EP 45
すると、タクシーのアクセルがウオォーンと響いた。
「おい! 母ちゃんもその男に口説かれてんじゃねえんかい」
運転手の西田さんが、横槍を入れる。
「はあ? こんなおばちゃん、誰が声を掛けてくれるっていうんだ!」
「いやあ、そうじゃねえならOKだあ」
「なにホッとしてんの、この旦那はアホだねぃ」
「バカかぁ。心配してんじゃねえよ? ただ、男に声掛けられるんことがあったら、赤飯炊かにゃいかんでな」
「だったら、赤飯、一升炊いとくれよ!」
「ははっそーんなモテるわけねーべ。バカだなあ、おまえは!」
あのーこれーいつまで続くんですかね。家に到着するまで無限ループ? きっつぅ。
けれど、これは重要な情報を得てしまった。
(黒田くんがそんな男だったとは知らなかった)
そうなると、白井さんが心配だ。あの無垢な女性がもし、悪いゲスな男の手に落ちてしまったなら。
(きっと傷つくし、それに……)
黒田くんを振ってくれれば、俺にだってチャンスが回ってくるかもしれない。(←バナナは範疇外)
「西田さんっ!! 悪いけど、優里さんちに引き返してくれる?」
「「お?」」
「俺、黒田くんのこと警告してくるよっ」
「「よく言った!!」」
「あんた、見直したよ! それでこそ、男ちゅーもんよ」
タクシーはぐるっとUターンした。
「おい! ここにも男はおるってこと忘れんなよぉ!」
ウォンとアクセル。ブゥーっと時速30キロで飛ばす。
「あんたよりイイ男、どこにもおらんのよ」
「バカヤロッッ、おまえもイイ女だっつーの! はははっ」
……これまだまだ続くわ。
*
ピンポーンとチャイムが鳴った。
私は宅配かな? と思いながらインターホンを押す。
『滝沢だけど』
たっっっっ
っっちゃん!
あれから、たっちゃんとは職場でもあまり接点を持たないように気をつけてはいた。私は事務だし、たっちゃんは営業。だから、あまり会わないのが救い。
避けていたということもある。あんなダイレクトにキスされそうになって、私は若干、いや、かなり、いや、めっっちゃくっっちゃ引いてしまっていた。
警戒しなければ。アラート発令。部屋へ入れてはならない! 全員戦闘配置につけ、ラジャー!
「はい」
ドアを細目に開けた。本当はチェーンしたいくらいだが。細い隙間から、さささっと外へ。あれ? 細い隙間でも通れる!! やっぱ私痩せたわ!!
後ろ手にドアを閉めた。
「突然ごめんね」
今日は本当に突然の発生が多い。
いや、柳田さんは私が気づかなかっただけで、ちゃんと連絡くださってた。さっと尻ポケットに入れたスマホを取り出し、LINEを確認。
ブッブー。たっちゃんからの連絡はなし。完全にアウトォォ。
「たっちゃん、どうしたの?」
「どうしたもこうしたも。仕事場では白ちゃんに全然会えないからさ」
ガサッとスーパーの袋をぐいっと出してくる。
「え? なに?」
「バナナ」
はい。薄っすら黄色でわかってましたぁ。
「えっと……ありがとう?」
「で? 返事は?」
「なんの……?」
「俺と付き合ってって話」
「あ、ごめん。それはできないかな」
「あっそ。誰か他に好きな人いるのかよ?」
「あっ、う、うん」
「あっそ。わかった」
そう言うと、私が受け取ったスーパーの袋に、いきなりガバッと腕を入れ、バナナを一本ポキっと折って取り出した。
「じゃあな」
と、バナナを持った手をぐいっと上げて、ONE PIECEのあの感動シーンみたいに帰っていく。
え? あんなにグイグイきてたのに、引くの早あぁぁっっっ! びっくりするわもう! 助かったけど!
私は呆然となりながらも、スーパーの袋の中を覗き込んだ。
残り3本か。来る間にもう1本食べてきたな……。イケメンとはいえ掴みにくい人だ。
部屋へと入ってカギをかけ、そしてリビングのローテーブルにバナナを置いた。
すると、またインターホンがピンポンと鳴った。
恐怖!! インターホンが鳴り止まない!! 的なホラーかと思いながら、はいぃぃ! とやす子さん風に出る。
「何度もごめんね。柳田です」
えっ、まさかの柳田さんww
「ど、どうしたんですか?」
「申し訳ないけど、少し時間いい?」
「はい。どうぞ」




