EP 23
「優里さん。お疲れ様です。今日も頑張ってたね」
「あ! 柳田さん! お疲れ様です」
「あれ? 今からまたジムに戻るの?」
ちょっとした違和感があった。胸の辺りがざわ、とざわついた。
「いえ。今日はもう終了です。帰ります」
「でもウェアのままじゃない。汗だくだよ? シャワーは浴びなかったの? 私服はどうしたの?」
前髪がおでこに張り付いている。頬にかかった髪をそっとよけようと手を伸ばした。
「シャワーは今日はちょっと……あ! あんまり近づくと汗臭いですから……このまま帰ります」
後退り。
「服は?」
「汗が染みちゃうとなかなか取れないから、着ずに持って帰ろうと思ってます」
「…………」
違和感が空気を入れるバランスボール並みに膨れ上がった。だが、渋々自分を納得させた。
「そう……じゃあ気をつけて」
「はい、さようなら!!」
なにかが引っかかる。
不審に思った俺は、入り口で床の清掃をしていた掃除のおばちゃん、西田さんに声を掛けた。
「西田さん、お疲れ様です。さっきの女性ですけど、いつもは汗を流して帰られますよね」
「あーね。ぽっちゃりさんだろ? ニコニコしてサウナも入っていくよぉ。あの子良い子だねえ。あたしらにいつも元気よく挨拶してくれて」
「今日はあのまま帰るって言うのでちょっと心配になって」
「んん? そういやあシャンプーやボディソープの置きカゴが無くなっちゃったって言ってたよ。あとバスタオルがね」
「え! それって今日のことですか?」
「んだよ。でもねえ、実を言うと前からそういうことが何回かあってね。そりゃ最初は誰かが間違えて持ってっちゃったんじゃないかなって、あたしも思ったさ。でもそのうち何回も無くなっちゃうもんだからね。あたしゃ間違いなんかじゃないと思うんだけど」
「誰かに盗まれてるってことです?」
「んー。この目で見たわけじゃないし、証拠もないし、そこまで強くは言えないんだけどね? でもどう考えたっておかしいでしょ」
「ですよね」
俺は考え込んでしまった。疑ってしまったのだ。これはあの噂話を流していた3人組の仕業ではないかと。
いや、証拠もないのに疑ってはいけないのだが。
「でもねえ」
おばちゃんの言葉にはっとした。
「あの子、何度無くなっちゃっても、誰かが間違えて持ってっちゃったみたいって、笑いながら新しいの買ってくんのよ。だからもうおばちゃんのロッカーに入れときなって言ってやったんだけどね。でも、おばちゃんのロッカー狭いし小さいし自分のカゴなんか入れたら、おばちゃんの荷物が入らなくなっちゃうからって。あたしのことまで気にしてくれてね。良い子だよ、ほんと。今時あんな子いないよねえ」
俺はそのまま帰宅して、パソコンを開いた。そして掃除のおばちゃん用の大きめなロッカーと、小さめのナンバーロックを50個ほど購入してから、『権現株式会社』のホームページに飛ぶ。
白井さんが、スカートを持ち上げてポーズをつけている写真を出す。
「これでもう誰かに間違えて持っていかれることもなくなると思う。汗だくのまま帰ったら、風邪を引いてしまうからね」
知らぬ間にそう話しかけていた。




