第65話:アイドルの喜び
アイフェス最終選考が開幕。
オレたちはチャレンジャーとしてステージに挑む。
「……それでは最後のグループの登場してください。“ライタ組”です!」
司会者の紹介で、オレたち四人はステージの中央に進んでいく。
それにしても“ライタ組”とは、いったいいつの間に登録されていたのだろう?
相田シンスケたち三人が前に、スタッフに何か報告していたのは、もしかしたらグループ名の登録だった?
(ふう……グループ名がオレの名前とは、かなり恥ずかしすぎるけど、今は集中するしかない……)
だが深呼吸して、気持ちを切り替える。
何しろ最終選考は一曲発表の一発勝負。本番と同じように集中しないといけないのだ。
「……それでは、ライタ組です!」
――――♪~♪
司会の合図で、アイフェスの今年の課題曲が流れていく。
オレたちは曲に合わせてステージに移動。
フォーメーションを組みながら、歌い踊りだしていく。
(よし、出だしは、いい感じだぞ!)
オレ以外の三人も緊張した様子はない。
順調に課題曲を明快に歌い、軽快に踊っていた。
(この課題曲……約四分間が、まさに勝負だな……)
今年のアイフェスの課題曲は、約4分のスタンダードなアイドルソング。
前半と後半に盛り上がる山場あり、曲としての見せ場でもある。
ダンスも基本的な動きは決まっているが、アレンジするのは各グループで自由。
つまり基本は忠実に守りながら、どう魅せるかが、各グループのアピールポイントなのだ。
(さて、そろそろ前半の山場に入るけど、ところ三人の動きは……?)
相田シンスケたち三人の動きと歌をチェックしていく。
ちなみに『アイドルの振り付けと歌をすぐに覚えられる特技』がオレにはある。そのため自分も踊りながら、他にも気を配る余裕があるのだ。
(うん……三人とも基本に忠実で、順調な滑り出だぞ!)
彼らはほどよく緊張しているが集中力は切れていない。
むしろモチベーションは高く、練習以上のパフォーマンスを発揮していた。
おそらくこれは先ほどの春木田マシロとのやり取りで、逆に三人の闘志に火がついたのだろう。
良い意味で三人とも燃え上っていた。
(よし、いい感じだぞ! このままいけば、三人のベストパフォーマンスは発揮できそだぞ!)
アイドルグループの歌はある意味、集団競技にも似ている。
基礎技術と能力も大事だが、グループ内の連携も重要。
互いの想いがシンクロしていることで、グループとしての高い輝きを発揮できるのだ。
(もうぐ後半の山場か……うん、いいぞ! シンスケ君を中心に、いい感じにアガってきたぞ!)
うちのグループのセンターポジションは相田シンスケで、彼を中心にして他の二人が展開している。
ちなみにオレは二列目としてサポートしてフォーメーションだ。
本当は『ライタがセンターをやってくれ!』と三人とも前から言ってきたのだが、オレは丁重に断りっていた。
何しろオレには華がないからね。
(出だしも、フォーメーションも順調だな! 予想以上に、いい感じだな、これは。それに、なんか、オレも気持ちい良いな……)
歌い踊りながら、不思議な感覚になってきた。
何とも言えない高揚感に包まれてきたのだ。
(もしかしたら……これがアイドルの?)
今までアイドルを応援して、“アイドルを推す”ことをオレは専門にしてきた。
今回も“アヤッチと距離を近づけるため”に、手段としてアイフェスに参加していた。
(ああ……アイドルって、推して見ているだけじゃなくて……もしかしてアイドル自身も、こんなに楽しいも、だった?)
でも今になって気がつく。
自分がアイドル活動にハマっていたことに。
心の通い始めた仲間たちと、こうして歌って踊ること興奮。今までになく高揚感を感じていたのだ。
(アイドル活動……うん、楽しいな……これは本当に楽しいぞ!)
高揚感は更に高まり、集中力は一気に高まっていく。
アイドル活動をする喜びが全身から込み上げてくる。
身体の奥底から、爆発しそうなエネルギーが溢れてきたのだ。
(あっ、いいことを思いついたぞ! “これ”をもっと爆発させて、4人で高まってみよう!)
オレは三人をサポートしながら、パフォーマンスのギアを上げていく。
グループのいる段階を、今よりも高い次元に上げてみる。
「「「……⁉」」」
いきなりギアが上がったので、三人とも驚いた顔になる。
『ライタ、いったい何をしでかしたんだ⁉』という顔で、オレの顔をチラりと見てきた。
だからオレも目線で答える。
(みんな大丈夫だよ! ちゃんとサポートしていくから! さぁ、4人でもっと上にいこう!)
アイドルユニットはチーム戦。
集中力とサポート力を高めていけば、練習以上のパフォーマンスを発揮できるはずなのだ。
「「「‼」」」
オレの意思が通じのだろう。
三人とも上げたギアに乗ってこられた。
ライタ組のパフォーマンスは、先ほどのよりも一段階アガれたのだ。
(うん! いい感じだよ、みんな! 本当にアイドルは……楽しいね! よし、もういっちょう行ってみよう!)
あまりの嬉しさにオレは、さらにギアを一つアップ。
三人を底上げするように、パフォーマンスを上げていく。
「「「⁉ ⁉」」」
三人はまた驚いた顔になる。
『お、おい、さすがこれ以上は無理だぞ、ライタ⁉』という顔で、オレの顔を見てきた。
だからオレも目線で答える。
(いや、みんななら大丈夫だよ! オレが後押するから、4人でもっと上にいこう!)
たとえるなら、宇宙ロケットのように、底からブーストをかけて持ち上げていくイメージ。ライタ組のパフォーマンスを、オレは加速させていく。
「「「!⁉」」」
三人はもはや自分の身に何が起こっているか、理解できずにいた。
だが今まで感じたことがない高揚感に、動揺はせずにオレについてきてくれる。
(みんなありがとう! グループで燃え上っていく興奮……ああ、これがアイドル活動なのか……)
アイドル業界は決して良いことばかりではない。
ほとんどのアイドル志望者はメジャーデビューできず、強い光を浴びることはない。
だがアイドルを目指す若者は決して減ることはない。
その理由が今、なんとく分かった気がする。
(アイドルって、こんなに楽しいことだったのか。“みんな”の気持ちが、ようやく分かったよ!)
スポットライトを浴びる、アイドルは麻薬にも似た高揚感がある。
チーちゃんやアヤッチ、エリカさんたちがアイドルを目指している気持ちを、ようやく理解することができた。
(よし、だんだんとコツが分かってきたぞ! これならアイドルの世界を、もう少し潜れそうだぞ! ――――ん?)
♪~~!
更に気合いを入れた、次の瞬間だった。
――――♪
気がつくと曲は終了。
オレたちは締めのポーズを取っていた。
課題曲の4分間が終わってしまったのだ。
(ああ……終わっちゃったのか……あっとういう間で、少し寂しいな……)
もう少し歌い踊っていたら、別の世界の扉を開けそうな予感がしていた。むしろ無限に歌って踊っていたい。
(でも制限時間は仕方がないな。楽しみは次の機会にとっておいて、今は……ん? あ、そういえば、選考の反応は⁉)
ふと思い出す。
今は最終選考の最中だったことに。
ステージ前の審査員席に、急いで視線を向ける。
彼らの反応で、だいたいの合否が読めるのだ。
(あっ……これは……!?)
だが審査員の反応は。
いや、他のスタッフを含む会場の反応は、予想に反したものであった。




