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第84話:アイフェスから二日後

 アイフェスは無事に閉幕した。


 夏休みも終わり、今日からは登校日。

 高校生であるオレも通学電車から降り、学園に向かって一人で歩いていく。


「アイフェス、色々あったけど、あっという間に終わっちゃったな……」


 夏休みのことを、歩きながら思い返す。

 初めてのアイドルとしての仕事は、本当に波乱に満ち一ヶ月間だった。


「一週目のダンスレッスンに始まって、歌のレッスンと、本当に勉強になった一ヶ月間だったよな……」


 途中で定期的な休みはあったものの、一ヶ月間はアイドルレッスン漬けの毎日だった。

 まるで強豪の運動部のように、朝から晩までアイドルとしての鍛錬に勤しんでいたのだ。


「最初は沢山の参加者がいて、本当に賑やかだったな……」


 アイフェスは男女合わせて百人の新人アイドルが参加する一大イベント。

 最初の方は参加者の色んな思惑が交差、誰もが試行錯誤をしていた。


「そういえば途中で落第した人たちは、今どうしているのかな? あっ……でも、きっと、あの感じだと、今も努力しているんだろうな……」


 アイフェスに参加した若者たちは誰もが本気だった。

 全力でレッスンと選考会にぶち当たり、散った者は悔し涙を流していたのだ。


 だから彼らは今も、アイドル道を諦めてはいない。

 今回の落選をバネにして、更なる高みのアイドルになろうと努力しているのだろう。


「とにかく、アイフェス期間中は、事故もが起きず、本当に良かったな……」


 結果として一昨日の生ライブでも、救急搬送者は一人もでなかった。

 観客は大興奮のまま無事に閉幕したのだ。


「生ライブの最後……あの後は、チーちゃんとエリカさん、アヤッチたちのユニットも参加して、お祭りみたいで本当に楽しかったな……」


 “チーム☆RAITA”と“エンジェル☆キング”のコラボ曲の後、女性陣の2組もコラボに加わった。

 最終的には総勢十数人の男女アイドルが、ステージに一堂に登場したのだ。


「特にラストのフィナーレ曲は、みんなで本当にエモかったな……」


 ラストは4組によるアイフェスのメインテーマ曲を大合唱。

 まるで夢のような時間を、オレはステージ中央で満喫していたのだ。


(そういえばマシロくん、大丈夫かな……?)


 コラボ曲の途中から春木田マシロの様子はおかしくなっていた。


 いや……《堕天使魅了(フォーリン・チャーム)》の悪影響、という意味ではない。  

 何やらオレに対する感情が大きく変化した……そんな感じで変化していたのだ。


(マシロくん……どうしたんだろう、あの時は?)


 だがフィナーレ曲の後に、春木田マシロは控え室から姿を消してしまう。

 結局どんな心境の変化があったか、確認はできなかったのだ。


(少し落ち着て、学園で話を聞いてみたいな……なんか楽しみ!)


 今なら少しだけ彼と話しが出来そうな気がする。


 前向きになりながら、オレは学園に歩いていく。


「おい、ライタ!」


 そんな時、後ろから声をかけてくる学生がいた。


「あっ、ユウジ、おはよう!」


 声をかけてきたのは、金髪の友人ユウジ。こうして顔を合わせるのは久しぶりの仲間だ。


「一昨日は見にきてくれてありがとう! ところで、どうだった、ライブは?」


 ユウジは観客として、会場に来てくれた。情報通な彼のきたんない意見が気になるところだ。


「『どうだった?』どころの話じゃ、ないで⁉ ライタ、昨日の芸能ニュースを見てないのか⁉」


 だがユウジの様子が何やらおかしい。かなり慌てて、いったいどうしたのだろう。


「昨日はニュースを、ほとんど見ていなよー。ちょっと余韻に浸っていたからね」


 昨日は自宅で一人、まったりと過ごしていた。


 それにしてもユウジがここまで慌てているとは、どうしたのだろう?

 救急搬送者出なかったから、大事故は起きてないはずだけど?


「『どうしたのだろう?』や、ないで⁉ アイフェスの“放送事故”のことが話題になっていたんやで⁉」


「え……放送事故? いったい何かあったの?」


 アイフェスはネット生ライブで世界中に同時配信されていた。

 途中までは、スタッフが興奮するほどの高い視聴数で、かなり順調だったはず。


 ということは最後の方で、何か放送事故があったのかな?


