謎の少女の笑い声
リッカ先輩を一緒に、幽霊屋敷の調査を始めた僕だったが。
思わぬところで……それも最悪の形で、『屋敷に入ったら死ぬ』という噂の真相がわかってしまった。
噂は正しかったのだ。
この寄生宮に入ってしまえば、たしかに死ぬ。
呪いの装備の代償によって……。
どうやら、僕は……この屋敷に、閉じ込められてしまったらしい。
――くすくすくすくす……。
「……ひっ!?」
突然、屋敷の中から、少女の笑い声が響いてきた。
小さな声だったけど、妙にはっきりと聞こえた。
まるで頭の中に響いてくるように……。
「……の、ノア? 今、笑った?」
「いや、僕じゃないです」
ジュジュが思い出し笑いでもしてるのかと思ったが、どうも様子が違う。ジュジュの笑い声はもっと下品だし、だいたい笑うとむせるし。
かといって、僕たちの他に人間がいるとは思えない。この寄生宮は、未装備のまま放置されていたのだから。
とすると、本当に幽霊でも住み着いてるのか……?
「はぅわ!?」
今度は――ふっ、と。
周囲にある全ての燭台に、一斉に火が灯った。
まだ薄暗いが、屋敷内を見わたすことぐらいはできるようになる。
「な、なんか、外から見たときより広くない……?」
「……ですね」
こぢんまりとした屋敷だったはずが、中に入ってみれば宮殿だ。
ここは玄関ホールだろうか。正面には緩やかにアーチを描く階段。見上げれば、吹き抜けの高い天井に、ステンドガラスの天窓。覆いが外されたのか、天窓からは光が差し込み、薄暗いホールの床に色彩豊かな花模様の光を落としている。
舞踏会でも行われそうな豪華なホールだった。
気づけば、どこかから楽器の音色も流れてきている。
次から次へと、不思議現象が起こるな……。
「だ、誰かいるの……?」
「みたいですね」
――くすくすくすくす……。
ふたたび、悪戯げな笑い声。
同時に、吹き抜けの二階部分から、ばさっと垂れ幕が降ろされた。
垂れ幕の上には、べったりと血文字がついていた。
――ようこそ!
「ひぃぃ!? 歓迎されてる!?」
「いや、歓迎ならよくないですか?」
「うぅぅ、もうダメだぁ……きっとあたしたちは、ここで夢のような時間を過ごすことになるんだぁ……」
「楽しみですね」
と、こんなことしてる場合じゃないか。一応、仕事中だし。
「それより、さっさと屋敷の調査を始めましょうか」
「えっ、調査するの!? なんで!?」
「いや、仕事ですけど」
まあ、すでに屋敷の正体はわかってるんだけど。
報告書に『屋敷=呪いの装備』とは書けない。
それに……この寄生宮の代償は、『外に出たら死ぬ』というもの。
なんらかの“抜け道”を見つけなければ、僕はこのまま一生閉じ込められることになる。
「あの、怖いなら外で待っててもいいですよ」
「はぁ!? ちょっ、えっ……はぁ!? べ、べつに怖くなんかないし! 普通だし!」
リッカ先輩が壁に手をつきながら立ち上がった。
「ふ、ふんっ。あんま先輩をナメないで。これぐらいの修羅場の一つや二つ、余裕で……」
――ばんっ。
「はぅわ!?」
突然、壁になにかを叩きつけるような音。
リッカ先輩が、ぎぎぎ……と壁を見る。
その視線の先には、べったりと血文字が踊っていた――。
――祝!
「祝われた!?」
「よかったですね」
「うぅぅ、もうダメだぁ……きっと、あたしは死ぬまで祝われ続けるんだぁ……」
「素敵な余生ですね」
リッカ先輩が頭を抱えて、がくがく震えだした。
――くすくすくすくす……。
ふたたび、女の子の笑い声が響いてくる。
――くすくす……ぷふっ……げほっ……うぇ……。
めっちゃ笑われてます、リッカ先輩。
「にしても、なんでしょうね、この声? やっぱり誰かいるんですかね」
「…………」
「一応、声の主についても調査しときますか。正体ぐらいはつかまないと報告できませんし」
「…………」
「リッカ先輩?」
返事がない。リッカ先輩はフリーズしていた。
「……ノア、手」
「はい?」
「手、つないであげる」
「いや、いいですけど」
「ばっ、あんたっ! 迷子になったらどうすんの! 迷子ナメてたら痛い目見るからね!」
そう言って、無理やり手を握られる。
べちょり。
「うわ……」
先輩の手、汗すご……。
さすがに、口に出しては言えないが。
「よし、行くよ! あたしがこの屋敷の謎を解明してみせる!」
「はぁ」
リッカ先輩がやる気になったのはいいけど……いきなり前途多難だなぁ。










