第63話:戦いの場へ
アイフェス最終選考日の朝がやってきた。
最終選考の早朝、オレたち四人に事件が襲いかかる。
「み、み、みんな大変だ!」
最初に気がついたのは相田シンスケ。
熱血三組の中で一番大柄なリーダー格だ。
「ん? どうしたシンスケ?」
「屁でも漏らしたのか?」
相田シンスケはいつも状態を明るい正解。
またかと思い、残る二人も冗談で答える。
「いやいやいや、そんな冗談を言っている場合じゃないぞ⁉ バンガロー外を見てみろ!」
「えっ? 外?」
あまりに真剣なシンスケの顔に、オレたちは窓の外を確認してみる。
バンガローの前にいたのは数人のスタッフだ。
「ん? あれはスタッフさん? でも、どうして、こんな朝早くから来たんだろう?」
オレは首をかしげる。
アイフェスはリアリティー系番組だが、いつも撮影は集合場所から開始となる。
「しかもカメラも用意して?」
だが今はバンガロー前のスタッフか完全武装で待機。今まさに撮影をしようとしているのだ。
「おい、ライタ。何を寝ぼけたことを言っているんだ! あれはオレたち用の“密着カメラ”だぞ、間違いなく!」
「えっ? 密着カメラ? そんな、まさか⁉」
密着カメラはリアリティー系番組に多い手法。
スタジオからの撮影から開始ではなく、家や部屋などから生活を密着していくスタイルだ。
密着系は人気があるコンテンツだが、スタッフの手間と予算もかかる。
リアリティー系番組の中では主役級の出演者にしか許されない、特別な撮影方法なのだ。
もちろんアイフェスが開始されてから、オレたち四人の誰も密着をされてはいない。
「でも、どうして、オレたちのところに来たんだろう⁉ もしかして最終選考で落選する用の密着カメラとかなか?」
「落ち着け、ライタ! とりあえず、スタッフに話を聞こう!」
リーダー相田シンスケの指示で、オレたちはバンガロー前の玄関に移動。事情を聞くことした。
「……あっ、四人ともおはよう。今日は実は……」
スタッフから説明を聞いていく。
説明の内容は予想していた通り、『オレたち四人に今日一日密着カメラがつく』という話だった。
「……いやー、当日でいきなりごめんね。上からの指示でさ。もちろん、四人の事務所には話は通してあるけど、キミたち自身は大丈夫かな?」
今回の密着は急きょ決まったものだという。最終的な本人確認をされる。
「ちょっと、待ってください」
相田シンスケは答えを保留。オレたち全員でどうするか、話し合うことにした。
「おい、どうする? 受けるか?」
「これで知名度を上げるメリットは大きいが……実際のところデメリットもあるよな?」
「ああ、そうだな。迷うな……」
三人は悩んでいた。
何しろ密着カメラを受けて、今日の最終選考で落選したら目も当てられない。
全国的に“敗戦者”としての負のイメージがついてしまうからだ。
今後の仕事を考えたら、密着を受けないことも、有りなのだ。
「こうなったらリーダーに決めてもらおうぜ?」
「そうだな。リーダーが決めてくれたことなら後悔はないからな」
最終的にリーダーに委ねると、三人は結論を出す。
「……という訳で、ライタ、お前が決めてくれ」
「お前の決定なら後悔はないぞ、ライタ!」
だが何故か三人の視線は、こっちに向けられている。
“まるでオレがリーダー”であるような雰囲気だ。
「へっ? どういうこと? リーダーって?」
「そっちこそ何を言っているんだ、ライタ?」
「オレたち四人グループのリーダーは、お前だろう!」
「ああ、そうだぜ! ライタ以外にはあり得ないだろう!」
「この一週間、このグループを引っ張ってきたのはライタだろう!」
なんと、いつのまに三人の中で、オレがリーダーということになっていた。冗談とかではなく三人とも本気の顔だ。
とてもリーダーを断われる雰囲気ではない。
「そ、そうだったんだ……よし、それなら密着カメラは受けてみようよ! 虎穴に入らざれば虎子を得ず、って言うしさ!」
リーダー(仮)として決定をくだす。
たしかに落選した時、密着カメラにはデメリットはある。
だが三人の努力してきたことは、この一週間組んでいたオレが一番知っている。
今日の最終選考で実力を発揮できれば、ワンチャンス通過もあるのだ。
「よし、それなら密着カメラ受けようぜ!」
「ああ! 下馬評を覆して面白くしてやろうぜ!」
三人も同意してくれた。
こうしてオレたち四人組は密着カメラを受けることにした。
◇
慣れない密着撮影されながら、オレたちは集合場所へ移動していく。
今日はこれから最終選考のスケジュール。
参加は全員、リゾートホテルの中庭に集合するのだ。
「ん? あれは……ステージだ?」
リゾートホテルの中庭には、架設ステージがセッティングされていた。
一週間前には影も形もなかったが、いつの間にか設営されていたのだ。
「あんな本格的なステージがどうして? ああ、そうか。最終選考は、あのステージで行うんだったな」
アイフェスの最終選考は、各組によるライブ発表による選考方式。
課題曲を歌って踊ることで、個人評価がされていく形式なのだ。
ちなみに来週末の観客を入れた生ライブフェスにも、この架設ステージは使用される。
フェスの飾りつけは未完成だが、ステージや音響は完成済みで本番さながらだ。
「あのステージで、一発勝負のグループ発表……か」
「絶対に仲間のためにも失敗はできないな……」
「ああ、今さらだが緊張してきたな……」
本番さながらステージを目の前にして、三人とも言葉を失っていた。
最終選考は個人能力評価されるが、発表はグループ単位となる。
つまり、いくら個人的な能力が高い者がいても、グループ全員の発表が失敗したら、個人の評価もガタ落ちてしまう。
最終選考で重要なのは、グループとして絶対に失敗しないことなのだ。
「せめてライタだけでも通過させないとな……」
「ああ、そうだな。ライタは本物だからな……」
「オレたち三人は無理でも、ライタだけでも……」
三人は何故か団結して、オレに対して気を使っている。
だが、かなり硬い雰囲気。このままでは最終選考でもミスしてしまう危険性がある。
「ねぇ、みんな。そんなにオレに対して、気負わなくても大丈夫だよ!」
だからオレは自分の想いを伝える。
「ほら、だってオレは、こんな奴だし? なんの期待もプレッシャーもない男だし、今日は気軽にいこうよ!」
過度な期待を背負った時、人は負のプレッシャーを受けてしまう。
だが期待すらなければ、最初からプレッシャーを受けることも無くなるのだ。
「オレは絶対この四人で通過したい! だから全員で互いを高めていこうよ!」
そしてグループ発表で大切なのはチーム団結。個人として戦うのではなく、どれだけ献身てきに動けるかが大事なのだ。
「過度な期待を考えず、全員で互いを高めていこう、か……」
「たしかに、ライタの言うとおりだな」
「そうだな。密着カメラがついていて、自分らしさを見失うところだったぜ!」
「よし、やってやろうぜ! 下剋上してやろうぜ!」
オレの激が効いたのか、三人のモチベーションが高まる。
彼らの長所である、いつもの熱血の火が戻ってくれたのだ。
(よし、いい感じの状態だぞ。今日は厳しい戦いになると思うけど、全てを出しきるぞ!)
こうしてアイフェス最終選考が開幕。
課題曲の歌とダンスが、各グループから発表されていくのであった。




