表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
74/88

第74話:アイドルとして初ライブ

 アイフェス・ライブが開演。

 二組の一曲目が終わり、会場のボルテージは上がっていた。


『……では次は“チーム☆RAITA”の登場です!』


 そんな中、オレたちのユニット名が、総合プロデューサーから呼ばれる。ついに出陣の時がきたのだ。


「“チーム☆RAITA”……ファイト!」

「「「オー!!」」」


 オレたち円陣を組んで気合い入れ、ステージ中央に駆け出していく。


 すでに会場のボルテージは高い。新たなユニットの登場に更に盛り上がっていくだろう。


「……ん?」

「……あれ?」

「……ねぇ、あの男性ユニットって、なんだっけ?」


 だが会場の反応は予想外のもの。

 先ほどとは違い黄色い声援は皆無。むしろざわついているのだ。


 これはいったいどういうことだ?


「……“チーム☆RAITA”……だって、あの4人。知ってる?」

「……たしか、“春木田マシロ君じゃない方”じゃない?」

「……はぁ……早く、春木田マシロ君の番にならないかな……」


 会場の雰囲気を見て原因が判明。

 オレたちが番組で人気がなく、知名度が低いため観客がざわついていたのだ。


(なるほど……これが番組の影響か。予想はしていたけど、仕方がないな……)


 アイフェスはリアリティー系番組だが、編集の意図によって視聴者の印象は毎年変わる。


 今年は“チーム☆RAITA”は“ついで”のような扱いを受けていたため、露出が他の三組に比べて極端に少なかった。


 そのため今日の観客の多くが“チーム☆RAITA”のことを認知できていなかったのだ。


「うっ……」

「マジかよ……」

「さすがにこれはキツイな……」


 まさかの観客の冷淡な反応に、相田シンスケたち三人はステージ上で小さく言葉をもらす。

 先ほどまで高まっていたモチベーションが、急激に下がってしまう。


(あっ……これはマズイ! なんとかしないと⁉)


 数千の冷たい視線を受けたまま歌を披露するのは、トップアイドルでも難しい。

 歌い出しのタイミングまで、なんとか会場の雰囲気を少しでも改善する必要がある。


(でも、どうすればいいんだ?)


 会場のざわつきは伝染病のように広がっていく。

 重い負の感情が観客を覆い尽くそうとしていたのだ。


(どう打開すれば? ……ん? この声は?)


 そんな窮地に陥っている時だった。

 会場の端から、誰かの声が聞こえてくるのだ。


(これは……オレの名前?)


 その声の主は、明らかにオレの名前を呼んでいる。

 いや……声の限り叫んでいた。


(でも、いったい誰が⁉)


 急いで声の主に視線を向ける。


 ……そこにいたのは自分が良く知る人物だった。


「……お兄ちゃん! 待ってましたー!」

「ライター! 頑張るのよ!」


 なんと叫んでいたのは、妹ユキと母親の二人だった。

 重くざわついた会場の中で、たった二人で大声援を送ってきたのだ。


 しかも声援を送ってきたのは、その二人だけはなかった。


「……ライタ、きばれよー!」

「……同志ライタよ……今こそ貴殿のアイドル魂を覚醒するのだ!」


 なんと金髪の友人ユウジとウタコ部長もいたアイドル研究部の仲間として、彼らも大声援を送ってくれていたのだ。


(ユキ……母さん……ユウジ……ウタコ部長……)


 こんな敵地のど真ん中のような会場で、オレの名前をたった四人で叫ぶ行為。本当に勇気がいる行動。


(みんな、ありがとう……)


 それなのに臆することなく叫んでいる二人の家族と、二人の仲間には本当に感謝の言葉しかない。


(……ん? あれ、さらに?)


 そんな感動をしている時、会場に更なる変化が起きる。

 四人の他にも、声援をあげる人が出始めたのだ。


「シンスケー! 応援にきたぜぇ!」

「エイルくん! ファイトー!」

「アオイ!」


 その数は十数人と決して多くはない。

 だが相田シンスケたち三人に向けて、彼らも勇気の声援を送ってきたのだ。


(あの人たちは……? ああ、そうか。昔からの三人のファンか!)


 相田シンスケたちはアイドルとしてマイナー活動をしてきた。その中ですでに固定ファンを獲得していたのだろう。

 親身な応援を聞いているだけで、彼らの深い想いが分かる。


「シンスケー! 負けるなー!」

「エイルくん! いつもの元気を見せてくれー!」

「アオイ!」


 彼らファンは最初、場の雰囲気にのまれていて、声援を送れなかった。

 だがユキたちの行動を受けて、彼らも勇気を出して行動に出てくれたのだ。


「アイツは……⁉」

「まさか……⁉」


 顔見知りのファンに気が付き、相田シンスケたち三人の顔色が変わる。

 先ほどまで真っ青だった顔色に、段々と生気が戻ってきた。


「もしかして、わざわざ来てくれたのか⁉」

「今日のライブチケットを取るのは大変なはずなのに……」


 敵地のような場所に来て声援を送ることは、決して簡単なことではない。

 勇気を出して自分たちを応援してくれるファンから、彼は大いなる勇気をもらったのだ。


(よし、これならイケそうだな!)


 モチベーションが極限まで低下していた“チーム☆RAITA”。

 だが今は大切な人たちの勇気ある声援で、復活してきた。


 あとは歌いだして、自分たちで打開していくだけ。

 センターである相田シンスケもそのことに気が付き、マイクを手に取る


「“チーム☆RAITA”……一曲目、いくぜぇ!」


 その合図と共に、曲がスピーカーから流れ出す。

 “チーム☆RAITA”の一曲目がスタートしたのだ。


 オレたち四人は練習とおりにダンスを開始。

 リズムに合わせて歌いだしていく。


(よし……いい感じにスタートできたぞ!)


