EP 46
こちらはすんなりリビングへ入ってもらう。お茶を淹れようとしたら、お構いなくと言われてしまった。
柳田さんは眉根を寄せて、すごく真剣な表情を崩さない。その前にすとんと座った。
「あのう、どうされたんですか?」
「部外者がこんなこと言うのもおかしいと思うかもしれないけど……」
「はい」
「黒田くんはやめておいた方がいい」
「……えっと」
柳田さんは、ぎりぃっと唇を噛みながら、そっぽを向いてしまっている。
ん?
バナナ?
そうだった! バナナが嫌いだったんだ!
私はバナナに手を伸ばし、そっと取り上げた。すうっと音もなく、背後にあるテレビ台に乗せ……いやだめだ! ここではまだ柳田さんの視界に入ってしまう!
バナナをラグビーのように抱えてすうっと立ち上がり、そろりーそろりーとキッチンに回る。
ここもだめだ! 帰るときに目に入ってしまうではないか! ならばここ!
魚焼きグリルの中へとぎゅむっと押し込んだ。
さささとリビングに戻り、座る。柳田さんは……おぉ表情が和らいでおられる!! 私グッジョブ!!
「もう一度言うよ。黒田くんはやめておいた方がいいよ。優里さん、いくら黒田くんが好きだと言っても、黒田くんの正体を聞いたら、気持ちも変わると思う」
ちょいちょい待て待てぇーい。
「あの、私別に黒田さんのことはなんとも思ってなくて……」
「え? でもだって、ごはん食べに行くって……デートって」
「ちょっと自分が無の境地というか仏になっているときに、うっかり約束しちゃいましたけど、すぐにお断りしました」
「そうなの??」
「はい」
「でもさっき、滝沢バナナに好きな人がいるって……ごめん、聞いちゃったんだ」
「え!! あ、それはその……」
「だからきっと黒田くんだと思ってしまって……掃除の西田のおばちゃんに聞いたんだ。黒田くん、すごく女癖が悪いって。だから、優里さんが黒田くんの毒牙にかかる前に、警告しようと思って……」
「え! そうなんですか? いやにぐいぐいくるなあとは思ってましたけど……」
「それじゃ、優里さんの好きな人って……?」
もちろん柳田さんだ。けれど、好きすぎて、すでに柳田さんは私の中で神格化してしまっている。だから、好きなんていうこともおこがましいし、許されないことだと思った。思ってしまったのだ。
これ以上、柳田さんに迷惑を掛けたくない。
「あの……ですね。それはその、職場に良いなって思う人がいてですね」
「滝沢バナナ以外で?」
「もちろんそうです」
「アラ還の社長さん?」
「まさか! 違います」




