」
すっかり綺麗に解体された鶏肉を見て私は感動してしまった。
アークは自信ありげに胸を張っている。今度解体教わろうかな。
それはさておき、気持ちを切り替えて、私はまず鍋に水を張り。鶏がらで出汁を取りながら、手早く鶏肉を切り分け、ここで採れた自然の野菜と一緒に炒める。
食材については、宿屋のアンナさんや孤児院のエメラさんに色々教わったおかげで、大分理解が進んだ。
それに、厨房で少し手伝わせてもらったり、孤児院で料理を手伝ったりしたから、ちゃんと実践経験も積んでいる。もう初めて料理した時とは違う。
街で売っていたピリ辛の醤を加えれば、鶏肉と野菜のピリ辛炒めが完成。
それが終わったら、出汁をこして鶏肉と野菜をごった煮にした鍋を作った。
ふふっ、マリンダさんに怒られそうだけど、調理器具も一式揃えちゃった。やっぱり美味しいもの食べたいしね。
「はい、どうぞ」
「ふんっ、匂いはまずまずだな。匂いだけは」
「いいから食べてみてよ」
文句を言うアークを黙らせ、料理を盛りつけた皿と器をアークの前に押し出す。
「そこまで言うのなら仕方あるまい……!?」
口に入れたアークは目を見開いたかと思うと、凄い勢いで食べ始めた。
そして、気づいたら全部なくなっていた。
これは美味くいった証拠だよね。
私は口端を吊り上げながら尋ねた。
「どうだった?」
「ふっ、ふん、前よりはマシなのではないか? 出されたら食ってやらんでもない」
「そっか、材料は沢山あるからどんどん食べてね」
恥ずかしそうに明後日の方角を向くアーク。
してやったり。
私は内心でほくそ笑んだ。
「ふむっ、我はそれほど気に入っておらんが、請われればやぶさかではないな」
素直じゃないのが丸わかり。とってもかわいい。
私はアークが満足するまで料理を作り続けた。
自分の食事を済ませ、浄化のオーブで汚れた物や体を綺麗にしたら、焚き火の傍に腰を下ろす。
「明日は元の道に戻れるといいね」
「方角は分かっているのだ。問題あるまい」
「そっか」
まさか山越え一日目からこんなトラブルに巻き込まれるなんて思わなかったな。
私はおもむろに地面に寝そべる。
「わぁぁ~、すっごい綺麗……」
視線の先には、満天の星空が広がっていた。
円形に切り取られた場所から見ることで、より一層その美しさが際立つ。
私はしばらく星空に魅入っていた。
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