EP 43
首を傾げた柳田様。本日も見目麗しいお姿です。horseマークのついたブルーのポロシャツに、白の綿パン。あーね。よくよく見れば、完全にジムのオーナーだよね、この出で立ちや立ち居振る舞いは。
お姉さんのリリさんだって、エステサロンのオーナーなんだから、柳田さんだって、あり得る話なわけで。
(この美貌と筋肉に、ジムのオーナーだってなったら、もっときゃあきゃあ言われて投げ銭どころか、一周回ってファンクラブできちゃうだろうから、それで黙ってたんだろうな)
私は無理にでも笑顔を作り、そして言った。
「あのっっ、もちろんこんな私で良ければですけど。柳田さん、『stone』のオーナーさんなんですよね?」
柳田さんは驚いた風な顔をして、「なんで……知ってるの?」と言った。
「黒田さんから聞いたんです。安心してください。私、もちろん誰にも言いませんから。それで私、柳田さんにはすごくお世話になったし、『stone』の宣伝に一役買えるならって思ってて。結構これでも筋肉もついたんですよ!!」
そして、腕を曲げて力こぶを見せる。
「ほら!! 結構でしょ? 柳田さんの筋肉を目標にさせてもらって、それでこんなに筋肉がついたんです!!」
「……俺の……筋肉を目標……?」
「はい!! 柳田さんの筋肉みたいになりたいって、ずっと思ってて。筋トレのコツとかも教えてもらえて、本当に助かりました。だからってことはないですけど、お礼のつもりで。私のビフォーアフターもじゃんじゃん使ってください」
柳田さんは少しぼーっとした雰囲気で、マグカップのコーヒーを飲んだ。
「うん。ありがとう。気持ちは嬉しいけど……」
そして、ぐいっと飲み干すと、「もうそろそろお暇するね」と腰を上げた。
あまりの退出の早さに私はつい。
「あ、柳田さんっ、いただいたもので恐縮ですけど、良かったらクッキー一緒に食べませんか?」
「いや、遠慮しておくよ」
「でも、すごく美味しそうですよ。味見でも……」
「美味しいってのは知ってるんだ。あの店、俺が経営してるカフェだから」
度肝を抜かれてしまった。
「えっ!! そうなんですかっ。柳田さん、すごい人だったんですね……」
「はは。親から受け継いだものだからね。そんな大層なもんじゃないよ」
「そんなこと……ないです」
遠いと思っていた存在が、もっと遠くへ。
イケメンで筋肉美でジムやカフェのオーナーで背も高くて力持ちで足は長くてバナナを敵視。
これだけ揃っていて、女性がほっとくはずがない。そう。恋人がいないはずがないのだ。私のような、偽物の彼女なんて、必要ない。
ズキっと胸に痛みがあった。
柳田さんは、少し足元をヨロつかせながら、リビングを出て玄関へと向かった。スニーカーを履いて、ふと振り返る。
「優里さん、この前のことは本当に申し訳なかった。それに、ブランディングモデルもやると言ってくれてありがとう」
「い、いえ! 美人でもなんでもない私が、厚かましいったらありませんけど」
「優里さんは、自分ではわかってないかもしれないけど、とても魅力的だし可愛いよ。自信を持ってね」
「あ、ありがとうございます」
そして、もごもごとひと言言って、それじゃあ、と家を出ていった。
「……良かった。ちゃんと笑って引き受けることができたよね……」
溢れてきた涙をもう一度、手で拭った。




