第75話:春木田マシロの能力
アイフェス・ライブが開演。
一曲目がなんとか盛況に終わり、オレたち四人のモチベーションは高まっていた。
――――うァアアア――――!!!
だがそんな時、地震のような観客の大歓声が、待機場所に聞こえてくる。
(な、なんだ、これは⁉)
ステージ上でいったい何が起きているのだろう?
オレたちは急いでステージ横に移動する。
(これは……やはり“エンジェル☆キングダム”が原因だったのか⁉)
今はステージ中央で曲を披露しているのはチーム“エンジェル☆キングダム”。
春木田マシロをセンターとした五人組の男性ユニット。
彼らのパフォーマンスで、数千人の観客は大興奮となり、地震のような地鳴り響いていたのだ。
(ここまでお客さんを興奮させるとは……さすがはエリート集団の“エンジェル☆キングダム”だな……)
今回の参加者の中で特に能力が高い上位五人で、“エンジェル☆キングダム”は結成されている。
全員がエンペラー系列所属の男性アイドルであり、まさにザ・エリート集団なのだ。
(しかも、チーム力が前に見た時より、何倍も向上しているな⁉)
“エンジェル☆キングダム”は個人能力が高いだけなく、ユニットとしての総合力も高まっていた。
おそらく、この一週間で猛特訓を積んできたのだろう。
五人とも互いの長所を生かしつつ、個性を伸ばし合う歌声とダンス披露していた。
(しかも、そんな中でも、あの人は……春木田マシロは別格だな……)
春木田マシロはステージ中央で、ひときわ眩しく“輝いて”いた。
それは比喩や例えではない。
全身にスポットを浴びながら“アイドル・オーラ”で発光。数千人の観客を熱狂させていたのだ。
(しかも観客を熱狂させたパワーを受けて、更に自分も輝いているのか、春木田マシロは⁉)
先ほどオレたちも体感したが『生ライブでは観客の声援が大きくなるにつれて、演者のパフォーマンスも向上していく現象』が発生する。
だが今の春木田マシロの場合は、オレたちとはケタが違い。
明らかに何か特殊な力で、自らのパフォーマンスを向上させているのだ。
(なるほど、そういうことか⁉ もしかしたら、これがあの男の“固有能力”なのか⁉)
今まで春木田マシロが隠していた固有能力を、オレは判断できなかった。
だがステージ上の異常な現象を目にした今なら理解できる。
(“観客を魅了して、自らもパフォーマンスも向上させる”……ことができるのか、彼は……)
春木田マシロの固有能力を名付けるとしたら《天使魅了》。
効果としては“パフォーマンスを見る者を魅了し、その声援を受けることによって自らのパフォーマンスを一時的に高める”といったところだろう。
(観客の声援を自分の力にする、か。それって、アイドル活動の中だと、チート能力すぎだよな⁉)
この時代のアイドルは観客と対面する生ライブ活動が多い。
地下ライブやライブハイスをはじめ、トップアイドルになると全国ドームツアーも開催している。
そんな中で春木田マシロの固有能力は、アイドルとしては反則レベルな能力だった。
(まさに生まれついての天才アイドル、という訳か。さすがはマシロ君だな……)
正直なところ、“人として”は彼のことは苦手な部類。
だが“アイドルとして”は心から認めてしまうほど、春木田マシロは圧倒的な才能を有している。
(でも、どうして、あんな性格になっちゃったんだろう? いや、“アイドルにとっては私生活の性格は、あまり意味がない”なのかもしれないな)
アイドルにとって大事なことは“ファンに夢を魅せる”こと。私生活や裏の性格は、あまり意味がないのかもしれない。
(アイドルとして半端者だけど、オレも頑張らないとな!)
“エンジェル☆キングダム”の圧倒的なパフォーマンスを見て、胸が熱くなってきた。
同じ男性ユニットとして気持ちが高ぶってきたのだ。
「ねぇ、みんな。待機場所に戻って、二曲目の再確認しない?」
一緒に見ていた相田シンスケたち三人に提案する。次の曲まで更に高めていこうと。
「ああ、いいぜ、ライタ」
「オレたちも負けてられねぇからな!」
三人も同じ思いだった。
ライバルである“エンジェル☆キングダム”の総合力は高いが、アイドルのライブは数値では現せられない要素も多い。
その数値化できない“+α”の部分を、オレたちは高めていくしかないのだ。
◇
ステージ裏の待機場所に、オレたち四人は再度移動。
自分たちの二曲目以降の再確認をしていく。
(よし、いい感じだぞ!)
次の曲まで時間は少ない。
だが三人ともギリギリまで完成度を高めてくれていた。
(ん? “エンジェル☆キングダム”の曲が終わったのかな?)
曲の終わりを惜しむ観客の歓声が、待機場所まで聞こえてきた。
おそらく“エンジェル☆キングダム”の曲がちょうど終わったのだろう。
(スケジュール的には、たしかこの後はチーム“ファイブ☆スターズ”と“ドリーム☆ファンタジーズ”の二曲目があって……その後は“トークパート”か……)
女性陣の二曲目の後は、総合プロデューサーと各ユニットのトーク時間帯。
各ユニットメンバーと簡単なトークショーを行う、毎年恒例の人気パートだ。
(つまり、オレたちの二曲目までは、時間はもう少しあるな?)
アイフェスは一曲あたり五分前後で、女性陣トーク時間は10分ちょっとのスケジュール。
つまりオレたちの二曲目が始まるまで、あとに十数分の空きがある計算だ。
(それなら、もう少し、自分たちの二曲目の再確認をしていくか? いや、三人のためにも、あまり詰め込み過ぎない方がいいかもな? あと個人的に、チーちゃんたちの二曲目も聞きに行きたいからな!)
そんな感じでタイムスケジュールを迷っている時だった。
(……ん?)
待機場所にやってくる人に気がつく。
スタッフやマネージャーではなく、ステージ衣装に身を包んだ演者だ。
「やー、ライっち。ボクたちの一曲目、見ていたよね?」
やってきたのは先ほどまでステージ上で観客を沸かせていた当人。
春木田マシロが危険な笑みで近づいてきたのだ。




