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第66話:最終選考の発表

 アイフェスの最終選考、ライタ組の発表が終了する。

 オレたちはベストパフォーマンスを発揮したつもりだが、スタッフの反応はおかしい。


「……お、おい、今のグループ……」

「ああ、そうだな……なんか、練習との時は違って、なんか凄かったな……」

「まさか、あんなにやる4人だったとは、思わなかったな……」


 スタッフの反応がおかしいのは、ライタ組が練習とはまるで別人のようなパフォーマンスを発揮したから。

 予想以上の歌とダンスの実力に、誰もが言葉を失っていたのだ。


(ああ……そういうことか。これは良い方の予想外で、よかったな……)


 スタッフの反応は予想外のものだったが、オレたちにとってはプラスなこと。

 オレはステージから降りていきながら、ほっと胸をなでおろす。


(……ん? あれ? でも審査員席は、なんか、別の意味で変だぞ?)


 アイフェスの最終選考は、五人の審査員は審査する制度。

 総合プロデューサーを中心にして、歌とダンスのプロ、芸能界関係者が席に座っていた。

 そんな彼らの様子が、スタッフとは違う意味で、またおかしいのだ。


 オレは特技である読唇術を使い、審査員席のごたごたの様子を読み取っていく。


「……い、いやー、凄かったですね、今の彼らは……」

「……そうですね。相田シンスケを中心に、見事にステージでしたね……」

「……これは、もしかして、男性陣の中では二位通過では?」

「……い、いやいや、それは困ります! エンペラー系列以外の彼らが最終選考を通過するのは⁉」


 審査員が揉めていたのは、意見が真っ二つに割れていたから。

 ライタ組を通過させるか、させないか。

 意見が両極端になっていたのだ。


(なるほど、そういうことか。それは確かに揉めるよな……)


 アイフェスは《エンペラー・エンターテインメント》が主催するサバイバル・オーディション。

 色んな事務所のアイドルでも、参加は可能な開かれたオーディションだ。


(エンペラー系列への忖度(そんたく)……か)


 だが今まで一度も『エンペラー系列以外の“男性”参加者が、最終選考を通過したこと』はない。

 付け加えるなら、前世の歴史的の未来でも、その例外は崩されたことはなかった。


 つまり外様であるライタ組は、“大人の事情”で最終選考を通過は不可能。

 スポンサーや主催の意図は絶対なのだ。


「……それは、そうですが、あのパフォーマンスを見せられたら……」

「……ですよねー。無理やり捻じ曲げても、視聴者も納得が納得しないのでは?」

「……いやいや! 何を言っているんですか、あなたたちは⁉ このアイフェスはエンペラー系列が……」


 だが審査員はまだ揉めていた。

 忖度を無視してでも、真っ二つに意見が分かれていたのだ。


『相田シンスケを中心に高いパフォーマンスを発揮したライタ組を、通過させた方がいい派』

 VS

『エンペラー・エンターテインメントの真意をくみ取って、ライタ組を落とすべき派』

 で平行線を辿っていたのだ。


(たぶんオレたちは落ちるとは思うけど、業界も大変そうだな……)


 芸能界は実力だけは生き残ってはいけない世界。

 アイフェスは外様アイドルが最終選考を通過できないことを知っているオレは、審査員席のごたごたを静かに見守ることにした。


(ん? あれは?)


 そんな時だった。

 真っ二つに割れている審査員席に、誰かが近づいていく。


(あの人は……帝原キョウスケ)


 審査員席に近づいていったのは長身のスーツの男性。

 《エンペラー・エンターテインメント》の社長である帝原キョウスケだ。


(もしかして審査員席のごたごたを見かねて、“鶴の一声”をかけてきた、という訳かな?)


 アイフェスの主催はエンペラー・エンターテインメントであり、帝原キョウスケは裏の権力者として絶大な権力を有している。

 あの男が発した一言によって、アイフェスでは白が黒にもなる。


 ごたごたしている審査員を見かねて、裏方から出てきたのだろう。


「……み、帝原さん、どうして、ここに⁉」

「……す、すみません、ご足労をかけてしまい……」


 絶対的な権力者の登場、審査員も内輪もめを止める。

 誰もが口を閉じて、帝原キョウスケの一言を待っていた。


(あの男が登場した、ということは、これでオレたちは落選が確定するのか)