 最初はどうなるかと心配したけど、なんとか曲をスタートできた。


 今のところ三人のパフォーマンスも悪くはい。前半部分は良い感じで進んでいた。


 後列で彼をサポートしながら、オレも一安心する。

 あとはサビ部分で盛り上げつつ、後半へと突入だ。


(ん? 会場の雰囲気が?)


 “チーム☆RAITA”の曲が進んでいくにつれて、会場の雰囲気は変化していた。


 最初は他人事のように見てきた観客が、段々とこちらに興味を持ちだしたのだ。


「……ねぇ、このユニット……なんか良くない?」

「……うん、そうかも。TVだと微妙だったけど、生歌はいいかも?」


「……こいつら、なんかアイドルっぽくないけど、逆にいいいかもな?」

「……ああ、そうだな。同性だけど、なんか応援したくなるな?」


 先ほどまでざわついていた観客が、段々と“チーム☆RAITA”に声援を送るようになっていたのだ。


 番組の編集で印象操作され、勘違いした先入観が払しょく。

 負の感情が消えていき、好感度が高まってきたのだ。


(おお⁉ 一気に良い感じになってきたぞ⁉ これが生ライブのパワーか⁉)


 印象操作されがちな番組とは違い、生ライブには一切の編集の余地がない。

 演者の高いパフォーマンスと熱意は、ダイレクトに観客に伝わるのだ。


(よし! これはいい感じの追い風だぞ! これならもっといけるぞ!)


 観客の熱気は段々と上がってきた。

 それを受けて“チーム☆RAITA”の歌とダンスのキレも、右肩上がり高まっていく。


 生ライブでは観客の声援が大きくなるにつれて、演者のパフォーマンスも向上していくのだ。


(うん、いいぞ! さぁ、最後まで駆けていこう!)


 最初の緊張や悲壮感は、もはやどこにもない。

 “チーム☆RAITA”はリハーサルを以上のパフォーマンスを発揮。

 曲の後半部分も一気に駆け抜けていく。


 うぉおお――――! キャー♪


 ふと気がつくと、会場から歓声が沸き上がっていた。


 オレたちの一曲目が、いつの間にか終わったのだ。


「……みんな、ありがとう!」

「また二曲目で!」


 オレたち四人は観客に手を振りながら、ステージから去っていく。


 二曲目までは時間が空く。

 観客から見えないステージ横に移動して、休憩待機するのだ。


「なんとか、やれたよな、オレたち⁉」

「ああ、ファンのみんなのお蔭で、なんとかイケよな⁉」

「くっ……緊張したぜ!」


 待機場所に移動しても、三人は興奮したままだった。

 先ほどのステージ上で受けた興奮が、今で二冷めやらないのだ。


「最初のあの重い雰囲気……ここだけの話、心臓が止まるかと、思ったぜ!」

「ああ、アレはヤバかったな……」

「でも、ライタのお蔭で、何とかなったな!」


「えっ? オレの? 何もしていないけど?」


 いきなり話をフラれたので、思わず声を出してしまう。

 何もしていないけど、いったい何のことだろう?


「何言っているんだ、ライタ? お前のファンが最初に声援を送ってくれたお蔭だぞ!」

「ああ、そうだぜ。あれで流れが変わってくれたからな!」


 なるほど、そういうことか。

 ユキたちが最初に声援を送ってくれたから、会場の雰囲気が変わったことか。


 たしかにそうかもしれないけど、三人が勘違いしていることもある。


「ちなみに、あの人たちはオレのファンじゃないよ。家族と部活の友だちだよ」


 アイドル活動が今回初めてなオレには、ファンという存在が皆無なのだ。


「家族と部活の仲間だったのか⁉」

「あのざわついた中で、すげえ勇気の人たちだな、お前の家族と友だちは⁉」

「というかライタ、部活に入っているのか? 芸能生活をしながら⁉」

「まった、相変わらず凄い奴だな!」


 なんかよく分からないけど、三人は感心してきた。


「あっはっはっは……ありがとう……?」


 褒められる理由は分からないので、とりあえず笑ってごまかしておく。

 とにかく一曲目が成功に終わって本当の良かった。


 その想いは三人も同じよう感じだ。


「とにかく一曲目としては、成功した方じゃないか?」

「ああ、そうだな。前の二組にも負けていなかったよな?」

「オレたちも何とか、イケるじゃないか、このままでいけば⁉」


 マイナー時代とは比べものにならない成功を体験して、三人とも自信をつけていた。

 成功体験は人を成長させ、モチベーションを高めてくれる。


 今日オレたちはあと三曲ほど披露するスケジュール。

 この高いモチベーションを維持できたら、“チーム☆RAITA”的にも大成功するはず。

 全国的にも知名度が高まるに違いない。


「よし、みんな、この後も集中力を切らさずに……」


 そう思いながら、オレがみんなに声をかけようとした時だった。


 ――――グラグラ!!!


 待機していたステージ横が、突然大きく揺れる。


 まさか地震でも起きたのか⁉


 ……いや、これは違う。


 ――――うァアアア――――!!!


 その直後に押し寄せていた大歓声で、すぐに勘違いだと気がつく。


(これは⁉ まさか観客の大歓声⁉)


 地震だと勘違いしていたのは、観客が盛り上がった影響だった。


(つまり今の演者……春木田マシロたちが……)


 オレたちは急いでステージ横に移動。

 そこで信じられない光景を目にするのであった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] ハーーナ殿下さんのオリジナル歌詞がみれないのは残念です..... でも、歌詞がなくても小説の面白さはすっごく伝わってきてます!毎話とても面白いです! これからも頑張ってください!!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