「ああ、そうや! 配信の最後の方が、“光るモヤ”で、全然視聴することができなくなっていたんや!」


「光るモノ? 通信や照明の不具合でもあったのかな? それは、ちょっと残念だね……」


 ネット生配信では機材トラブルも起きうる可能性もある。

 せめてブルーレイ版では完全な映像と音が、残っていることをせつに願う。


 とにかく来場者や関係者の事故とかじゃなくて、本当によかった。


「いや、事件はそれだけじゃないで! ネットによればなんでも、“観客のその後”にも事件があったらしいで!」


「えっ、“観客のその後”に⁉ も、もしかして病院に運ばれたとか⁉」


 思わず胸が苦しくなる。

 《堕天使魅了(フォーリン・チャーム)》の効果を、オレが完全に相殺できていなかったのだろうか?


 それとも《堕天使魅了(フォーリン・チャーム)》には遅効性の悪影響もあったとか? そのめ帰宅した後に、具合が悪くなった被害者が出たのだろうか?


「いやいや、そんな悪い方の事件ではないで。なんでも来場者が帰宅後に『七色の世界の夢を見る』という集団催眠現象が起きていたんや!」


「えっ……集団催眠現象?」


 予想外の内容に思わず聞き返してしまう。


 あと、ネット証言にある“七色の夢の世界”という表現は、オレが《七色支配(レインボー・チャーム)》で見ていた世界に似ている。


 もしかしたら《七色支配(レインボー・チャーム)》の影響が遅効で発動してしまったのだろうか?


 まぁ……でも、観客全員に“七色の夢の世界”を夢にまで見させる影響力など、こんなオレにあるはずがない。


 そもそもネット情報だか話し半分で聞くのが正しいのだろう。


「ん? あれ? でも『起きているみたい』って、いうことは、ユウジはその夢を見ていないの?」


 ユウジもライブ会場には来ていた。だがまるで他人ごとのように、先ほどは言っていた。どういうことだろう?


「ああ、ワイはそんな夢は見ておらん。あと、確認したが、ウタコ部長も見ていない。もしかしたら……ワイらは“耐性”が付いていたから、無事やったのかもしれへえん」


「えっ、耐性?」


 いきなりゲームみたいな単語が出てきた。それにいったい何に対する耐性なのだろう?


「ああ、耐性や。ウタコ部長の推測によると、『ワイと部長は部室で、ライタと一緒にいたから“耐性”“がついていて、助かった』……ちゅう話や」


「へっ……オレの耐性?」


 まさかの指摘に、思わず言葉を失ってしまう。

 その推測が正しいなら、オレは何かの感染力を有しているのだ。


「あれほどの大人数の観客を軽く催眠状態にするとは……まったく、お前っちゅう奴は、本当に大物やな、ライタ!」


「ええーと……ありがとう……?」


 ユウジにけなされているのか、褒められているのか、よく分からない。

 とりあえず笑って感謝をしておく。


 でも、ユウジの話によると、今のところ事件に直接的な被害者はいない。

 アイフェスが本当に無事に終わったことに、改めて一安心だ


「あっ、もうついたのか?」


 そんな話をしていると、いつの間にかD組の教室前に、校舎の中に到着していた。


「また後でね、ユウジ!」


 D組なユウジとの歩き話は、ここまで。

 昼休みにアイドル研究会の部室でランチ会の約束をして、別れの挨拶をする


「ああ、またな。あっライタ……“その新しい髪型”、気を付けるんやで!」


 別れ際、ユウジは心配そうにアドバイスしてきた。

 内容はオレの新しい髪型についてだ。


「やっぱり、この髪型、変かな?」


「いや、その真逆や! ライタは自覚してないと思うけど、とにかく“今のお前”は普通とは違うやんからな!」


 アイフェスのラスト前に、オレは自分前髪を切落とした。

 そのため今は顔が全部出でいるスタイル。

 でも普通と違うとは、どういう意味だろう?


「たしかに前髪を切って、ちょっとスースーして落ち着かないけど、何も変わらないと思うよ、オレは?」


 特に美男子でもないオレが、素顔を出したところで、誰も驚かないだろう。

 特にA組は現役モデルや俳優、アイドルが集まる顔面偏差値も高いクラス。


 オレごとき平均以下な一般人が前髪を切ったところで、前と同じように無視されて終わりなのだ。


「はぁ……やっぱり自分のイケメン具合を、自覚してないんやな、ライタは」


「あっ、チャイムが⁉ それじゃ、またね!」


 何やらユウジはブツブツ言っているが、早くしないと遅刻してしまう。


 オレは自分のクラス、A組へと向かうのであった。


 ――――そして教室に入った瞬間、予想外の反応が起きるのであった。


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