 エンペラー系列のドンである彼が、外様のオレたちの味方にすることはないだろう。

 恐ろしいほどにビジネルライクな帝原キョウスケは、冷酷な鶴の一声を発するに違いないのだ。


「……私は特に意見を申しにきた訳ではありません。ただ、今の彼らは……その感想を伝えに来ただけです」


 帝原キョウスケの最後の方は死角になり、読唇術でも読み取れないが、ライタ組に関して何か感想を言っている様子。


「「「……わ、分かりました!」」」


 絶対権力者の言葉に、審査員たちは即座に返事をする。

 今の言葉を鶴の一声として受け取ったのだろう。


「……それでは、行ってきます!」


 審査員の総意は決まった。総合プロデューサーは慌てながらステージ上に移動していく。


「えーと、みなさん、大変お待たせいたしました。それでは、これより、最終選考の通過者の発表をいたします!」


 司会からマイクを受け取り、カメラに向かって口を開き始める。

 最後に少しだけゴタツイいたが、最終選考を通過者が発表タイムとなるのだ。


 ざわざわ……ざわざわ……


 いよいよ運命の発表タイム。

 オレたち参加者もステージ上に移動。横一列に整列して、発表タイムを待ち構える。


「まず女性陣の通過者は……」


 女性陣の通過者の名前が、総合プロデューサーから呼ばれていく。

 名前を呼ばれた者は自動的に、最終日のステージに立つことが確定となる。


「まずは加賀美エリカ!…………鈴原アヤネ!…………大空チセ!…………」


 オレに知り合いの三人娘は無事に通過。

 最終選考のステージでも実力を発揮していたので、誰もが納得な通過だろう。


 それでも、チーちゃんは『やった! 本当に嬉しい……』と大粒の涙を流している。

 この一週間の強化合宿では本当に頑張っていたので、心から嬉しいのだろう。


 あとエリカさんは『ふん。当たり前の結果ですわ』とクールにしているが、誰にも気がつかれないように小さくガッツポーズで喜んでいる。

 モデルからアイドルに挑戦してきた彼女は、きっと誰よりも不安だったのかもしれない。


 最後にアヤッチは『うん、よかった』と相変わらず無表情だけど、とても嬉しそうにしている。

 彼女がアイドルに一生懸命なのは、前世から知っているだけに、オレも感慨深い光景だ。


(三人とも合格か……本当に良かった)


 アイドル活動に本気で向き合ってきた女子三人の通過。自分のことのようにオレも嬉しくなる。


「……えーと、次は男性陣の通過者は……まずは春木田マシロ……」


 総合プロデューサーの口から、男性陣の名前が出されていく。

 最初に呼ばれたのは、六英傑の一人の春木田マシロ。

 今回も間違いなく満場一致の一位通過なのだろう。


 でも春木田マシロは『…………』と、通過したのは当たり前といった感じで、特に喜んだ様子はない。


 そればかりか『さっきのステージ……やっぱりキミは面白いね、ライッち』と、オレの方を見返してきて視線が合ってしまう。


 あわわ……これは怖い。

 オレは慌てて視線を外し、総合プロデューサーの発表に耳を傾けることにした。


「次は……」


 男性陣も次々と通過者の名前が発表されていく。

 春木田マシロと同じグループに人たちは、オレの予想通り通過していた。

 彼らは最初から実力が高く、更に春木田マシロと同じエンペラー系列の所属。通過も納得な発表だ。


「……えーと、次は……」


 総合プロデューサーは次の発表のために、ひと息をつく。

 今までの感じ的に、男性陣で通過できるのは、あと4、5人だけだろう。

 残された男性陣の緊張が更に高まる。


「……相田シンスケ!……植草エイル!……江良アオイ!……」


 おお、なんと⁉


 相田シンスケたち熱血三組の名前が呼ばれた。

 最終日のステージに彼らも立つことができたのだ。


 ザワ……ざわ……ざわ……


 会場がざわつくように、これはすごく快挙なこと。


 何しろアイフェスの歴史上はじめて、エンペラー系列外の男性アイドルが最終選考を通過したのだ。


「ま、まじで⁉」

「オ、オレたちが⁉」

「本当なのか⁉」


 相田シンスケたちは信じられないような顔をしているが、本当だよ、三人とも!


 通過できないオレの分まで、最終日の生ライブ、頑張ってきてね。必ず応援として見にくるから!


「……そして、最後に市井ライタ。以上が最終選考の通過者です!」


 だが最後に更なるサプライズは発表。“市井ライタ”の名前が呼ばれたのだ。


「ん? へっ?」


 まさか呼ばれるとは、思っていなかった。

 オレはステージ上で変な声を出してしまう。生ライブ配信のマイクにものってしまったかもしれない。


(マジか⁉ オレ、通過できたのか⁉ でも、どうして⁉)


 だがオレはそれを気にするどころではない。


 まさかの通過に驚きと混乱。


『市井ライタ』という同姓同名の参加者が、他にはいないから、今度は疑う余地もない。

 オレはファイナリストとして、最終日のステージに立つことが許されたのだ。


 でも、どうしてオレが合格を?

 というか帝原キョウスケの鶴の一声で、ライタ組は落とされたのではないのか?


「えーと、以上の通過者の皆さん、おめでとうございます!」


 だが訳の分からまま発表は終了。

 総合プロデューサーによって最終選考の回は締められていく。


「そして一週間後のライブを楽しみにしておいてください!」


 こうして観客を入れた生ライブに向けて、オレは後戻りできない状況になるのであった。


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