EP 19
*
が。
それなのにどうしてこんなことに。
「姉貴が無理を言ったようで悪かったね」
柳田さんと向かい合って座っている。なぜかリリさんはいない。なぜか。
訊くと、「ああ。姉は全国エステサロン協会の会合に行くことになってね。今日は来られなくなっちゃったんだ」
リリさーん!!
「それにしても優里さん、とても細っそりされたみたいだね。初めて会った頃とはずいぶんと変わったようだ」
本日の柳田様は、Vネックの軽めのニットに綿パンという出で立ちだ。カッコイイ。単純だけど、こんな柳田さんのお姿を拝見できるだけ、幸せです。
「あ! ちょっとすみません!」
そう言って店員さんを呼んだ。
メニューを見ながら、コースを二つ……と言い掛けて、「すまない、やっぱりこれとこれにしてくれ」と告げる。店員はかしこまりましたと言って厨房へと下がっていった。
その間、私は緊張のあまり二杯目のお冷やを全部、ガブガブと飲み干した。
「もうそろそろアフターの写真撮った方が良いね」
柳田さんもお冷やに口をつけながら言う。
「そうですか? 一応、スタッフの黒田さんが撮ってくださってますけど。それにまだそんなに痩せてないような気もします」
「そんなことはないよ。黒田くんも、白井さんは順調ですって言ってたし。でも大事なのは記録とモチベーションの維持だから、次にジムにお会いした時にでも撮っておこう」
「は、はい」
食事が運ばれてきた。パスタだ。
「勝手に注文させてもらってごめんね。新作のパスタが出てたから、どんな味なのかなと気になっちゃって」
「いえ、私はなんでも食べますから」
そして、柳田さんはペスカトーレを、私はカルボナーラを取った。
フォークを出して食べようとすると、柳田さんが頬づえをつきながら、「カルボナーラも食べてみたいなあ」と言う。
ん? これはもしかしたら、アーン的な?
と思ったが、おそらくそれは不正解。
「じゃあ小皿に取り分けますね」と、お互いの料理を小皿で交換した。
「わあこれ美味しい」
カルボナーラの濃厚な味わい。卵黄や生クリームのコク、ベーコンの旨味、そして生パスタのモチモチ感。すべてにおいて、完璧だった。
「チーズのコクもあって、んーーー幸せです」
「それは良かった。こっちのペスカトーレも美味しいよ。食べてごらん」
笑いかけてくれる。Vネックの軽めニットが形作る胸板の筋肉もセクシーでカッコいいのだが、柳田さんの笑顔もこれほどに尊い。いつでも課金できるように賽銭箱を設置して欲しいくらいだ。神よヨロ。
「ほんとだ! ペスカトーレもすごく美味しい! ニンニクが効いてますね」
「うんうまい!」
柳田さんはワインをぐびっと飲みながら、「パスタにワイン、合うね〜」と上機嫌だ。
そしてパスタを堪能したあと、柳田さんが「すみません!」と店員に向かって手を上げた。
「白井さん、他に食べたいものはない?」
「あ、じゃあ! パフェのイチゴを!」
そこで一瞬、柳田さんの動きが止まる。
「パフェ? ミニじゃなくて? 普通サイズの?」
「……あ、はい」
柳田さんは、ぐるりと一回転した視線をメニューに着地させると、「へ、へえ。パフェって色々な種類があるんだね。あ! このミニパフェ、イチゴの他にもチョコブラウニーらしきものが入ってるね。これ美味しそう」
そう言って、メニューを反対向きにして見せてくる。
「本当ですね。美味しそう」
「ねー。これにしたら? これならイチゴも食べれてチョコも食べられるから一石二鳥だもんね。イチゴパフェだとイチゴ味しかしないから食べてるうちに飽きちゃうだろうし、ソフトクリームの部分が多すぎて、イチゴソースが途中足りなくなって最悪! ってなる可能性が……あ! ほら! おにぎりでもよくあるでしょ? 具が少なすぎて白飯だけになってしまう事件って。そういう落とし穴に落ちるかもしれないから、ちょっとこれはどうだろうって感じだねえ?」
イチゴパフェへの独特なアプローチww
「……はい。じゃあこっちにします。このミニパフェで」
「りょーかい」
店員に注文し、運ばれてきたミニパフェを前にする。スプーンを持って食べ始めると、柳田さんがとても嬉しそうで満足そうな顔をしていた。
(イチゴパフェになにかしらのトラウマでもあるのかな……)
疑問はひとつ残ったが、私はミニパフェで十分だったし、最後のひとスプーンまで実に堪能した。美味しかったのだ。
「ご馳走さまでした! おなかもいっぱいだし美味しかったあ!」
ワインを最後の一口飲み干した柳田さんが、最後に嬉しそうににっこりと笑ったのが印象的だった。




