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EP 56

「ではリラックスしていきましょう!」

カメラマンの斉藤さんがビデオカメラを回しながら、私に近づいてきて、レンズを向ける。

薄ピンクのワンピース、透け感のあるふわりとした素材のカーディガンをはおった私はもう心を決めていた。ワンピースのすそを持って、くるっと一回転。

(もう頑張るしかない)

それはもちろん柳田さんのためでもあって。

(ここまで痩せることができたのは、柳田さんのお陰でもあるし)

あの25歳の誕生日の日、ひとりでホールケーキを完食し、なんということをしてしまったのだとハッと我に返り、どん底に落ちてしまった日。そこから這い上がるようにダイエットを頑張り、ずいぶんと痩せた。

食事制限で辛い思いはしたが、胃が小さくなればすぐにお腹はいっぱいになって、少量でも満足できるようになったし、小腹がすいたらせんべいかコンニャクを食べて凌ぎ、食欲に振り回されながらも、ジムでもらった1日の総カロリー以内に抑えてきた。

(柿の種の小袋を一時間もかけて、ちみちみと完食したことが思い出されるなあ)

そして今日。

記念すべきこの日。

ダイエットの末にとはいえ、モデルにまでなれた。

今までの努力が実り、結実した日と言えるだろう。

「優里ちゃん! なかなかいいよ! そこで一度ターンしてから、カメラの方を見つめて……はい! 笑顔おぉぉ!」

映像作家でもあり監督の星野さんが声を張る。

「じゃあ次は階段から降りてくるところを撮りましょう。メイクさんっ入ってあげて」

すかさずメイクの方が、私の化粧とヘアのお直しに入ってくれる。

(本物のモデルさんみたい。なんだか照れくさいけど……この撮影のために、リリさんがエステに力を入れてくれたし、プロのメイクアップアーティストの方も頼んでくださって……私、本当にダイエット頑張って良かった)

「衣装替えもいい? 次はこれどう?」

柳田さんがお勧めしてくれたのは、ブラックの細身のドレス。美しいレッドの刺繍で、ひらひらと飛んでいる蝶がデザインされていて、大人っぽいものだ。

衣装のラインナップを見たとき、このドレス素敵だなと思ったけれど、私には1番遠い存在のような気がして。

ドレスのデザインがあまりに大人っぽくて、気後れしてしまったのだ。

「これはちょっと……派手すぎますかね」

「そんなことないよ。優里さんは、もともと顔のパーツがはっきりしてるから、これくらい逆に似合うと思うよ。ほらおいで」

鏡の前に立つ。柳田さんが、後ろから抱き締めるようにして、ドレスを当ててくれる。

「どう? 見てごらん。すごく似合うじゃないか」

「本当だわ! 昴、あんたなかなかの目ききじゃない!」

リリさんの興奮した声の中、柳田さんの身体がもう少しで密着しそうなのが、ほわりと背中に伝わってくる体温でわかる。

私はその体温を感じてドキドキしながら、鏡の中の自分を改めて見た。

ブラックはもちろん、細見えのカラー。もしかしたらもう少し痩せて見えるのかもしれない。

でも。

「でもまだ身体のラインに自信がなくて……」

「大丈夫よ、優里ちゃん。私がついてるわ!」

リリさんが補正下着をわんさか腕に抱えていて、笑った。

「じゃあ一度着てみます」

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