EP 60
「優里さん」
「はい……?」
「優里さんはさ、ありのままで、そのままでいいから」
「はい。ありがとうございます」
そろりと近づき、ぎゅむっと抱き締めた。撮影の残り香なのか、いつもとは違う化粧品の香りがして、愛しさを倍増させる。優里さんはそろりと腕を背中に回してくれた。
それだけでもう俺は、たまらない気持ちになる。触れないでおこうと思っていたが、問いたい気持ちがむくむく出てきてしまう。
溢れ出る気持ちに、自分を止めることはできなかった。
耳元で囁いた。
「ねえ、俺のことどう思ってる?」
優里さんは身体をビクうぅぅっとさせてから、「ややや柳田さんは素晴らしい筋肉をお持ちで、それはまさしく神の領域で、」と、筋肉についてまくし立てる。
俺はそれを優しく制すると、「優里さん、筋肉のない俺は好きじゃない?」と、大胆なことを訊いてしまった。
これはアホだ。悪手を繰り出してしまった。
だって、優里さんの返事によっては、地獄へと突き落とされかねないヤツだから。もしかすると、俺は俺自身の筋肉に勝てないかもしれないじゃないか。
訊いてしまってから後悔。だがすでに遅し。
もし、柳田さんの筋肉しか興味ありません、筋肉のない柳田さんは1ミリだって好きじゃありませんって言われたら、永遠にこの筋肉を恨みながら……も育て続けなければならない。(←結局筋トレ)永遠に終わらない哀しみの筋トレ。うーん。辛いだろうができんことはない、か?
(はあぁ、失敗したな……)
けれど、こうも思う。優しい優里さんのことだから、筋肉だけ興味あるなんて言ったら、俺が傷つくかもと思ってくれそうな気もしている。
だからって、好きでもなんでもない男を受け入れるかって言ったら、そこはなんとも言えないけども。
ぐるぐるぐるぐる考えること、この間、約3秒。
すると、腕の中の優里さんが、もぞっと動いた。身体を離そうとしている。
やばい、抱き締めたのは無理矢理ではないけど、流れ的にちょっと強引だったかもしれない。やめてください、こんなのはセクハラですよと言われるかも。だがしかし、それなら背中に腕を回さんだろ。嫌ならその場で、パンっと頬を殴ればいいのだから。ややや、優里さんがそんな暴力的な行動できるわけなかろーもん!
と、この間、約3秒。悶々としていると。
「柳田さんの筋肉は大好きなんですけど……」
この微妙な沈黙、約3秒。
けど……?
「神様って思ってますけど……」
けど……?
「私は柳田さんがまるっと好きなので」
なので……?
「筋肉があろうがなかろうが……」
「うん」
「大好きです」
「ん」
あそう。あそう!! ああ良かった。泣きそう。色々覚悟はしていたけど。(←約10秒ほどの覚悟)
「嬉しいよ。俺もね、優里さんが例えぽっちゃりでもぽっちゃりでなくても……」
今の優里さんが大好きだよ。
そう口にすると、熱いものが胸に迫ってくる。
「ありがとうございます。柳田さんに好きだって言われるなんて、本当に夢みたいです」
俺は顔を近づけていって、優里さんの瞳を覗き込んだ。
「……これでも夢だと思う?」
そっと、優里さんの唇に、俺の唇を寄せた。
やわらかっっ。さすが俺のやわもちアイス。頬を両手で包み込み、そしてもう一度キス。
苺大福なほっぺに優しくキス。可愛らしさ満点の鼻の頭にキス。まぶたにキス。
そして、もう一度ぎゅうっと抱き締めた。
「はー幸せ」
口から出た言葉は、自分を驚かせる。女性と付き合っていて、こんなに満たされ、幸せで、満足で、嬉しくて、楽しくて、愛しいなんて思ったこと、一度だってない。
「私も幸せです」
ほんと? 俺、本気にしちゃうよ?
「今まで溺愛したくてもできなかったけど、これからは覚悟してね」
「お手柔らかにお願いします。ミニパフェか、オリジナルクッキーぐらいから始めてくださいね」
お互いに顔を見合わせて笑い、そしてもう一度キスをした。
柳田昴の溺愛リスト
①白井優里名義で不動産を買う
②全身の筋肉をスキャンしプリントアウトした等身大の抱き枕を作る
③瞬時に料理のカロリー計算ができるアプリを開発
④結婚式はディズニーラーンドを貸し切り
⑤購入した不動産とは別に城のような新居を建てる
「昴さん、これからはおなかの赤ちゃんのこともよろしくお願いします」
「もちろん!! 優里と同じくらい溺愛するからね」
⑥購入した競走馬に生まれた娘の名前をつける
⑦娘が遊ぶための遊戯施設を建設
「優里、家にジム室を作ったのに、まだ『stone』に通うの?」
「はい。もちろんです。『stone』は私が昴さんに出会えた奇跡の場所ですから!!」
⑧『stone』高畑店を『stone〜奇跡の出逢い〜記念館』へと改称
「パパぁ、いってきますぅ」
「あ、お迎えが来たんだね。さあ、気をつけていってくるんだよ」
⑨リムジン送迎に並走するボディーガードを雇う
「昴さん、大好きです」
「優里、俺も愛してるよ」
⑩1日に10回は筋肉で優しく包み込み、愛の言葉を囁く
完




