EP 51
「ありありありがとうござござございまする」
私は慌ててスマホを取り出し、震える手でカメラをONした。
「どうぞ、好きなだけ撮って。あ、ウエストのボタンも外した方がいいね」
パンツのボタンを外して、下腹を見せてくれた。ちらと下着の英字が。
くうぅ鼻血ものだ。
時よ止まれえぇぇ!
「ふぉわわっ、もう少しもう少し……」
うっかり願望が口をついて出てしまった。
柳田さんは苦笑いをし、「これ以上はちょっと……」
はい。セクハラです。ただ、柳田さんの柳田さん辺りもお写真に収めさせていただきたい、がふっ。
パシャパシャパシャ。
「ありがとうございました」
心中、はあはあしながら、スマホをカバンに収める。必死で興奮と軽いめまいを押し殺し、私はお礼を言った。
「もう良いの? 優里さんは本当に控えめな方だ」
はははと笑いながら触る? と言う。
触る?
え? 触るって言った?
「いいんですか?」
「もちろんどうぞどうぞどうぞ」
言ったよね? 確認だけどダチョウクラブも今、良いって言ったよね?
私は恥ずかしさと触りたい欲求との狭間で苦しんだ。苦しんだけど、それは一瞬。もちろん『触ります』に天秤は傾いた。
「じゃ、じゃあお言葉に甘えて」
心臓がドキドキしてくる。柳田さんに、じっと見つめられているような気もするけど、それどころじゃない緊張がハンパない。
そろりと手を伸ばす。ちょんっと指先が、神のシックスパックへ。うわ、硬い。ぽよんもぷよんもない。そこにはただただ、塊があるのみ。神よ。
「すごくカチカチですね。やっぱり毎日鍛えていらっしゃって、すごいです」
「まあ、半分は仕事のようなものだけどね」
「ストイックですよね。私なんか足元にも及びません」
「そんなことないよ。優里さんだって、頑張ってる。俺、ちゃんと見てるからどれだけ頑張っているか、知ってるよ」
私がシックスパックから視線を外し、そして顔を上げる。すると、そこには優しげに笑う柳田さんが。
ドキッとした。あまりにも優しい視線で。目を細めて口角をニコっと上げ、私の顔から視線を離さない。
「もういいんですか? もっとどうぞ」
手をぐいっと握られ、そして柳田さんの下腹へと誘われる。手のひらをくっつけると、自然と足が前へと進み、身体同士が近づいてしまった。
(わああぁぁぁああああ)←クレッシェンド
恥ずかしいっ。心臓がバクバクして、口から心臓が飛び出しそうだ。
そして。
「優里さん、抱き締めてもいいですか?」
思考停止。
「ふふ、可愛いな」と背中に腕を回し、ぐいっと引き寄せられた。
夢の中のできごとだろうか。現実ではないのかも知れない。
今、私は柳田さんの筋肉に包み込まれている。しかも直に。生シックスパックに。現実に。
硬い筋肉なのだというのに、私には柔らかい抱擁に思えて仕方がなかった。
持て余していた腕を柳田さんの後ろへと回す。
「こうしていられて、嬉しいな。優里さん、大好きです」
耳元で囁く甘い声。ガクガクッと足から力が抜けてしまったけど、私の身体は柳田さんの全身で受け止められている。
気を失いそうな時間が流れていった。




