第26話 それでも助けたい
詳しく聞いたところ、少し重い病気に罹ってずっと寝たきりになってしまった子がいて、治療費がとんでもなく高いため、孤児院の経済状況では進行を遅らせるのがやっとらしい。
「この子が……?」
私は孤児院の一室に通された。
そこにはベッドが一つ置いてある。その上には、血の気が引いていて、眼窩の落ちくぼんだ少女が、荒い呼吸をしながら眠っていた。
「はい……」
この子を見たら誰もが、
"死相が見える"
そういうと思う。
前世の自分を俯瞰して見ているような気持ちになった。
私もお母さんたちからこんな風に見えてたのかな。そりゃあ、あんな苦しそうな笑顔を見せるわけだよね。
「うう……お母さん……?」
「ミミ、調子はどう?」
「えへへ、いつもより楽だよ……」
「そう……」
女の子とエメラさんのやり取りが、私とお母さんの過去を彷彿とさせる。
「その人は……?」
ミミと呼ばれた子のぼんやりとした瞳が私を捉えた。
「今日孤児院のことを手伝ってくれた人よ……」
「そうなんだ……お姉さん、ありがとう……」
「いいえ、どういたしまして」
力なく笑うミミちゃんに私はできるだけ笑顔で返事をする。
「ちょっと、疲れちゃった……もう少し寝るね……」
「えぇ、ごめんさなさいね。無理させちゃったわ。しっかり休んでね」
「うん……」
ミミちゃんは苦しそうな表情のまま寝入った。
かなり状態が悪そうだ。このままだと何日も持たない。一刻の状況を争う。
「病名は分かりますか?」
「魔力硬化症っていうのよ」
魔力硬化症。
魔力は、魔力回路という血管みたいに全身に張り巡らされた経路を流れている。
魔力硬化症は、魔力が固まり、その経路を塞いでしまう病気のことだ。
魔力回路が塞がれると、体が凝り固まったように動かせなくなり、時折、激しい痛みが全身を襲う。
そして、魔力は徐々にその硬さを増し、最後は完全に動けなくなる。そうなったら、待っているのは死だ。
「それなら薬は簡単に作れそうですね」
でも、私はその病名を聞いた瞬間、安心した。
だって、恐ろしい病気だけど、治療薬はもう存在しているから。しかも、それほど珍しい素材を使うわけでもない。私も作ったことがあるし。
素材さえあれば、すぐに作ることができる。一番の難関だったルーリン草もすでに採ってあるので、後はよくある素材を取ってくるだけだ。
「え?」
「すぐに森に行って素材を取ってくるので待っていてください」
「え、あ、ちょっとアイリスさん!?」
善は急げ。
子供の様子があまり良くなかった。とにかく早く薬を飲ませた方がいい。
私はすぐに孤児院を出て、森に向かう。
『ただで治すつもりか? 安売りするなと言われたばかりではないか?』
『これも仕事の一環だよ。それに……放っておけないよ』
確かにギルドマスターには釘を刺された。
でも、それとこれは別。目の前で死にかけている子供を放ってはおけない。
それに、あの子の姿がどうしても前世の私と重なる。
本人は迷惑をかけて申し訳なさそうで、周りは何もできなくて苦しい笑顔を作って……このまま私と同じ末路を辿らせるわけにはいかない。
『ふんっ、お前の力をどうするのか決めるのはお前だ。勝手にしろ』
『ありがと』
アークはあえて釘を刺してくれたんだと思う。
無料で人を助けていたら、誰をどこまで助けるのか、キリが無くなってしまう。でも、今回は私の勝手にさせてもらう。
門を通り抜け、森の中に入って必要な素材を探し始める。
――ゴロゴロッ
作業をしていた時に予想していたように、暗雲が立ち込め、雷の音が鳴りだした。
――ポツ、ポツポツ
――サァアアアアアッ
そして、すぐに雨が降り始める。
私はずぶ濡れになりながらも、素材を集めていった。
「ふぅ、後はメーリス茸を取れば終わりだね」
「そんなに濡れているが、大丈夫なんだろうな?」
「うん、大丈夫だよ。風邪なんて引いたことないからね」
「相変わらずお前のスキルはおかしい」
これまでずっと、超健康のおかげでどんな過酷な状況でも体は壊さなかった。
だから、このくらい全然平気。
でも、私の気持ちとは裏腹に、どんどん雨足が強くなって視界が悪くなる。
――ゴロゴロ、ピシャーンッ!!
「うわっ!!」
雷の音も激しくなって、凄まじい音とともに閃光が走る。
「今日は諦めた方がいいのではないか?」
「大丈夫だよ。雷なんて落ちっこないんだから」
「何が起こっても知らんからな」
心配してくれるアークを無視してメーリス茸を探す。
それなりにどこにでも生息しているはずのメーリス茸がなかなか見つからない。
――ザァアアアアアッ!!
――ピシャーンッ、ゴロゴロ、ピシャーンッ!!
その間にも雨と雷が激しさを増していく。
視界が悪すぎて探すのが厳しくなってきた。
もう諦めた方が良いのかな……。
そう思った矢先、ようやく私はメーリス茸を見つけて掲げた。
「あっ、あったぁああああっ!!」
――ピシャーンッ!!
「人間!!」
焦った様子のアークの声が聞こえたと思ったら、目の前が真っ白になった。
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