第73話:推しのライブ
アイフェス・ライブが開演した。
チーちゃんとエリカさんの一曲目は、見事な成功で終わる。
『……では次はチーム“ドリーム☆ファンタジーズ”の登場です!』
総合プロデューサーの紹介を受けて、ステージ中央に三人の少女が駆け出していく。
彼女たちはチーム“ドリーム☆ファンタジーズ”……鈴原アヤネを中心として女性ユニット。
初のお披露目となるアイドル衣装をまとい、アヤッチはステージ中央に降臨したのだ。
「おおお! アヤッチー!」
「アヤヤー!」
鈴原アヤネ推しの歓声が、観客席から次々とあがる。彼女のファンの観客もかなり多いのだ。
(おおお⁉ すごいぞ、アヤッチ! もう、これほど多くのファンの心を掴んでいるのか⁉)
大手に所属しているとはいえ、彼女はまだメジャーデビュー前の新人アイドル。
本格的な大きな仕事は今回のアイフェスが初なのに、かなり多くの人のハートを掴んでいた。
(前世の彼女のライブとは、まるで別世界の光景だな……)
前世の鈴原アヤネはアイドル部門が弱い、某弱小事務に所属。そのため彼女は地下アイドル的な活動しかできずにいた。
当時の観客はオレを含めて数十人しかいないこともザラだった。
だが今は数百、数千人の声援を受けているのだ。
(ううう……なんか感動してきたな……)
スター性は抜群だけど不遇だったアヤッチが、ようやく日の目の当たるところに出られた。
彼女を最推していた身として、思わず涙がこぼれ落ちそうになる。
(前世の同志よ! この光景を見ているか⁉ やっぱり“オレたちのアヤッチ”は最高のアイドルだったんだぞ!)
転生して離れてしまった当時の同志たちに向かって、心の中で叫ぶ。
アヤッチを応援していたオレたちの当時の努力は、決して無駄ではなかった、と心の中で叫ぶ。
あっ、でも。
もしかしたら、今この観客の中に、前世の同志も来ている可能性も高い。
何故なら鈴原アヤネの魅力は時間の概念すらも超える可能性があるからだ。
(よし! それなら、ライブの後の会場で、同志を探して声をかけてみようかな⁉ いや……冷静に考えたらダメだな!)
いきなり知らない奴に『オレは前世であなたと一緒にアヤッチを推していた者です。歴史が改変された今世ルートでもよろしくお願いいたします!』と話しかけられたら、どうなるだろう?
オレだったら間違いなく警察通報する。
(くっ……仕方がないな。同志たちとは離れてしまうけど、今はこの感動を共に共有しようではないか!)
とにかく今はアヤッチたちのライブに集中しようではないか。
『……みんな、声援ありがとう! それでは一曲目いくよ!』
そんな感涙の涙を心の中で流している中、“ドリーム☆ファンタジーズ”の歌はスタートしていく。
「アヤッチー♪」
「アヤヤ~♪ ふうっ♪ アヤヤ~♪ 」
“ドリーム☆ファンタジーズ”が歌い出すと、鈴原アヤネコールが響き渡る。
会場をパッと見た感じ、彼女のファンは男性6割で女性4割な感じ。
リアリティー系番組発のアイフェスは女性視聴者が多いため、今世ではかなり女性ファンが多くなっているのだ。
『……みんな、もっと、声だしていくよ~♪』
曲中アヤッチはステージ上から、観客を盛り上げていく。
それを受けて観客席のボルテージは更に高まっていった。
(おお! 相変わらずライブ中のアヤッチは、別人のようにアイドルしているな!)
彼女は普段は無表情で、話し方も感情を表に出さないタイプ。
だが前世もライブ中はガンガン突き進んでいくスタイルだ。
きっと芸能科のクラスメイトが見たから、今の彼女は別人のようだと驚くだろう。
(でも、それがアイドル・鈴原アヤネの魅力なんですよ、みなさん!)
会場にいる観客に向かって、放送を見ている視聴者に向かって、オレは彼女の素晴らしさを叫ぶ。
オレたちの『アヤッチは本当に素晴らしいアイドル』だと
ちなみにアヤッチの素晴らしいところは、それ以外にもあと百個以上は軽くある。
これに関して語るには丸一日あっても足りないでの、今日は彼女のライブを満喫してください、みなさn!
うぉおお――――! キャー♪
そんな感動と感激のるつぼの中、会場から大歓声が沸き上がる。
“ドリーム☆ファンタジーズ”の一曲目が、いつの間にか終わったのだ。
三人は笑顔で手を振りながら、ステージから去っていく。
(くっ……も、もう、終わってしまったのか⁉)
アイフェス・ライブは四組のユニットが交代で歌っていく。
そのため“ドリーム☆ファンタジーズ”の歌を聞けるのは、また二十分ほど後の予定。
(一曲だけとか、早すぎるぞ、総合P! アヤッチの歌を、あと二時間は聞いていたかったのに⁉ くっ……でも、こればかりは仕方がないな。二曲目を待つしかないな!)
ステージ横に消えていく彼女たちを、断腸の思いで見送る。
最推しの生ライブをすぐ近くで見られて、心の中になんとも言えない焦燥感でいっぱいになっていた。
『……チーム“ドリーム☆ファンタジーズ”のみんな、ありがとう! では次は“チーム☆RAITA”の登場です!』
ん?
なんか自分の名前が、総合プロデューサーから呼ばれたような気がする。
気のせいかな?
「おい、ライタ、なにをキョトンとしているんだ⁉」
「次はオレたちだぞ⁉」
「オレたちもやってやろうぜ、リーダー!」
あっ……そうだった。
三曲目は“チーム☆RAITA”の順番。
オレたちがステージに歌う出番なのだ。
「それじゃ、リーダー、出陣前の景気づけを頼むぜ!」
「えっ? また、アレをやるの? 仕方がないな……それじゃいくよ」
オレたち四人はステージ横で肩を組んで、円陣を組む。
恥ずかしいけど、ボルテージの高まったこの雰囲気では断れない。
「“チーム☆RAITA”……ファイト!」
「「「オー!!」」」
こうして満員の観客の前に、オレたちは飛び出していくのであった。




