第64話:最終選考開幕
アイフェス最終選考が開幕。
課題曲の歌とダンスが、各グループから発表されていく。
「これがアイフェスの最終選考か。みんな、かなり気合が入っているな……」
自分たちの番は最後の方。
他のグループの発表を、オレはステージ横から観察していく。
「なるほど……やっぱり、各グループ、今日に向けて、かなり仕上げてきているな」
今回は男女四組ずつ、合計八組が今日まで強化合宿を行ってきた。
それぞれグループの歌とダンスが、一週間前よりもかなり強化されているのだ。
「そんな中でも、女性陣のアヤッチとエリカさん、チーちゃんの三組が、かなり急成長しているな」
彼女たちはそれぞれの組のリーダー格。
一週間前とは比べにものにならないほど、三組とも成長していた。
「男子三日会わずんば括目して見よ、っていうけど、彼女たちも、まさにそれだな」
実は彼女たち三人と、今週はランチ会を行っていない。
理由は三人の方から『最終選考が終わるまでは……』みたいな感じで言われたのだ。
彼女たちは互いにライバルとして意識していたのだろう。
その証拠に今週の総合レッスン中は、『あなたたち二人には絶対に負けませんわ!』『それは私のセリフです!』『わたしも負けないから』と火花をバチバチで飛ばし合っていたのだ。
三人は仲が悪い雰囲気ではなく、“何かの良きライバル”として互いに高め合っている様子だった。
「うん……三人とも凄い急成長だな。それにしても、やっぱりアイドルがグループの発表が華やかで最高だな!」
今回はステージ衣装ではなく、動きやすい運動着で発表となる。
だがアイドルステップを踏みながら、フォーメーションを組んで歌い踊る姿は、まさにアイドルのライブそののも。
アイドルオタクなオレとしては、これ以上ない眼福の光景だった。
「これに加えて、一週間後の本番では、これに照明や衣装が用意されて、たくさんの観客も入って、盛り上がるんだろうな……」
アイフェスの番組でもっとも盛り上がるのは、最終日の生ライブフェス。
百人サバイバル・オーディションに勝ち残った男女二組ずつが、四週間の全てを出しきり爆発させる瞬間。
もっともボルテージに最高潮になるのだ。
「このパフォーマンスの高さなら、女性陣の中ではアヤッチたち三人は、間違いなく残るだろうな……」
最終選考はグループ発表だが、個人能力が評価されるシステム。
そんな中で鈴原アヤネと大空チセ、加賀美エリカの三人は確実に突破できるだろう。
「それに比べて男性陣は、ほぼ全員が横並びの状態かな」
男性陣は4組中、現在2組の発表が終わっていた。
誰もが上位グループに近い能力に成長しており、二組とも個人とグループのレベルは高い。
甲乙がつけ難いハイレベルな戦いになっていたのだ。
「あっ……でも、横並びじゃなくて、“あの”春木田マシロがいたな」
現在ステージ上で最終発表をしているのは、春木田マシロ率いるグループ。
今までの男性2組とは比べものにならない、圧倒的なパフォーマンスを発揮していたのだ。
「うん、すごいな……やっぱり《六英傑》の一人か。この中でも頭二つくらい飛びぬけているな、彼は……」
春木田マシロは圧倒的なパフォーマンスを発揮し、ステージ上でキラキラと輝いている。
《天使王子》の名に恥じぬ笑みで、グループ自体を輝かせていたのだ。
「それに普段から想像できないよな、あの天使の笑みは?」
春木田マシロは周囲に大人がいない時、オレに対して危険な言動をとってくる。
だが今、ステージ上では別人のようなアイドルぶり発揮していた。
「なるほど……ある意味、アイドルのプロという訳か」
オンとオフの使い分け。
徹底した彼の変貌ぶりに、いつものは被害者なオレですら感心すらしてしまう。
「しかも、あの様子だと、まだ本気を出していないんだろうな?」
今は大事な最終選考だが、春木田マシロは本気を出してない。
オレ風に説明するなら『固有能力を発動させずに、高い能力だけで戦っている』感じなのだ。
あの基礎能力の高さに、彼の固有能力を発揮されたら、どうなるか? 想像もできない。
「とにかく、これで男性陣はこれで春木田マシロ組が、いち抜けだろうな」
