EP 18
ワンピースを着ると、いつも下腹にでっぷりな浮き輪の存在を感じていたが、今日はあまり気にならない。こんなにも洋服がフィットしたことも、太ってしまってからは一度もなかった。
「社長、着てみましたけど……」
そう言って試着室のカーテンを開けると、いつの間にやら職場のみんなが集められていて、「おおー白ちゃん似合うよ!」とか、「白ちゃん可愛い!」とか言って持ち上げてくる。手にはダイエット応援中のうちわ。
どうせ、社長の入れ知恵だろうけど、悪い気はしない。
ワンピースのスカートを翻しながら、姿鏡の中の自分をもう一度見た。本当だ。なかなかイケてる。以前のぽっちゃりより今のぽっちゃりの方が、という意味でだが。
「じゃあこっち来て」
『権現株式会社』には、洋服をストックする大きな倉庫の一角にスタジオを設けてある。ここでネットにアップするモデルさんの撮影を行なっているのだ。
「よし白ちゃんそこに立って」
カメラマンの立花進さんが、カメラを構えて位置どりを指示してくる。
「ほんとにやるんですか?」
「せっかく試着したんだし、一回だけでも撮影してみようよ! それでまあいい風に撮れたらむにゃむにゃしてさ……立花くん、一応顔出しNGの場合があるから、そのパターンも1枚撮っておいてくれる?」
1枚かいっ。権現社長が、肝心なところは言葉を濁しつつ、うまいこと言ってくる。この社長はいつもこんな感じで、社員はあれよあれよと言う間に、社長の言うことを聞いてしまっているのだが。
パシャーパシャーと写真を撮る。
「白ちゃん、なかなかイイよこれ!」
見せてもらったら、本当になかなかだった。
ジムに通い、エステにも通って、日々食事に気をつけ(←和食中心の野菜生活)、自転車通勤をやめウォーキング通勤、白いもの症候群を乗り越えた結果。
「努力は報われるんだなあ」
写真を見てしみじみ思った。
*
「白ちゃん、見たよ! 綺麗に写ってたね!」
「もうLLモデルはこれから白ちゃんに頼んでもいいんじゃね?」
職場のみんなが、腕で小突いてくる。
最終的には顔出しもオッケーしてしまったわけだが、その分褒められることも多くなって、少し浮かれていた。
「見たわよ〜優里ちゃんの会社のサイト。可愛いじゃないの」
エステサロン『seventeen』に行ったとき、柳田さんのお姉さんリリさんにもそう言われてさらに有頂天になってしまった。
「リリさんのお陰で肌が綺麗になりました」
「あらあ。まあそれもそうなんだろうけど、優里ちゃんの努力も相当なものよ。筋力も結構ついてきたじゃない? 筋力を増やして新陳代謝を上げるのも、ダイエットの近道だからね」
「ウォーキングしてても身体が軽くなったように感じます」
「ほら見て。お腹周りもね。ウエストがだいぶ細くなったわ」
メジャーをぐいっとめり込ませながら、リリさんは満足げに私を見た。
「今日ね、昴と夕食食べに行くんだけど、優里ちゃんも一緒にどう?」
思いも寄らぬお誘いに、私はえらい動揺してしまった。
「え、や、は、柳田さんと夕食ですか」
「そんな堅苦しいもんじゃないわ。そうそうずっと前だけど、私たちが一度会ったカフェ『vegeta』でね」
「はあ。でも私なんかが行ってご迷惑なんじゃ……」
「ぜーんぜん。昴とご飯食べても楽しくないから、逆に私も嬉しいわ」
「そうですか」
「今度は財布を忘れないようにさせないとね」
リリさんはそう言っていたずらっ子のようにウィンクしてみせた。




