EP 48
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「あ、柳田だけど」
カフェ『vegeta』。俺が経営するカフェだ。
「悪いけど、明日の夕方6時に私ともう一人、予約を入れて欲しいんだけど」
はい、はい、と気持ちの良い返事をくれるのは、フロアマネージャーの岩清水悠太くん。弱イケメンで仕事はテキパキ、すらりとブラックのカフェエプロンが似合う、29歳の男の子だ。
『承知しました。では、『メニューYou』の出番ですね。ショーケースの中はお惣菜に、そしてオリジナルクッキーを撤去、と』
うん。さすが仕事ができる男、話が早い。だが。
「岩清水くん、オリジナルクッキーは撤去しなくていい。ただ、数を減らしておいてくれないか? そうだな……3つくらいに……」
優里さんはここのオリジナルクッキーを気に入ってくれた。
「このサクサク感がたまりません〜甘さも控えめで、私にはちょうどいいです」
(あの笑顔がたまんないんだよな)
のろけだって? はいそーです。←秒
1袋が約330kcal、3つ買っても990kcal、1日に3つを一気に食べるわけじゃないから、これくらいならオッケーだ。
「いや、やはり2つにしよう。じゃあ頼んだよ」
そして『メニューYou』。これは、優里さんのためだけに開発した、低カロリーな料理の特別メニューだ。優里さんに気兼ねなく、食事を楽しんでもらいたいが一心で、研究した。
そしてもちろん、レジ周りには誘惑となるものを置かず、優里さんに辛い思いをさせないように、配慮している。
けれど、それでもまだ。
「なんか好きなだけ食べさせてあげたいんだけどなあ。そうできない自分が辛い……」
実を言うと。
洋服をプレゼントしたいと、行きつけのセレクトショップへも足を運んだ。
優里さんのサイズはもちろん熟知しているし、ジム『stone』にデータとしての数字も保管してある。けれど、もし万が一。購入しプレゼントした洋服が入らなかったり、着られなかったりしたら。
「優里さんを傷つけてしまうことになるだろうな。ここは慎重にならねばなるまい」
だから、洋服のプレゼントは断念した。指輪もサイズがわからないからダメ、ブレスレットもダメ、サイフもダメ(これは各々の使い勝手の好みの形があるため迂闊にはプレゼントできない・サイズは関係なし)、そうなったらもうなにをプレゼントしていいのかわからなくなり、俺はまあ優里さんが気に入った不動産でも購入するか、みたいな気持ちになっていた。
「は? 昴? あんたそれ一番やっちゃダメなやつ」
姉貴のリリがそうのたまった。
「え? だめ? だって今まで付き合った女性は、欲しいものがこれって決まってたし、勝手に買って勝手に俺のクレカで支払いしてたからさ。優里さんへのプレゼント、どうしたらいいかわかんなくなっちゃって」
「そうねえ」
姉貴がソファでワインを飲みながら、思索にふける。
「お付き合いのOKを貰うには、プレゼントは必須だろ?」
「だからって不動産ww」
「このタワマンの空室状況も調べたんだ」
「昴」
姉貴が真剣な顔でじいっと見つめてくる。
「愛が重すぎる」
「えっ!! そうかな」
「あんたは仕事はできるのに、こと恋愛になるとほんとダメんなるわね」
「恋とか愛とか、今まで全然わかってなかったんだよ。自分の中にこんな醜い嫉妬心があるってのもまったく気づかなかったし、なにより好きだって気持ちもどんなものかわからなかったから」
「そうよね。まああらかた、誰にも彼女を盗られたくない。自分だけを見て欲しい。他の男のことなんか、1ミリだって考えて欲しくない。そんなとこでしょ」
「な!? なんで俺の気持ちがそこまで……姉貴って、人の心読めるの?」
「ww」
姉貴はワインをテーブルの上に置き、スマホを取り出した。スイスイっとスクロール、タップしてトン。
画像を俺に見せてきて、「とにかく次のデートのとき、あんたはこれを持っていくこと」
「え? これ?」
「そう! これ」
そして、にやりと意味深に笑った。