最終選考は個人能力を評価されるが、春木田マシロ組はグループとしての精鋭ぞろい。
間違いなく春木田組は全員が通過するだろう。
「つまり、最終選考を通過できる男子グループは、残り一組だけ……か」
今までの各観察のデータをまとめて、その結論に至る。
残りは実質ひと枠。
つまり最後の発表になるオレたちは、上位組の二組を超える必要があるのだ。
「さて、次はいよいよオレたちの番か、準備をするか……ん?」
発表の準備をしようとした時、こちらに近づいてくる人物がいた。
「あれれ? 随分と深刻そうな顔しているけど、大丈夫かな、ライっち?」
やってきたのは春木田マシロ。
自分の出番を終えて、すぐさまオレに声をかけてきたのだ。
「せっかく新しいプレゼントを準備中なんだから、こんな所でコケちゃわないでよ?」
「……」
オレが動揺するのを見て、この男は喜ぶ。
だからオレはあえて集中してふりをして無視する。
「んー? 無視とか、随分と冷たいね? もしかして余裕がないのかな? まぁー、“そんな雑魚三人”と組んじゃったから、自業自得だね?」
「……雑魚だって?」
だがオレの仲間、相田シンスケたち三人のことを馬鹿にされて、オレは思わず反応をしてしまう。
自分のことは馬鹿にされるのは許せても、大事な仲間を馬鹿にされるのは許せなかったのだ。
「ふう……」
いけない、いけない。
今は大事な本番前だった。
深呼吸をして、再び心を落ち着かせる。
「あっはっはっは……やっぱり仲間のことになると、反応しちゃうんだね? でも、そいつらが雑魚なのは、ライッちなら分かっているはずだよね? どうして、そんなイケてない三人と組んじゃったのかな?」
隙を見せたオレに対して、春木田マシロは容赦ない追撃。相田シンスケたち三人に関して、かなり厳しい評価を下してきた。
「ふう……」
もはや我慢の限界だった
ここまで仲間のことをコケにされて、男として黙っていられない。
「たしかに、オレたち四人は、他のグループに劣っている部分もあるかもしれないね……」
指摘の通り、オレと熱血三人はルックスなどの能力は、たしかに他の男性陣に劣っていた。アイドルとして今風じゃないかもしれない。
「でも、アイドルにとって大事なのは、見た目や上辺だけじゃないはずなんだ! そんな中で、この三人は内に秘めたモノ……アイドル魂が誰よりも強いんだから!」
この一週間、相田シンスケたち三人の内なるものに、共同生活をしたことでオレは更に気が付けた。
彼らがアイドルに対して本気であり、常に真摯に活動していたのだ。
「だから……オレたちは輝ける! アイドルとして、最終日にステージに立つんだ!」
世間的にアイドルは“見た目”などの表面的なもので、判断されることが多い。
だがオレは信じていた。
アイドルが素敵なのは、表面的な部分だけじゃないことを。
日々の努力をして、ステージ上で個性的に輝くことも、アイドルの大事な要素だと信じているのだ。
「ライタ……お前は……」
大きくなったオレの声が、一緒に準備していた彼らにも聞こえていたのだろう。相田シンスケたち三人がやってくる。
「ライタ、お前は、そこまでオレたちのことを信じてくれていたのか……」
「くそっ……本番前だというのに、泣かせるじゃねえよ、この!」
「ああ……だが、お蔭で火がついたぜ!」
「“ライタ組”として、やってやろうぜ!」
彼らは深い感銘を受けていた。
オレの言葉を聞いて、アイドル魂に火がついたのだ。
「へー……相変わらず、面白い技を使うんだね、ライっちは? まぁー。それでも、最終選考に全員突破するには、足りないと思うけどね?」
一方で春木田マシロは冷淡に評価を下してくる。アイドル魂に火が付いても、熱血三人組の実力では厳しいと。
「うん、そうかもしれないね……」
たしかに春木田マシロの言いうとおり、アイドル活動は情熱だけはカバーできない。
「だからこそ、見せてあげるよ……アイドルの可能性を! オレたちのパフォーマンスを!」
こうして難関な最終選考のステージに、オレたちはチャレンジャーとして挑むのであった。




