第72話:ライブ開幕
帝原キョウスケの危険なスカウトを退けることに成功。
オレたちは最高のモチベーションの状態でライブへ挑む。
ざわ……ざわ……ざわ……
午後になり、アイフェスの開幕の時間となった。
ステージ前はすでに数千人の観客で埋め尽くされている。
「……いよいよ、あと五分で開演だな!」
「……ああ、ついにだな!」
「今年のアイフェスが楽しみすぎて、昨夜は一睡にできなかったぜ!」
オレたち出演者はステージ横まで、観客たちの熱気が伝わってくる。
誰もが開演時間を、今か今かと待ちわびているのだ。
「さて、みなさん、お待たせしました!」
そんな中、総合プロデューサーが一人でステージ中央に登場。開演前のマイクパフォーマンスを披露していく。
総合プロデューサーのネーミングセンスは微妙だが、司会者としては有能な人。待ちわびていた観客をマイク一本で盛り上げていく。
「……それでは《アイドル・サマー・シャッフル・フェスティバル》……スタートです!」
「「「うぉおおおおお!」」」
開演の言葉と共に大歓声が湧きあがる。
数千人で埋め尽くされた会場が、一気にヒートアップ。
ぐら……ぐら……ぐら……
あまりの熱気と地響きで架設ステージが軽く揺れる。
それほどまでに今日の観客はアイフェスのライブを待ちわびていたのだろう。
「それでは一組目は……チーム“ファイブ☆スターズ”!です!」
総合プロデューサーの紹介を受けて、ステージ中央に五人の少女が駆け出していく。
彼女たちはチーム“ファイブ☆スターズ”……大空チセと加賀美エリカを中心として女性ユニットだ。
この日、初のお披露目となるアイドル衣装をまとい、彼女たちはステージ中央に降臨する。
「キャー♪ エリカさま!」
「エリカさまぁー!」
加賀美エリカ推しの歓声が、観客席から次々とあがる。彼女を目当てきた観客がかなり多いのだ。
(さすがエリカさん。アイドルとしても既にファンの心を掴んでいるんだな……)
彼女の本業は雑誌系のモデル。
そのためえ彼女がアイドル業に挑戦することを、当初ファンは快く思っていなかった。
……『わたくしは絶対にアイドルになるのです!』
だが、この一ヶ月間のアイフェス期間中、加賀美エリカは全身全霊でアイドル道に挑戦してきた。
モデル時代からは想像できない泥臭い努力の姿も、番組中に見せてきた。
そのため多くの視聴者の心も変化。
今ではモデル時代の読者も、“アイドル加賀美エリカ”のファンとして付いてきたのだ。
(逆境すらも味方につける……さすがは“天才アイドル少女エリピョン”だ! 五年のブランクあっても、あの輝きは色せてないな!)
彼女が小学生の頃から知っている身としては、思わず嬉しくなってしまう。
もしも加賀美エリカ公式ファンクラブが結成されたら、元祖ファンとして登録をしたいくらいだ。
「きゃー♪ エリカさま~♪」
「エリカさま、歌声も素敵~♪」
チーム“ファイブ☆スターズ”が歌い出すと、更に彼女推しの黄色い声援が響き渡る。
クール系の彼女には、モデル時代から女性ファンが多い。そのため今でも女性ファンが多いのだろう。
他の四人のファンもいるが、やはり加賀美エリカの元の固定ファンが多い。かなりの存在感だ。
(……ん? でも、なんか雰囲気が変わったぞ?)
エリカさん歌うパートから、チーちゃんのパートへと移った時だった。
会場の観客に変化が起きる。
「チーちゃん♪」
「L☆O☆V☆E♪ チーちゃん♪」
なんと会場から大空チセコールが大発生。
彼女が歌うタイミングに合わせて、オリジナルのチーちゃんコールが湧きあがっていたのだ。
(――――おおお⁉ これは凄い! チーちゃん推しのファンが、あんなにも沢山いるのか⁉)
まさかの現象にオレは思わず興奮してしまう。
なぜなら彼女が本格的にアイドル活動をしたのは、今回のアイフェスが初めて。
それなのに加賀美エリカと遜色ないほどの声援が、会場から湧きあがっているのだ。
(チーちゃん、これは凄いな……今世は不遇なルートなのに⁉)
大空チセは前世でのトップアイドルの一人だった。
だが前世とは違い、今所属している事務所は弱小で、芸能科でも最底辺のD組所属だ。
(不遇ルートすらもチーちゃんには意味が無かったのか⁉ さすがはトップアイドルになることが運命づけられている本物の少女だな、我らが大空チセは!)
だが“本物”である彼女にとって、弱小事務所すらもハンデにすらなっていなかった。
前世の最盛期に近い高いパフォーマンスを今も発揮。多くのファン数をすでに獲得していたのだ。
(凄い高いパフォーマンスと輝きだな、チーちゃん! ん? でも、どうして、“この時期”のチーちゃんが、ここまで高いパフォーマンスを出せているんだ?)
大興奮しながら、ふと疑問が浮かんでくる。
前世で見た彼女の過去動画では“高校一年生夏時代の大空チセ”はまだ、ここまで輝きを放ったアイドルではなかった。
素人に毛が生えた程度のパフォーマンスしか、まだ発揮できていなかったのだ。
つまり“今世の大空チセは前世以上のスピードで急成長している”ということになる。
(ん……これは、どういう謎現象なんだ?)
なぜならパフォーマンスを上げる環境は、彼女が大手に所属していた前世の方が格段に上。
仕事の経験値も前世の方が何段階も上だろう。
それなのに“今世の大空チセ”の方が“歴史を改変するレベル”で急成長しているのだ。
(どうして彼女の歴史がここまで変わっているんだ? ん? チーちゃんの視線が、こっちに?)
メインで歌うパートが終わった時、彼女はオレの方に視線を向けてきた。
その視線はまるで『今日はライタ君のために歌っています! ライタ君がいてくれたお蔭で私、今は最高に幸せです!』と笑顔を雄弁に語っている。
(えっ……チーちゃんがオレのお蔭で急成長をした⁉ いやいや……さすがにこれはオレの気のせいだろう⁉)
まさかの幻聴が聞こえてしまったので、慌てて否定する。
(ここ一週間、ハードスケジュールだったから、疲れ過ぎて幻聴が聞こえてきたのかな、オレ? ふう……)
チーちゃんに好意を抱いてもらえるなど幻想にすぎない。オレは深呼吸して気持ちを切り替えてことにした。
(ん?……あっ、次はまたエリカさんのパートか⁉)
チーム“ファイブ☆スターズ”はエリカさんとチーちゃんをツインセンターにしたユニット。
そのため次はエリカさんの歌うパートがやってきたのだ。
(おお! やっぱりエリカさんの歌声は素敵だな! あと……前よりも歌が上手くなっているぞ⁉)
彼女は自分のアイドルらしからぬ声質を悩み、数年間アイドル歌を封印してきた子。
そのためまだ本調子ではない部分もあった。
だが今は以前よりも急激に歌のレベルが向上していたのだ。
(この短期間で、ここまで向上できるものなのか? どんな特訓をしてきんだろう、エリカさんは?)
そんなことを疑問に思っている時、エリカさんもオレの方に視線を向けてきた。
その視線はまるで『ライチー君……ここにわたくしが立てているのも、すべて貴方のお蔭……この歌の全てをライチー君に捧げますわ!』と雄弁に語っている。
(ええ⁉ エリカさんがオレを想って歌を⁉ いやいや……そんなことはあり得ないだろう⁉)
彼女は日本の若手業界の中でも、トップクラスの美少女モデル。
それに比べてオレは冴えない外見のアイドルオタク。
“月とスッポン”の格言のごとく、同じアイドルでも男女として別世界の住人なのだ。
(ふう……アイドルが好きすぎて、オレもいよいよ頭がおかしくなったのかな?)
二人の美少女アイドルから好意を向けられている……そんなラノベのような展開は世の中にはない。
気持ちを切り替えて、ライブに集中することにした。
(ふう……それにしても、こうして見ているとチーム“ファイブ☆スターズ”、本当に素敵なアイドルユニットだな……)
チーム“ファイブ☆スターズ”のダブルセンターのチーちゃんとエリカさんは、見た目も声質もアイドルとして真逆な存在。
だが今は、良い意味で二人は調和していた。
(きっとこの一週間で……いや、この一ヶ月のアイフェス期間で、二人は認め合ってきたんだな……)
外見や事務所、経歴も違う二人だが、ただ一点だけは全く同じ物があった。
それは『アイドルになりたい!』という誰よりも強い気持ち。そのためオレの知らないところで二人は共感して、ここまで化学反応を起こせていたのだ。
(凄いな二人とも……そして“アイドル道”って本当に素晴らしいな……)
これまで二人が努力してきた後ろ姿を思い出して、オレは思わず涙が溢れだそうになる。
キャー♪
そんなことに感動している中、会場から大歓声が沸き上がる。
チーム“ファイブ☆スターズ”の一曲目が大興奮のまま終わったのだ。
彼女たち五人は笑顔で手を振りながら、ステージから去っていく。
「キャー♪ エリカさまー♪」
「チーちゃーん♪」
会場からは惜しみない拍手と歓声が沸き上がる。
それを聞いているだけで誰もが知る。
チーム“ファイブ☆スターズ”の一曲目の披露は大成功に終わったと。
『……チーム“ファイブ☆スターズ”のみんな、ありがとう! では次はチーム“ドリーム☆ファンタジーズ”の登場です!』
そんな大興奮の収まらない中、総合プロデューサーから次なるユニットの名前が呼ばれる。
(“ドリーム☆ファンタジーズ”……次はいよいよアヤッチの出番か⁉)
“ドリーム☆ファンタジーズ”は鈴原アヤネを中心としたグループ。
先ほど以上にオレは鼓動が早くなってしまう。




